#13
結局――。
ミックスはジャズを泣かせたことをアミノに説教をされただけで、詳しいことは何も訊かれなかった。
それは、女の子を泣かせたことを怒って忘れてしまったのか。
それともアミノが気を遣ったのかはわからないままだったが、ミックスたちはそのまま彼女のアパートで一泊することになった。
なんとか事情を話さずにしようとしていたミックスとってはよかったことだったのだが、これからに起こることを考えれば、アミノへ伝えていたほうがよかったのかもしれない。
次の日の朝――。
ミックスが目を覚ますと、布団にはまだ眠っているアミノとニコの姿が見えた。
昨夜には、たしかジャズも彼女たちと同じ布団で寝たはずなのだが。
「まさかジャズの奴ッ!?」
慌てて飛び起きたミックスが玄関に走ると、台所から声をかけられる。
「おっ、やっと起きたか。待ってなさい。今、朝ご飯出すから」
「なんだ……ちゃんとここにいたのかよ……」
「むっ、なによ。あたしが台所にいちゃまずかったの?」
「そんなこといってないだろ。なんでそうすぐに怒るかね」
「別に怒ってなんかないじゃん」
「その態度がすでに怒ってるっていうんだよ」
二人が早速言い合っていると、寝ていたアミノとニコも目を覚ます。
ジャズは勝手に台所を借りことと、冷蔵庫にあった食材を使ったことを謝ると、アミノは彼女へ笑顔を返した。
「それにしてもまさか朝食の用意をしてくれるとは。ジャズちゃんは将来良いお嫁さんになりそうですね」
「そんな!? やめてくださいよアミノさんッ! あたし、料理とかぜんぜん自信ないんですから!」
ジャズはアミノに褒められると、謙遜しながらも嬉しそうにしていた。
そして、先ほどミックスと言い合っていたのも忘れ、皆へ出来立ての料理を振舞う。
「何度も言いますけど、ぜんぜん自信とかありませんが……」
照れながらいうジャズ。
ミックスは、彼女は意外にも家庭的タイプなのかもしれないと思っていたが、出された料理を見て言葉を失った。
「ね、ねえジャズちゃん。こ、これは……?」
「え~と、とりあえず冷蔵庫に入っていたものを全部煮てみました」
同じく料理を見て驚愕していたアミノが訊ねると、ジャズは声を大にして答えた。
スープ皿へと小分けにされた液体には、アミノが昨夜残していた酒のつまみが浮いている。
塩辛、枝豆、冷奴、チーズ、カラスミ――。
さらにはドライフルーツなども放り込んであり、その液体は凄まじい色と悪臭を放っていた。
まるでおとぎ話に出てくる魔女が、グツグツ煮込んで作った魔術的な料理に見える。
「あっ! そうでした! 先生はちょっと今日の授業で用意しなきゃいけないものがあったのです! せっかくだけどご飯はみんなで食べてくださいね」
急に立ち上がったアミノは、慌てて洗面所へ行くと、そそくさと身支度を済ませてそのまま家を出て行ってしまった。
そんな彼女のことを、やはり教師は大変だなと見ていたジャズが、ミックスとニコのほうへ振り向く。
「あれ? あんたもニコも食べないの?」
「いや~……これはさすがに……なあ、ニコ……」
ミックスに振られたニコは、その顔を真っ青にしながらもスープ皿へと手に伸ばしていた。
そして、涙を流しながらその魔術的な料理を飲み込み始める。
そんな勇敢な仔羊の姿を見たミックスは、ニコのことを内心で称えていた。
「ニコ……お前は雌なのに本物の勇者だよ。今日のお前の行動を俺はけして忘れない……」
「何ブツブツ言ってんのよ。ほらミックス、あんたも早く食べな」
「……はい。いただかせてもらいます……うっぷ!」
「アミノさんの分もあるから、まだまだおかわりオッケーだよ」
朝から内臓を痛めつけることとなったミックスは、なんとかジャズの料理をすべて食べきり、重い足取りで学校へと向かう。
「朝から女の子に手料理を作ってもらうなんて、本当は夢のようなシュチュエーションのはずなのに……。でもまあ、こんなもんだよね……ハハハ……」
そしてブツブツと呟きながら、いつもの乾いた笑みを浮かべるのであった。




