9話 悪魔だとバレていた
王家主催の夜会は、基本絶対参加。特に、王家の忠臣と名高いヴォルシュテイン伯爵家が不参加などあってはならない。
ルキウスが王妃様に何かをした為、王妃教育は一時中止になっていますがクラウディオ王子殿下の婚約者である事実は変わらない。
夜会は今夜開催されます。朝から憂鬱な気分に陥っていると、一緒に寝ていたルキウスが抱きついてきた。
「きゃあ」
「アスティ~おはよう。何度見ても可愛いよ」
「も、もう、朝からからかわないでっ」
「からかう?おれがアスティを?おれはアスティに嘘は言わないよ」
知ってる。いつも、心が思った通りの言葉をくれるから恥ずかしいの。真正面からの愛情表現はとても恥ずかしいけど、同時に、どれだけルキウスが私を愛してくれているかを感じられる。……でもやっぱり恥ずかしい。
頬をすりすりするルキウスに今夜の夜会について聞いてみた。
「ルキウスは王家主催の夜会に参加するんだよね?」
「えー?しないよ」
「しないの?」
「うん。親父殿に『お前は出なくていい!』って言われたから」
「……」
リグレット公爵は多分、これ以上ルキウスが王族に何かをさせない為に参加させない方向にしたのだと思う。
今生のルキウスの兄姉であるアルト様とノエル様は?と訊ねると「2人は元から出る気ないから逃げたよ」と返された。
「に、逃げるって何処に?」
「さあ。まあ今頃、親父殿に追い掛け回されているんじゃないかな。おれ以上に自由人だからねあの2人」
「でも、王家が主催だから逃げるのは……」
「リグレット公爵家は変わり者が多く生まれる家柄だから、大目に見てくれるんじゃない?それより……」
「ん……」
声を潜めたルキウスが顔を近付けてきた。ちゅ、と触れるだけのキスをした。
「おはようのキスをまだしてなかったね。今度はアスティからしてよ」
「え、わ、私から?」
「そうだよ。キスするだけなんだから簡単でしょう?」
「うう……」
い、いつぞやの舌を入れるキスよりかは難易度は低いかもしれないけど、これはこれで恥ずかしい……!
目を瞑って私からのキスを待つルキウス。
ゆっくりと顔を近付けて、そっとキスをした。
ルキウスはふにゃりと笑った。
「物足りないけど、今朝はこれで許してあげる」
「け、今朝はって」
「うん?昼や夜もあるよ」
「おはようのキスは朝だけよ……!」
「おはようも関係なく、おれはアスティとキスしたいの」
「こういうのはやっぱり、大人になってからにしようよ……」
「アスティを大人にしていいのならすぐになるよ」
「……まだまだ子供のままでいいです」
大人になった瞬間、確実にルキウスに襲われて暫くベッドとお友達になってしまう。不満げに口を尖らせたルキウスはぎゅうっと私を抱き締めた。
「じゃあ、おれのお願い沢山聞いてね」
「沢山!?」
ルキウスのお願いを沢山聞いて私は起きていられるかな……。
あのね、とルキウスが言い始めたと同時に扉をノックされた。「はい」と返事をするとマリクが朝食の準備が出来たと呼びに来てくれた。ルキウスがいても驚く反応がない。
(一応)確認した。ルキウスの朝食があるかと。返事は――ある、でした。
寝癖の酷い髪のままルキウスに連れられて食堂に入った。前に1度、同じ状態で朝食の場に来てしまったものだからお父様やお母様に驚きはない。あるのは、苦笑する姿だけ。
「まあまあ、アステルも寝癖が酷いわね。わたしと一緒ね。髪の性質がわたしに似ちゃったのね」
「君の髪もアステルの髪も癖があるからね。アステル。後で髪を整えてもらいなさい」
「は、はい」
「大丈夫だよアスティ~。おれが綺麗に梳いてあげるから」
ぎゅっと隣にいるルキウスに抱き付かれた。お父様とお母様に生暖かい視線を貰いながら席に座った。ルキウスは私の隣。一旦離れてくれたのに座るとまた抱き付かれた。
私には専属の侍女がいますがルキウスがいると仕事を取られてしまうので、今は他の侍女と同じ仕事をしてもらっています。着替えまでルキウスがしていると誰にも知られてないけど、バレたら怒られちゃうよね……。子供と言えど、やっていい事といけない事には限度がある。
元悪魔なルキウスに言っても通じませんが……。
何事もなく朝食を終えた私はルキウスと部屋に戻った。此処に座ってと化粧台の前にある椅子に座った。
「今日はどんな髪型にする?」
「いつも通りで良いよ」
「そうだね。アスティは髪を下ろしていた方が似合う」
「本当?」
「おれはアスティに嘘は言わない。ほら、おれが梳いてあげる」
「うん」
櫛を手に取り、ゆっくり、丁寧に私の金髪を梳いていく。
魔族だった頃もこうやって毎日髪を綺麗にしてもらっていた。……あれ、今思うと魔族だった頃私のお世話は全部ルキウスがしていた気が……。
朝の着替えは勿論、夜は毎日抱かれていたからお風呂は行為後ルキウスが洗って服を着せてくれて……。
……これって同じになっちゃう?
「どうしたのアスティ?難しい顔して」
「う、ううん、何でもないよ」
当時の周囲の人々の優しい視線がとても恥ずかしく、申し訳なかった。
ルキウスは髪を梳き終わると引き出しを開けて青色のリボンを取り出し、私の髪に結んだ。
「ふふ、金色の髪に青は似合う。とても可愛いよアスティ」
「あ、ありがとうルキウス」
「ねえアスティ。今夜の夜会は行かなくて良いからね?」
「でも」
「おれが親父殿にお願いして、ヴォルシュテイン伯爵にアスティを連れて行かないでって使い魔を飛ばす。おれが王家に手を出さないと言えば、親父殿はきっと頷いてくれると思うんだ」
「ルキウス。聞きたい事があるの」
「なあに」
「リグレット公爵様は、ルキウスが悪魔って知ってるの?」
「知ってるよ。それがどうしたの?」
「知ってるの!?」
何気なく聞いた疑問はあっさりと解決した。
私が驚愕するとルキウスは首を傾げた。
「どうして驚くの?知ってて聞いたんじゃないの?」
「う、うん。お父様がね、リグレット公爵様が『王家はあの悪魔を怒らせた』と言っていたから、ひょっとして知ってるのかなって」
「そうだねえ、話せば長くなるんだけどね」
ルキウスは私を立たせベッドに移動すると腰掛けた。隣に座ると私を見つめた。
「おれが悪魔だと知られたのは、生まれてすぐだよ」
「え」
「リグレット公爵家は、魔術の名家と言われる家だ。生まれた赤子にすぐに魔力検査を施すのさ。上2人は強大な魔力の持ち主という判明だけだった。でもおれは違う。魔族特有の、それも高位魔族の魔力を生まれながらに持って生まれた」
ルキウスによると、本来魔族の魔力を持つ赤子は速やかに処分されるか、教会に渡して神の力で浄化してもらうのが通常とされる。
しかし、元々ルキウスは悪魔の生活が飽きたから人間に転生した高位魔族。赤子と言えど、意識はしっかりとあった。
赤子のままこう言い放ったらしい。
――おれをこの場で殺したら、魔王の側近が飛んで来るよ?人間側も天界側も魔族と全面戦争なんてしたくないでしょう? と。
「親父殿にしたら、母上が最後に産んだおれがまさかの悪魔の転生体だったからそれはショックだったろうさ。でも、すぐに思考を切り替えたよ。中身はどうあれ、母上の産んだ子。自分の子に変わりないと。そこからは、意識はあるのに赤子の世話を強制的に受けさせられたよ。魔術で肉体の成長を進めるのは容易なのに」
「そんなの出来るのはルキウスだけよ……」
肉体の成長を促進する魔術は禁術の類に入る。
話を聞いているとリグレット公爵様の懐の深さに感嘆してしまう。だって、悪魔――それも高位魔族――と知りながら、リグレット公爵様はアルト様とノエル様と変わらない態度でルキウスに接している。
「すごいね、リグレット公爵様」
「なにが?」
「だって、ルキウスが悪魔と知りながらもアルト様やノエル様と一緒で平等に接しているもの。とてもすごい事よ」
「変わり者が多いっていう家だからね。まあ、その辺りは感謝しているよ親父殿には。でもね、おれの魔力や魔術の高さに目を付けて次男を後継者にするってどうなの」
それを言うと、長男だったのに弟に跡目を強制的に押し付けた当時のルキウスはどうなのだろうか。
ルキウスの甥――名前はアリス様と仰有いました。アリス様は、初めの頃ルキウスに無理矢理屋敷に連れられて泣いていた私を慰めてくれていた。自分よりも年下の子に慰められるのは恥ずかしいのに、当時の私は兎に角家に帰りたくて、ルキウスが怖くて泣いていた。小さな子供が与えてくれた安心感に縋ってしまった。
人間に転生する直前だと、確か魔界の宰相を務めていた筈。
元気にしているだろうか。アリス様には1人息子がいました。海を思わせる青い髪と瞳の、アリス様にそっくりな子。
私は会ったことはないけれど、ルキウスは何度か会っている。曰く『生意気な所はアリスにそっくりだ』らしい。
悪魔だった頃を思い出していると、内心首を傾げた。ルキウスが悪魔だと知られた割に私は知られていない。
「ルキウスが悪魔だと知られたなら、私はどうして知られてないの?」
「単純に魔力の差だよ。おれは公爵家の長男だから強かったけど、アスティは平民。おれにとっては特別でも、普通の魔族だったから感知されなかったのかもしれない」
「そっか……」
「落ち込まないで。アスティが悪魔だと知られなくて良かったんだ。知られていたら、今こうして一緒にいられないからね」
王家の忠臣であるヴォルシュテイン伯爵家に悪魔の転生体が生まれたら、両家に大きな混乱を招く。
両親を騙している様で心苦しいが墓まで持っていく秘密にしよう。
それが私に出来る親孝行の一つ。
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