#14
学校へと向かうミックス。
アミノの住むアパートからの登校に違和感を覚えながらも、普段とは違う道に新鮮さを感じていた。
「うっぷ……。ダメだ、まだ吐き気が止まらない」
ミックスは朝からジャズの作った料理――凄まじい刺激物を胃に入れたためか、すこぶる調子が悪そうだった。
そんな身体を奮い起こし、学校までバスでいくか歩いていくを考え、彼は後者を選択。
それは、まだ時間に余裕があったことと、手持ちの金銭を少しで節約しようという考えからだった。
本当は調子が悪いので、バスを使いたいのが正直なところだったが、ミックスは自分の体よりもお金を大事にするタイプのようだ。
「銀行のカードも、再発行するまではまだまだ先だしね……」
そんな独り言を呟きながらミックスが歩いていると、彼の後ろからひとりの女子学生が走ってきていた。
「せんぱ~い! ミックスせんぱ~い! おはようございま~す!」
「やあ……。おはようウェディング」
ウェディングと呼ばれたロングヘアの女子学生は、挨拶を返してもらうとニッコリと微笑んだ。
しかし、すぐにミックスの顔色が悪いことに気が付いて慌て出す。
「どうしたんですかせんぱいッ!? お顔が青空のようになっていますよッ!?」
「その例えだと俺の顔が清々しい感じに聞こえるよね……」
「病院へ! 早く病院へ行きましょうッ!」
「俺のツッコミは無視かい……」
ウェディングは、ミックスの身体を心配しているせいか、彼の言葉など耳に入っていないようだった。
大声を張り上げながらその場でひとり右往左往している。
ミックスは、そんな彼女を見てため息をついていた。
「それよりも大丈夫なの? ウェディングの学校は他校の生徒と話すのは、校則で禁止されているんだろ?」
ウェディングが籍をおく学校は、このバイオニクス共和国の中でも優秀な者しか入れないエリート校である。
さらに幼稚園から大学までエスカレーター式であり、将来的には国の重要なポジションが約束されている学校だ。
彼女は現在その学校の中学生で、いわば勝ち組である。
ミックスが通っている戦災孤児のための学校と比べると、授業内容も将来性も雲泥の差だ。
「ミックスせんぱいが気にすることではないですよ。それに……私のプライベートを邪魔するならば、たとえこの国だろうと潰します」
「笑顔で怖いこというなよ……」
「冗談ですよ、冗談」
「本気にしか聞こえなかったよ……。はぁ、やっぱハザードクラスに選ばれるような奴は冗談も普通じゃないね」
「ひど~いッ! ミックスせんぱい酷いです!」
頬を膨らませてプンプン怒ってみせるウェディング。
だが、ミックスが笑いながら謝ると、彼女はすぐに機嫌を直した。
ちなみに、先ほどミックスがいったハザードクラスとは――。
バイオニクス共和国から最も優秀な人間と認定されている世界最高クラスの能力を持つ者のことである。
その数は現在五人と非常に少なく、その一人一人が一国を滅ぼせるほどの力があるとされている。
ウェディングはハザードクラスの中で最年少であり、|舞う宝石《ダンシング·ダイヤモンド》というコードネームを与えられた、国からの最も期待されている学生だ。
ミックスとはあることがきっかけで知り合い、それ以来彼のことを慕っている。
それからバスが来てもウェディングは乗らずに、ミックスと共に歩き出した。
「いいの? さっきのバスに乗るつもりだったんだろ?」
「いいんです。今日はなんだか歩きたい気分なんです」
ミックスは、そういったウェディングを見ながら小首を傾げると、歩を進めた。
彼女は、そんな彼の横に並び、ニコニコと笑みを浮かべる。
「月が綺麗ですね、せんぱい」
「あのさ、ウェディング。いま朝なんだけど……。それともそれ、冗談のつもり?」
「せんぱいはソウセキを知らないんですか?」
そんな会話をしながら歩く二人の後ろから――。
ゆっくりと一人の影が追いかけていた。




