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その手に見えるは機械装甲  作者: コラム
37/948

#37

その後ミックスは、医者(いしゃ)には止められたが、すぐに自宅(じたく)療養(りょうよう)にすることにした。


それはウェディングの作ってくる巨大(きょだい)なホールケーキを(おそ)れ、(べつ)病気(びょうき)――糖尿病(とうにょうびょう)になりたくないこともあったが、何よりも入院(にゅういん)費用(ひよう)(はら)い続けるのが(きび)しかったからだ。


「ホントはもうちょっと入院していたほうがいいみたいだけど、お金は少しでも節約(せつやく)しなくちゃね」


包帯(ほうたい)だらけの痛々(いたいた)しい身体(からだ)を引きずり、松葉杖(まつばづえ)をついて自宅(じたく)である学校の(りょう)へと一人帰るミックス。


とてもじゃないが、彼はまだベットで()ていなければいけない状態(じょうたい)だ。


ミックスは一応(いちおう)病院(びょういん)の手続きをしてくれた担任(たんにん)教師(きょうし)のアミノや、間違(まちが)ってお見舞(みまい)い来ないようにとウェディングにも退院(たいいん)したことを連絡(れんらく)をしておいた。


時間が昼間(ひるま)だったこともあって、二人はまだ授業中(じゅぎょうちゅう)だったのだろう、返信(へんしん)はなかった。


それから仕事で共和国(きょうわこく)を出ている兄と姉にも連絡を入れようと思ったが、二人にいらぬ心配(しんぱい)をかけまいとやめておくことにする。


(とく)(いのち)危険(きけん)はなかったわけだし。(いそが)しだろうし。余計(よけい)連絡(れんらく)はやめておこうっと」


兄や姉の立場(たちば)からすれば、(おとうと)大怪我(おおけが)をしたことが余計なことなんてないはずなのだが。


ミックスはエレクトロフォンをポケットにしまって(ふたた)び歩き始める。


普段(ふだん)から真面目(まじめ)に授業を受けているミックスには、昼間の街並(まちな)みは目新(めあた)しかった。


「あッ、でもこないだアリアに連れていかれたときも見たから、初めてというわけじゃないか……」


無人(むじん)自動車(じどうしゃ)やどこか研究所(けんきゅうじょ)科学者(かがくしゃ)であろう白衣(はくい)姿(すがた)で歩いている人たちを見て、ミックスはそう(つぶや)いた。


そして、いつも見ぬ景色(けしき)(なが)めながらサイドテールの少女――ジャズ·スクワイアのことを考えていた。


ジャズと出会ってほんの数日しか経っていないというのに、もうずいぶんと昔のことのように思える。


ヘルキャットやアリア、ブロードのこともそうだ。


学校からに帰ってきたら突然(とつぜん)女の子か家にいただけでもおかしいのに、それがまさかテロ行為(こうい)を止めるためにまさか奮闘(ふんとう)することになるなんて――。今考えてもどうかしているとしか思えない出来事(できごと)だった。


あれは(ゆめ)みたいなものだったのか――と、ミックスが思っていると、前から自分と同じ学校指定(してい)作業用(さぎょうよう)ジャケットを着た学生の姿が見えた。


「ようミックス。アミノ先生から話は聞いていたけどよぉ。もう退院して大丈夫(だいじょうぶ)なのか?」


そこには同級生(どうきゅうせい)でクラスメイトのジャガーが立っていた。


相変(あいか)わらず(ねむ)たそうな顔をしていて、ボサボサ(あたま)()きながら大きなあくびをしている。


「うん、ちょっと早いけど身体のほうはもう大丈夫だよ。それに長く病院にいたら入院費もバカにならないからね」


「そこはケチらなくてもいいんじゃね? 兄さん姉さんからも十分(じゅうぶん)仕送(しおく)りもらっているって、前に言ってたじゃん」


「それでもやっぱり無駄(むだ)(づか)いはダメだよ。問題(もんだい)ないなら動かなきゃ。(おく)られてくる生活費は節約(せつやく)して少しでも貯金(ちょきん)したいし」


「お前……そんな考え方だと絶対(ぜったい)早死(はやじ)にするぞ……」


ミックスの常識(じょうしき)はずれな倹約家(けんやくか)ぶりに(あき)れるジャガー。


そんなにおかしいかなといった顔をしているミックスへ、ジャガーは口を開く。


「なんにしても元気そうで良かったよ。アミノ先生の話じゃ、女に()られて落ち()んでいるって聞いていたからな」


「だ、誰が落ち込むんだよ! あんなすぐに怒って料理もろくにできない人がいなくなったくらいで……」


ジャガーは(あわ)てて反論(はんろん)してきたミックスを見て、ニカッと笑みを()かべていた。


それからミックスの(かた)をポンポンと(たた)くと、手をグッと前に出して親指(おや)()き立てる。


気性(きしょう)(はげ)しくてメシマズ属性(ぞくせい)なんて、最高(さいこう)()要素(ようそ)じゃねえかッ!」


「……それのどこが萌え要素なの?」


ジャガーは、理解(りかい)できないといったミックスを無視(むし)して、一人両腕(りょううで)を組んでコクコクと(うなづ)きだす。


ミックスはこの眠たそうな顔をした友人とは、なんだかんだで付き合いが長いが、(いま)だによくわからないことを言うなと思っていた。


「うんうん、女ってのはそうでなきゃな。完璧(かんぺき)さやおしとやかさの(うら)にある、なんつーかこう、多面体(ためんたい)ってやつ? これぞ萌えだと(おれ)は思うね」


「あっそう……。じゃあ、俺は帰るね。ジャガーも学校くらいちゃんと行きなよ。あんまりサボってばっかりいると、アミノ先生が泣いちゃうよ」


「アミノ先生のすぐに泣くとこも萌えだよな~。そんな先生がつい見たくなってしまい、俺は今日も学校をサボるのだ」


「……じゃあね」


ミックスは(つめ)たくそういうと、松葉杖を使って歩き出した。


そんな彼の(うしろ)し姿を見ながらジャガーは(つぶや)く。


(よろこ)べよ親友(しんゆう)。お前のために俺も少しは口添(くちぞ)えしたんだぜ」


そして、ジャガーはまた大きなあくびをしながら、ミックスとは(ぎゃく)方向(ほうこう)へと歩き出すのであった。

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