#42
それから三人と一匹はジャズがいるファミリーレストランへと到着。
少し待たされたせいなのか、それとも校則違反の話がうまくいかなかったの、相変わらず不機嫌そうな顔をしているジャズと電気仕掛け仔羊ニコが店の出入り口の前に立っていた。
すると、今まで大人しくしていた真っ白な犬が、ニコに向かって飛び出していく。
そして、その身体を覆っている豊かな毛にじゃれながら嬉しそうに鳴いていた。
そのあまりのはしゃぎっぷりに、ニコも困っていそうだ。
「こらこら、ダメですよスノー。いきなり飛びつくなんてお行儀が悪いです」
それを見て、今まで静観していたウェディングの友人と思われる白い髪の女子学生が、そのスノーと呼ばれた白い犬をなだめる。
ミックスはといえば、そんな彼女と白い犬を見て首を傾げていた。
この子とこの犬は何者?
そんな表情で彼女たちを見ている。
「あれ? キミは……ニコの知り合い?」
ミックスがそう訊ねると、ジャズが彼に鋭い眼差しを向けた。
それでビクッと仰け反ったミックスを見たジャズは、次にウェディングのほうを向く。
「そんな怖い顔しないでくださいよ~。遅れたことはちゃんとあやまりますから~」
「そうじゃなくてさ。ウェディング、あんた。ちゃんとクリーンのことをこいつに紹介したのよね?」
ジャズに睨まれたウェディングは首を左右に振りながら、難しい顔をして思い出そうとしている。
「あれ~どうだったかな~? ごめんなさい、忘れてました」
「忘れてんじゃないわよッ! 今日だってクリーンがこいつに会ってみたいっていうからこうやって集まったんでしょうがッ!?」
どうやらジャズがいうに――。
ミックスをファミリーレストランに誘った理由は、この白い髪の少女に会わせるためだったようだ。
それからもジャズは、目的をすっかり忘れていたウェディングを注意した。
だが、彼女は悪びれる様子もなくのほほんとしている。
暖簾に腕押しとはこのことだと思ったジャズは、大きくため息をついてとりあえず店に入ろうと言った。
扉を開けたジャズに続いてウェディング、白い髪の少女――クリーン、そしてニコとスノーも店に入って行く。
「そういえばあの白い髪の子……。ずっと後ろからついて来てたもんな……。まあ、紹介をし忘れるってウェディングらしいけど……」
そう独り言を呟くと――。
乾いた笑みを浮かべたミックスは、彼女たちの後を追って店へと入った。
ちなみにジャズたちがよく来るこのファミリーレストランには、愛玩動物を連れて入ることが可能である。
それは店内に敷居を設け、ペットあり席とペットなし席で分けているからだ。
アフタークロエ以前から人口が少なったこの世界では、動物や動物型ロボを家族としている者が多いため、世界中でどの国でもこのようなエリア分けが当たり前にされている。
ミックスたちは当然ペットありエリアの席へ。
六人がけのテーブル席に座る。
「あ~お腹空いた~。早速ジャンジャン食べましょう!」
「いや、別に食べるのが目的でここへ来たじゃないから……。それに、今から食べると夕食が胃に入らなくなるわよ」
「ダイジョブダイジョブッ! 夜ごはんと午後のごはんは別腹なんですよ~」
「それ、別腹の使い方が間違ってない?」
ジャズの言葉を無視したウェディングは、テーブルから浮かび上がったバーチャル画面――タッチパネルで注文するメニューを眺め出していた。
ジャズもニコとタッチパネルを見せて、何を食べたいかを訊いている。
そんな中、クリーンだけは何もせずにただ浮かび上がったタッチパネルを見ているだけだった。
気になったミックスが彼女に訊ねると――。
「実は、エレクトロフォンの残金がもうないんです。だから何も頼めません」
申し訳なさそういうクリーン。
そんな彼女につられてか、犬のスノーまで心苦しそうに呻いていた。
バイオニクス共和国では通貨や紙幣はなく、すべてデジタルで支払いを行う。
基本的には誰もが持っている携帯端末――エレクトロフォンを使って料金を支払うシステムだ。
したがってエレクトロフォン内の残金がなくなれば、再び増やさないと何も買うことができない。
クリーンとスノーを見ていられなくなったミックスは、彼女たちの分は自分が払うから、いくらでも好きなものを注文するようにと伝えた。
「さっすがミックスせんぱい! クリーンも気にせずここはせんぱいにおごってもらいましょう!」
「ふん、相変わらず女の子に弱い奴……」
「まあまあジャズ姉さん。妬かない妬かない」
「なッ!? だれが妬いてるのよ! そういう誤解されるようなこと言うのやめてくんないッ!」
「いやいや、姉さんはいつも通りカワイイですな~」
ミックスの発言にムッとしたジャズをからかうウェディング。
その様子を見てクリーンはつい笑ってしまい、ニコを懐に抱いているスノーも喜びでワンと吠える。
そんな微笑ましい光景をミックスも見ていた。
(あまり無駄遣いはしたくないけど、まあファミレスの料理くらい大した額じゃないよね)
だが彼は、彼女におごると言ってしまったのを、これから後悔することになる。




