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その手に見えるは機械装甲  作者: コラム
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38/948

#38

ジャガーと別(わか)れたミックスは、ぼんやりと考え事(ごと)をしながら自宅(じたく)である寮(りょう)へと向かっていた。


その考え事とは、ジャズと出会ってからのことだ。


ジャガーにはああいったが、やはり彼女のことが気になってしょうがない。


しかし、考えれば考えるほどに悲(かな)しい、虚(むな)しい、そして何よりもりは寂(さび)しい……。


もうこのままジャズとは会えないのだろうか。


ミックスはそんなことばかり考えてしまう。


「でもまあ、こんなもんだよね……ハハハ……」


彼はそう思いながら乾(かわ)いた笑みを浮(う)かべながら歩いていると、自宅の寮に到着(とうちゃく)。


そこで自宅の扉(とびら)の前に、どこかで見たことある毛むくじゃらの生き物の姿(すがた)が目に入る。


二本の足で立ち、豊(ゆた)かな白い毛で覆(おお)われたウシ科(か)の動物(どうぶつ)ロボット――。


それは、ジャズにプレゼントした電気(でんき)仕掛(じか)けの仔羊(こひつじ)ニコだった。


「ニコ……? お前なのかッ!?」


ミックスが呼びかけると、ニコは嬉(うれ)しそうに彼の身体(からだ)に抱(だ)きついてきた。


そして、その喜(よろこ)びを表(あらわ)すように鳴(な)いている。


ミックスは松葉杖(まつばづえ)を捨(す)て、そのフワフワの身体を抱き返す。


「ジャズと一緒(いっしょ)に帰っちゃったかと思ったよ。お前は残(のこ)ったんだな」


ミックスがそういうと、ニコは何かを思い出したようにハッとし、彼の手を引き出して早く自宅へ入るように急(せ)かし始(はじ)める。


何をそんなに慌(あわ)てているのかわからないミックスは、やれやれと笑顔で自宅の扉に鍵(かぎ)を挿(さ)す。


「あれ、ドアが開いてる……。閉め忘(わす)れかなぁ?」


ミックスは家を出たときにたしかに鍵はかけていたはずなのだがと、ドアノブに手をかけてニコと共に中へと入った。


玄関(げんかん)にはどこかで見たような軍用(ぐんよう)の編(あ)み上げブーツがある。


「これって……?」


ミックスが両目(りょうめ)を見開(みひら)いていると、ニコがはしゃぎながら中へと走って行く。


彼がそんなニコを目で追(お)って顔を上げると――。


「おッ、ずいぶんと早い退院(たいいん)じゃん。身体はもう大丈夫(だいじょうぶ)なの?」


そこにはサイドテールの少女――ジャズ·スクワイアが立っていた。


ミックスは何故彼女が自分の家にいるのかが、わからないでいた。


「えッ!? ジャ、ジャズがなんでッ!? うわぁぁぁッ!」


そして、慌(あわ)てたせいでバランスを崩(くず)し、その場に倒(たお)れてしまった。


ジャズがそんな彼を見て呆(あき)れながら近寄(ちかよ)ってきていた。


いつの間(ま)にかジャズの後(うし)ろへと回(まわ)っていたニコも、そんな彼女の真似(まね)をしてか、大きくため息(いき)をついている。


「人のことをオバケでも見たみたいに驚(おどろ)かないでくれる?」


「だって、てっきりジャズは国へ帰っちゃったのかと……。それに、その制服(せいふく)は……?」


いつものミリタリールックとは違(ちが)い。


学生服(がくせいふく)姿(すがた)のジャズは、下から見上げているミックスに手を差し伸(の)べた。


ミックスは、未(いま)だに信(しん)じられないといった表情(ひょうじょう)のまま、差し出された彼女の手を握(にぎ)る。


「実(じつ)はいろいろあってね。あたし、共和国(きょうわこく)に帝国(ていこく)からの留学生(りゅうがくせい)として住(す)むことになったから」


ジャズが言うに――。


彼女がブロードたちのテロ行為(こうい)を止めたことにより、バイオニクス共和国でストリング帝国の強硬派(きょうこうは)の動きを牽制(けんせい)する役目(やくめ)に任(にん)じられたそうだ。


留学先の学校は、ウェディングが通(かよ)う共和国の中でも優秀(ゆうしゅう)な者しか入れないエリート校。


小学校から大学までエスカレーター式(しき)であるため、ジャズは高等部(こうとうぶ)に編入することになり、中等部(ちゅうとうぶ)のウェディングとは先輩(せんぱい)後輩(こうはい)の関係(かんけい)となる。


「そういうわけで、しばらくこっちに住むことになったから、あんたには挨拶(あいさつ)くらいしとこうかと思ってね」


少し照(て)れながらいうジャズ。


顔を背(そ)けながらも、チラチラとミックスの反応(はんのう)を見ていた。


「ジャズ……」


ミックスはその身を震(ふる)わせていた。


それからゆっくりとその顔をジャズの顔へと近(ちか)づけてくる。


「ちょ、ちょっとあんたッ!? 何をする気よッ!?」


ジャズは口では嫌(いや)がっているようなことを言っても、けしてミックスのから離(はな)れようとはしなかった。


むしろ待っている――そんな感じだ。


そしてジャズは覚悟(かくご)を決めたような顔をして両目(りょうめ)をつぶった。


(あれ、まだなの? こっちはもう腹(はら)をくくっているのに……?)


彼女がそう思っていると、ミックスは突然(とつぜん)大声を出し始(はじ)める。


「人の家に勝手(かって)に入ってなにやってるんだよッ!」


「えッ……?」


「まったく俺(おれ)がまだ入院(にゅういん)していたらどうするつもりだったんだ。それと帝国ではどうか知らないけど、共和国では他人(たにん)の家に無断(むだん)で入るのは犯罪(はんざい)なんだからね」


勢(いきお)いよく怒鳴(どな)ったミックスだったが、その顔はジャズを見た瞬間(しゅんかん)に青ざめることになる。


「あんたって奴(やつ)は……」


「あれ……? ジャ、ジャズさん? 今は俺が大事な話をしていたところなんだけなぁ……」


「そんなこと知ってるわよッ!」


「ギャァァァッ!」


プルプルとその身を震わせたジャズが顔を上げると、ミックスの額(ひたい)に頭突(ずつ)きをお見舞(みまい)いした。


ミックスはあまりの痛(いた)みに、その場で額を押さえながら悲鳴(ひめい)をあげている。


「ふん、勝手(かって)に入ってすみませんでした。それじゃあたし、帰るから」


「ちょっとジャズ!? なんで怒(おこ)ってんだよッ!?」


「別に怒ってないよ、バカミックスッ! さあニコも帰ろう」


ジャズはニコを抱くと扉をバタンと強烈(きょうれつ)に閉じ、そのまま帰っていった。


残(のこ)されたミックスは何が何だかわからずにいたが、何故か嬉(うれ)しそうに呟(つぶや)く。


「でもまあ、こんなもんだよね……ハハハ……」


いつもの彼の口癖(くちぐせ)が出たが。


その表情は普段(ふだん)の乾(かわ)いた笑みとは違って、とても満(み)たされた笑顔だった。

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