閑話:馴れ初め4
大変長らくお待たせしました( ;∀;)
――一週間で好きにさせてみせる。
高位魔族がたった一人の相手を絶対に落とすと決めたのだ。魔族と言えど平民。両親に大事に育てられ、異性との免疫も皆無に等しいアスティーリアが魔王の補佐を務めるルキウスに陥落するのに時間は掛からなかった。本能が告げる。
ルキウスに従わないと危険だと。ルキウスの求愛は過激だった。敢えて言葉にはしないが兎に角過激の一言に尽きた。
魔界の五大公爵家の一角、魔界の知恵袋と呼ばれるフォレスト家の屋敷。青を基準とした外観は、代々海を思わせる青い髪と瞳を受け継ぐフォレスト家の血を表している。現当主の一人息子であるアリスは、本来なら魔王城にしか咲く事を許されていない青薔薇が九割を占める庭園の長椅子で、うっとりとした表情で漸く見つけた『宝物』を愛でる伯父ルキウスを遠い眼で眺めていた。
相手の女性は裕福な部類に入る平民。ルキウスはアスティと甘い声で呼ぶ。アスティーリアには同情する。フォレスト家、魔界の為にルキウスの『宝物』と判明したアスティーリアを逃がす訳にはいかず。家に帰りたいと泣く彼女を何度か見たが、その度にルキウスが捕まえに来て部屋へと戻り。扉の向こうから悲鳴染みたアスティーリアの甘い声が響いた。フォレスト家に仕える使用人達は幼いアリスに聞かせない様工夫を重ねている。が、運が悪いらしくそういった場面に何度か遭遇している。
「嗚呼可愛い、可愛いよアスティ。ほら、こっちを向いて」
「あ、う……ル、ルキウス様……っ」
身体を横向きにされてルキウスの膝の上に乗せられているアスティーリア。顔は完熟した林檎の如く真っ赤。ペロリとルキウスが唇を舐めると湯気が出るのではと心配になるくらい更に赤くなった。
「可愛い……ねえ、もう部屋に戻ろう。アスティは外は嫌なんでしょう?」
「あ、だ、だって」
「まあおれも部屋の方が良い。眠ったアスティを眺められるから。ほら、捕まって」
言われるがまま、ルキウスの首に腕を回した。
ルキウスは軽いアスティーリアの体を抱き上げると庭園を出て行った。去る間際、二人からかなり距離を取っていたアリスに妖しげな視線を寄越した。
「……」
フォレスト家の為、魔界の為でも泣いているアスティーリアが不憫でならなかった。何度かこっそりと会いに行って慰めようとしたが、すぐにルキウスが来てアスティーリアを連れて行ってしまう。『宝物』を発見した者の執着は尋常ではないと聞かされてはいたが、まさか……自分よりも七百年も年下の子供にまで嫉妬するとは思いもしなかった。
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「キス以上の事はしないって自分で決めておきながらこれだもんね」
ふふ、と微笑を浮かべるルキウスの隣。赤みを帯びた顔で眠るのはアスティーリア。求愛をし始めて五日目。折角見つけた『宝物』に嫌われるのは嫌だが、そこは悪魔。高位になるほど理性は強くなるが、フォレスト家の呪いを受け継ぐルキウスには『宝物』を前にして保てる理性は存在しなかった。
一々会いに行くのが面倒だから五日前気絶したアスティーリアを持ち帰り、目覚めたその日にキス以上の事をした。怯えた顔で自分を見て、震えて逃げようとするから強靭な精神力で押さえていた欲を表へ出してしまった。
キスをしただけで真っ赤になるのだ。当然、体だって清いまま。普通の悪魔なら、成人を迎える前に既に経験済みとなっている者が多い。アスティーリアみたいに長年清いままなのは魔界では大変珍しい。
真綿に包み込む様に優しくアスティーリアを抱いた。恐怖を和らげる為に何度もキスをした。痛みを緩和させる為に愛撫も丁寧に施した。そのお陰か、今ではすっかりとルキウスに触れられる度に敏感に反応して、抱かれる回数が増える程感度が上がっていく。
今も部屋に戻され、気が済むまでルキウスに抱かれた。満足したルキウスは気絶したアスティーリアの身をシャワーで清め、ついでに自分も汗を流した。ネグリジェを着せて隣に寝かせた。ベッドシーツは勿論新品に変えた。濡れたままだと使用感が最悪だ。
「アスティ。おれのアスティ」
「ん……」
体を抱き寄せ頬に唇を落とした。
もうすぐ約束の一週間となる。アスティーリアは既に落ちているとルキウスは確信していた。体で陥落させた覚えはあるが、毎日毎日求愛したのだ。異性との免疫が皆無なアスティーリアは戸惑っているが初めの頃にあった抵抗は無くなっている。
後二日。それまでにやらなければならない事は沢山ある。アスティーリアとの婚姻、魔王の補佐官を務めるルキウスの妻の座や愛人の座を欲する強欲な女達からアスティーリアを守る対策、さっさと面倒なだけの魔王の補佐官を辞める方法等。沢山ある。魔王の補佐官については辞められない可能性の方が大きい。次期魔王候補の子供が四人いるとは言えどすぐに魔王になる訳じゃない。今の魔王の魔力が衰えを見せ始めたら交代となる。
それまでルキウスは補佐官を務めないとならない。早く引退しろとこの五日間毎日念じているが通じていない。
「アスティ……」
甘く、熱を帯びた声でアスティーリアを呼ぶ。これ以上するとアスティーリアの体に負担が掛かる上、嫌われそうである。
「アスティ。おれだけの大事なアスティ」
フォレスト家に伝わる『宝物』は、魔物族の番とよく似ている。運命によって決められた雄と雌。殆どが見つからないまま生涯を閉じる。滅多に見つからないから運命と呼ばれいるのかもしれない。
代々のフォレスト家の者も『宝物』を見つけるのにとても苦労していたとある。ルキウスも長い間探していたのでその苦労をよく理解している。
そして、漸く手に入れられた幸福も味わった。
「おれは絶対に君を手放さないよ?覚悟してねアスティ」
二日後が楽しみだと、アスティーリアを強く抱き締めて瞼を閉じたルキウスは歪に口端を吊り上げたのだった。
――二日後、ルキウスの思惑通りアスティーリアは求愛を受け入れた。今までもよりも更に甘く、激しく、重く愛されるとは知らず……。
これにて馴れ初め編終わりました。
次は王家主催の夜会です。




