#17
ミックスは力づくで足を退かして立ち上がる。
それでもアリアは彼と間合いを取ろうとはしなかった。
取っ組み合いになってもミックスを倒す自信があるのだろうが。
それ以外にも何か理由がありそうで、彼から離れずに一定の距離を保っていた。
訊ねても答えないアリアへミックスは言葉を続ける。
「その気になれば俺なんか簡単に殺せるだろ? それなのにどうして殺らないんだよッ!?」
「それは先ほど申したでしょう。あなたにはジャズちゃんを……」
「友だちのことを考えるなら、今すぐテロなんかやめなよ!」
ミックスが叫び返すとアリアの無表情が崩れた。
彼女は忌々しそうな顔で、目の前にいる彼のことを睨みつけ始める。
だが、それでもミックスは退かない。
アリアの鋭い眼差しを真っ直ぐに見返す。
「キミにはまだ友だちのことを考える優しさがあるんだろッ!? なら、どうしてその友だちが悲しむことをするんだよッ!?」
それからミックスは、ジャズがどんな思いでバイオニクス共和国へ来たのかを話した。
ヘルキャットとアリアを止めるために行動したが、自国の強硬派にうやむやにされ――。
慎重派である上司の言うことも聞かずに、一人勝手に飛び出してきた。
あの真面目で頑固そうな彼女が、上からの命令を無視してまで友人を止めようとしているのだ。
それなのに、どうしてジャズの気持ちがわからないのだと。
ミックスの言葉を聞いたアリアは、震えながら後ずさりしていた。
彼女もわかっていたのだろう。
ジャズがけして命令違反をするような人間ではないことを。
そこまで自分たちのことを想ってくれているということも。
「まだ間に合うよ! 今からもうひとりの子を説得して、アーティフィシャルタワーの破壊なんてやめてジャズと一緒に国へ帰るんだ!」
「あなたになにがわかるんですか……」
アリアはそう返事をすると、身体を振り回してミックスの側頭部へ蹴りを見舞う。
遠心力の付いた凄まじい回し蹴りを喰らったミックスは、その場から吹き飛んでいった。
「戦争も知らず……共和国でのうのうと暮らすあなたに……。私たちのなにがわかるんですかッ!?」
倒れているミックスへアリアは叫んだ。
それは、今までの冷静な彼女とは思えぬほどの激しい心の叫びだった。
「ヘルキャットもジャズちゃんも……私の大事な友人なんです! どちらかを選ぶなんてできません! だから……私は……」
アリアは今にも泣き出しそうなほど目に涙を溜めていた。
そして彼女は、これまで内に秘めていた想いを吐き出し始める。
ヘルキャットは両親を七年前の戦争で失い、帝国と共和国の和平協定後に軍へと入隊した。
元々事情があったアリアはすでに軍に入っており、二人はそのときに出会う。
そして、当時内気だったアリアにはジャズくらいしか話し相手がいなかったが、ヘルキャットのおかげで他の仲間とも打ち解けるようになったようだ。
それでも三人はいつも一緒で、それがずっと続くことをアリアは願っていた。
だが、ヘルキャットは強硬派へと参加したことで、すべてが狂っていった。
慎重派だったジャズとは疎遠になり、同世代の仲間たちは全員、強硬派へと参加したヘルキャットのことを批判するようになった。
今までの友人から孤立してしまったヘルキャットのことを、アリアは放っておけず、彼女と共に今回の作戦を行うことになる。
しかし、彼女はジャズが追いかけてきているとは思わなかった。
自分はいい。
もうヘルキャットと共に死ぬ覚悟はできている。
一緒に地獄へ行こうと約束をしたのだ。
それはヘルキャットも同じだ。
だが、ジャズは違う。
彼女まで死ぬことはない。
いや、ここで彼女に死んでほしくないのだ。
だからこうやって、ミックスへお願いしようとしていたのだった。
「少し話し過ぎましたね……。でも、話せてすっきりしました。それだけは礼を言います。あと……ここでのことは忘れてください」
そして、アリアは冷静さを取り戻し、その場を去ろうとしたが――。
「ちょっと待ってよ……」
倒れていたミックスが、ゆっくりと立ち上がって来るのだった。




