#44
それからしばらくの間、ミックスたちは他愛もない会話を続けた。
ミックスがジャズにこの国へ留学してみてどうか? とか。
ウェディングがミックスとジャズは付き合っているのかを本当のところを教えてほしい、とか。
その質問に大慌てした二人を見て、皆が楽しそうに笑ったりとか。
そんな時間をレストランで過ごした。
その後、店を出ることに決めた一行。
ジャズとウェディングは寮へ帰ると言い、クリーンは用事があるのでとミックスと共に二人を見送ることに。
「それじゃクリーン、またね。それからあんたも」
「うん。またなにかあればニコのことを預かるよ。そのときは前みたいにうちでご飯でも食べよう」
「だからぁ……そういうこというから誤解されるんだろうがッ!」
「ぎゃぁぁぁッ!」
ミックスは挨拶ていどにいったつもりだったのだが。
ジャズは彼の発言に顔を真っ赤にしてゴンッと頭突きを喰らわせた。
ジャズはその後にプンプン怒りながら、さっさとその場を立ち去っていく。
「な、なんで……俺がこんな目に……?」
たった一撃でボロボロになったミックスは、呻きながら不条理だと呟いていた。
「う~ん、ミックスせんぱいが乙女心を理解するのはとうぶん先みたいですね」
そんなミックスを見たウェディングは、嬉しそうにそういうと、ニコを抱いてジャズの背中を追いかけて行った。
残されたミックスは、頭の痛みから立ち直るとクリーンのほうを向く。
なんだかボーとしていそうだったが、その顔には笑みがこぼれていた。
「えーと、クリーンはこの後に用事があるんだっけ?」
クリーンは黙ったままコクッと頷くと、彼女の隣にいたスノーも同じように首を上下させた。
ミックスは思う。
こんな可愛らしい女の子が天ぷらうどんを三十杯以上も食べるとは。
あの量の麺は一体身体のどこに入っているんだろう?
(それよりも、その大食いのせいでの今月も節約しなきゃだなぁ……)
「あの……うどん、ごちそうさまでした」
ミックスが一人しょげているとクリーンが声をかけてきた。
彼女はお礼をいうと丁寧にその頭を下げ、スノーもそれに続いていた。
クリーンが頭を下げたため、彼女の白い髪がバサッと揺れる。
(キレイな髪だなぁ。真っ白で、まるで雪みたいだ)
ミックスはクリーンの髪を見ながら、顔を上げた彼女を見て思わず頬を染めてしまう。
よく見るとジャズやウェディングと違って、全く化粧っ気がない(二人もそんなに濃いメイクはしていないが)。
表情もどこかぼんやりとしていて、ぱっと見はどこにでもいそうな脱力系女子なのだが。
クリーンの持つ雰囲気には、どこか今にも消えてしまいそうな儚さがあった。
「いいよいいよ。でも、今回だけかなぁ。正直あんな量をおごり続けたら俺が破産しちゃうからね」
ミックスが少し照れながら返事をすると、クリーンはクスッと上品に笑った。
ジャズやウェディングも礼儀作法はしっかりしていたが、クリーンとはまた別だ。
きっとこの子は良いところのお嬢さんなのだろう。
こうして佇まいを見ているだけで、訓練ではなく生活から礼儀を重んじている――そんなことを思わせる仕草や態度である。
「って、こんなことをジャズの前でいったらまた頭突きを喰らいそうだけど……」
「どうかしましたか?」
「いや!? なんでもないよッ!」
慌てて誤魔化そうとするミックスを見たクリーンは、またクスリと上品に笑い、右手をスノーのほうへと伸ばす。
ミックスはそんな彼女を見て、なぜ手を伸ばしているのだろうと不思議に思っていた。
「でも、よかったです。話に聞いていた“適合者”さんがこんなに優しい人で……」
そう呟くように言ったクリーン。
すると、犬のスノーの身体が日本刀へと変化し、彼女の手へと握られた。




