#12
そんなミックスを見たジャズは、俯くとそっと傍にいたニコを抱きしめた。
そして、彼女は下を向いたままミックスへ声をかける。
「知りたい? あたしが抱えていること……本当に知りたい?」
訊ねられたミックスは、ニコを抱いたまま毛布に包まっている彼女へぐっと近づく。
お互いの吐いた息がかかるような距離。
今すぐ唇でも重ねそうなミックスの勢いに、顎を上げたジャズはビクッとその身を震わせて顔を赤くしてしまう。
「なんだか尋問している気分だよ。普通なら軍人みたいなジャズがしそうなことなのに」
「ふふふ、そうだね。あんたの言う通りだ」
その言葉を交わした二人は互いに笑い合った。
笑い合った後――。
ジャズはミックスへ話を始めた。
前に説明した会いに来た友人とは、彼に銃を向けた二人の少女であることを。
ミックスがどうして友人と戦っていたのかを訊ねると、ジャズの表情がわかりやすく曇る。
「あの子らは、この国と戦争するための火種を作りに来たんだよ」
ジャズがいうに――。
二人の少女――ヘルキャット·シェクターとアリア·ブリッツは、彼女と同じ国の生まれであり、共に軍で過ごした戦友なのだという。
ジャズの生まれた国の名はストリング帝国。
この世界で唯一バイオニクス共和国から独立した国であった。
今から七年前――。
バイオニクス共和国とストリング帝国のと間では、アフタークロエと呼ばれる戦争が行われていた。
現在では両国の間で和平協定が結ばれ、今日も世界は平和そのものだった。
だが、事実上戦争に破れたストリング帝国内では、その和平協定に反対している強硬派と慎重派に分かれている状況だそうだ。
「あの子らは和平に反対の派閥に入った。昔からあたしは賛成派で……。そこからあまり話さなくなったってさ……」
ニコの身体を覆う豊かな毛を抱きしめながら、ジャズは寂しそうに言葉を続ける。
ジャズは、ここで二人との友情が切れてしまうことを恐れ、彼女たちに会いに行った。
たとえ考え方、主義主張が違くとも、しっかりと話し合えば昔のような関係に戻れると思っていた。
ジャズは二人へ前もって行くことを知らせていたのだが、彼女たちはそのメッセージを確認していなかったのだろう。
軍から支給されているインストガンの持ったヘルキャットとアリアが、自分たちの部屋を飛び出していくところをジャズは目撃してしまったのだ。
ストリング帝国の軍服に身を包み、武装して出て行った二人を見たジャズは嫌な予感がし、すぐにそのことを上の人間に報告した。
上の人間はすぐに動いてくれたが、慎重派であるジャズの上司が何をいおうが、強硬派のいう訓練という言葉によって、ジャズの勘違いということにされてしまう。
しかし、ジャズの上司は見抜いていた。
ヘルキャットとアリアの二人を共和国へと送ったのは、再び戦争の火種を作るためだと。
すぐにでも彼女たちを止めないと、再び戦争が始まってしまう。
それを聞いたジャズは、まず何よりも彼女たちのことを心配していた。
それは二人が目的を達成し、戦争の火種を作ったとしても、共和国内部でテロ行為を行えばまず命を落とすと思ったからだった。
「そしてあたしは、ノピア将軍のいうことも聞かずに、こうやって共和国に来ちゃったんだ」
自嘲気味に笑うジャズ。
そんな彼女に抱かれているニコが悲しそうに鳴いていた。
「バカだよね……。上の言う通りにしていれば何か解決策があったかもしれないのに……。あたしって本当にバカだよ……」
「どうして……」
「えッ……?」
そんなジャズの話を聞いていたミックスが、突然声を張り上げる。
「どうしてそんな大事なことを、今まで黙ってたんだよ!」
普段は大人しいミックスが怒鳴ったことで、ジャズは驚いてしまっていた。
申し訳なさそうに彼のことを見ては、ニコを抱く手に力が入ってしまっている。
ギューと抱きしめられたニコは、彼女の腕の中で苦しそうにもがいていた。
「だって……あんたは関係ないじゃん……。それに……あたしがストリング帝国の人間だって知ったら……」
「知ったらジャズのことを見捨てると思ったのか!? こっちはご飯作ってあげてプレゼントまでしたのに……。俺のことを見くびらないでよ!」
「ミックス……うぅ……」
すると、ジャズが突然泣き出してしまった。
そんな彼女を見たミックスは言い過ぎたと思って大慌て。
なんとかジャズに泣き止んでもらおうと、必死になって言葉をかけ始める。
「ただいま帰りましたよ。食材がほとんど売ってなかったので、今夜はハンバーガーで我慢してください」
そこへアミノが戻ってきた。
彼女は泣いているジャズと慌てているミックスを見て絶句している。
「アミノ先生……こ、これはですね……」
「どんな理由があっても……女の子を泣かすのは最低ですよ!」
それからミックスは、怒り狂ったアミノに長々と説教されるのだった。
正座しながらミックスは思う。
「でもまあ、こんなもんだよね……ハハハ……」
「ちゃんと聞いていますかッ!? ミックスくんッ!」
「は、はいぃぃぃッ! すみませんでしたぁぁぁッ!」




