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その手に見えるは機械装甲  作者: コラム
10/948

#10

それからジャズを背負(せお)ったミックスは(ふる)ぼけたアパートに来ていた。


この建物(たてもの)という建物がソーラーパネルで()()くされているバイオニクス共和国(きょうわこく)には、ずいぶんと不釣(ふつ)り合いな住居(じょうきょ)だ。


「もう大丈夫(だいじょうぶ)。すぐに治療(ちりょう)してもらえるから」


ミックスはジャズに声をかけた。


だが彼女はかなり(いた)みが(ひど)いのか、いつの()にか気を(うしな)っている。


(そば)にいたニコは、この建物がめずらしいのか、アパートを見上げながらその(くび)(かし)げていた。


ミックスはそんなニコを置いて、アパートの一階(いっかい)のドアの前に立つ。


「すみません! (おれ)です! ミックスですッ!」


これまた古臭(ふるくさ)い呼び(りん)連打(れんだ)しながら(さけ)ぶミックス。


しばらくそれを続けていると、ゆっくりとドアが開いた。


「はいはい。そんな(あわ)てて押さなくてもちゃんと出ますよ」


ドアからは、上下(じょうげ)ジャージ姿(すがた)の女性が(あら)れた。


その人物は、ミックスが(かよ)戦災(せんさい)孤児(こじ)のための学校の女教師(きょうし)――アミノだった。


晩酌(ばんしゃく)でもしていたのだろうか。


いつもとは(ちが)い、かなり(ゆる)んだ表情(ひょうじょう)でさらに(ほお)が真っ赤になっている。


「うん? ミックスくん? どうしたんですかこんな時間に? 未成年(みせいねん)が女の子の背負(せお)って夜の街を出歩くのは感心(かんしん)しませんね」


「先生が思っているようなことはなにもありませんから。ともかく(こま)ってるんで、ちょっと中に入りますよ」


「ちょ、ちょっと!? むしろ困るのは先生のほうなんですが!?」


ミックスはアミノが止めるのも聞かずに、無理矢理(むりやり)に部屋へと入る。


それに続いてニコもテクテクと彼女の前を(とお)()ぎた。


(ひつじ)……?」


アミノがニコの姿(すがた)に小首を傾げていると、部屋の中からミックスの声が聞こえた。


あることを思い出したアミノは、大(あわ)てで部屋と(もど)る。


酒臭(さけくさ)い……」


部屋に入ったミックスがそう(つぶや)く。


アミノの部屋には、無数(むすう)(から)になった一升瓶(いっしょうびん)洗濯物(せんたくもの)()されていた。


その洗濯物の多くが下着(したぎ)で、彼女は元々(もともと)赤かった顔をさらに赤くして片付(かたづ)け始める。


「見ないでください! 見ないでくださいッ!」


「先生。それよりもこの子を」


「いい歳した女が酒浸(さけび)りですみません! 年頃(としごろ)の女が地味(じみ)な下着しか持ってなくてすみません!」


「いや、そんなことは言ってないけど……」


泣きながら部屋を片付け始めたアミノには、もうミックスの言葉は(とど)いていなかった。


その(あいだ)、ニコが部屋にあった一升瓶の(にお)いを()ぎ、足元(あしもと)をフラフラにしていた。


ミックスは大きくため(いき)をつくと、(たたみ)の上にジャズの身体(からだ)(やさ)しく寝かす。


それを見たアミノは手を止めて彼女の身体に()れた。


「ミックスくん……この子……?」


「それにはいろいろあって……ともかく先生しか(たよ)れる人がいないんです! お(ねが)いします! この子をなんとかしてやってください!」


ミックスは畳に頭を押し付けてお願いした。


戦災孤児のための学校にいる教師はアミノだけである。


クラスは一組しかなく、彼女はひとりですべての教科(きょうか)生徒(せいと)(おし)えていた。


さらには生徒が怪我(けが)をしたときに保健室(ほけんしつ)の先生の(やく)もこなす。


そのことを思い出したミックスは、(まよ)わずアミノの家へと来た。


普段(ふだん)は泣き(むし)で頼りなく見える彼女だが。


(じつ)はミックスも(ふく)め、生徒全員から信頼(しんらい)されている人物(じんぶつ)なのだ。


「……出てってください」


「えッ!? そ、そんな……」


「これから治療のためこの子の服を()がせます! だから男の子のミックスくんは出てってください!」


「は、はいぃぃぃッ!」


突然(とつぜん)表情を真剣(しんけん)なものへと変えたアミノ。


そんな彼女に怒鳴(どなら)られたミックスは、背筋(せすじ)()ばして立ち上がると、大慌てで部屋を出て外へと走り出した。


アミノはドアがバタンと閉められたのを確認(かくにん)すると、ニッコリと微笑(ほほえ)む。


相変(あいか)わらずミックスくんは人のために頑張(がんば)る子ですね。まあ、巻き込まれやすいとも言いますけど……」


それから彼女はジャズの服を脱がし、早速治療を始めるのだった。

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