表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

閑話:馴れ初め2


久しぶりの投稿です!


 

 

(ああ……っ!やっと見つけた!おれだけの『宝物』!)


 

 昨日税務署で出会った平民の悪魔アスティーリア。割と裕福な部類に入る家の娘で家族構成は父、母、生まれたての弟と娘のアスティーリア。調べると下級貴族が懇意にする商家の様でアスティーリアに恋人らしい存在もいない。また、婚約関係にある異性もいない。また、更に調査をするとそもそも恋愛経験すらないらしい。つまり、魔界では珍しく成人していながら未だ生娘なまま。是が非でもアスティーリアを手に入れたいルキウスの行動力は凄まじいものだった。上司である魔王からの仕事を瞬殺で終え、魔王なのに補佐官にビビりまくる情けない男にこう告げた。


 

「おれの『宝物』を見つけたから、手に入れるまで長期休暇が欲しいな」


 

 と。

 

 高速で頷く魔王に魔界中の女性を虜にする笑みを浮かべ、周囲に花が咲きそうな雰囲気で執務室を後にした。魔王城を歩いていると次期魔王候補の一人である甥っ子に遭遇した。男の子なのに「アリス」と名付けられた甥は、叔父であるルキウスに会う度に女の子みたいな名前と揶揄されるのでルキウスが苦手だった。顔を見た瞬間逃亡を図ろうとするもルキウスに気付かれ、捕まってしまう。また女の子みたいな名前とからかってくると構えたが――

 


「聞いてくれアリス!おれは遂に見つけたよ!おれだけの『宝物』を!」

「は……?」

 


『宝物』?

 

 何だそれは、と一瞬聞きそうになったアリスはフォレスト家に伝わる『呪い』を思い出した。代々、五大公爵家に生まれる者の中には『呪い』を持つ者がいる。フォレスト家で言う『宝物』がそれである。性質は、たった一人の異性を死んでも離さない執着。今代の『呪い』の保持者はルキウスだと、アリスの父は言っていた。『呪い』の保持者が死ぬと、次に生まれる誰かが『呪い』を受け継ぐ。『呪い』を持つ者は一族の為に可能な限り長生きしてもらわないと困る。先代フォレスト家の当主が残した記録によると、前回の保持者が三千年近く生きたのだとか。ルキウスが生きている年数は軽く七百を超える。まだまだ長生きしてもらわないと困るわけだ。

 

 嬉々とした様子で『宝物』がどんな女性か喋り倒すルキウスを父に呼ばれ早くこの場を立ち去りたいアリスはどうこの場を切り抜けるか思案するのであった。

 

 

 ――結局、ルキウスの『宝物』自慢は、中々来ない息子を探しに来た宰相が来た事によって終わった。

 


「アリスー!!!」息子の疲れ果てた様子に父である宰相が絶叫したのは言うまでもない。兄であるルキウスに文句は言えない。年齢が百も離れている上、争えば間違いなくルキウスが勝つ。

 


 魔王城を出たルキウスが向かうのは平民街。無意識に魅了を振舞いて歩くルキウスに女性だけでなく、男性も虜になっていた。一際大きい家の前に止まり、ドア・ノッカーを叩いた。出て来たのは老年の女性。彼女もまた、ルキウスの姿を見るなり頬を赤らめた。

 


「アスティ、いるよね?」

「アスティ?アスティーリアお嬢様の事ですか?」

「そうだよ。いるよね?」

「失礼ですが、貴方様は?」

「税務署で会った貴族、と言えば伝わるよ」

 


 怪訝な表情をしながらも、赤く染まる頬と熱い眼差しはルキウスの魅了にすっかりとはまった証拠。奥から、老女に呼ばれた金髪の少女が現れた。小走りでやって来た少女――アスティーリアは驚いた面持ちで訪問者を出迎えた。



「やあ。昨日振りだね」

「は、はい。ほ、補佐官様が何故我が家へ?」

「うん。君に会いたくて来た」

「わ、私ですか?」

「そう。君だよ。ねえ、中に入れてよ」

「はいっ!婆や、お茶の準備を!」



 突然の訪問と傲慢な態度に気分を害する所か、相手の機嫌を損ねたら庶民でしかない自分達の首が飛ぶと怯えるアスティーリアは、素早く婆やと呼ぶ老女にお茶の用意を告げて、自身はルキウスを客室へと案内する。平民にしたら大きな部類に入る家なのだろうが、当たり前な話、公爵家と比べると差があまりにもあり過ぎた。少し歩いただけで着いた客室の広さは浴室の広さと同じ位だった。ルキウスの私室は優に三倍はある。


 室内の装飾も派手ではないが品はある。花瓶、絵画、絨毯、テーブル、ソファー。足を一歩踏み入れた程度の価値しかなさげな家具である。変わり者と呼ばれようと彼が五大公爵家の一角にして、長男であるから公爵になるに相応しい教育は完璧にマスターしている。公爵の地位にも宰相の地位にも一切魅力を感じなくても、長男だから継ぐのが当たり前だと言われ育った。『宝物』を欲するフォレスト家の呪いを持った為に約束された地位は全て弟に譲り、自分は『宝物』探しに勤しむ事とした。


 ルキウスの『宝物』はアスティーリア。なので、どんな方法を使おうともアスティーリアを手に入れるつもりである。


 最初にルキウスに応対した老女がお茶を持って来た。



「お茶をお持ちしました。アスティーリアお嬢様も」

「ありがとう婆や」



 ルキウスの向かい側に座ったアスティーリア。婆やと呼ばれる老女が退室するとルキウスがティーカップを手にした。紅茶の香りを嗅ぐ。



「いい香りだ。質も悪くなさそうだね」

「は、はい。ダージリンとローズを組み合わせた紅茶です」



 声が緊張して震える。昨日出会った魔王の補佐官が何故自分に会いに来るのか。頭をフル回転させても思い当たる事柄が一切浮かばない。今出来るのは、相手の機嫌を損ねず早く帰宅してもらう事。高位魔族との接触等、平民には縁のない話だと思っていたのに。アスティーリアは緊張が強くて紅茶の味が分からなくなっている。アスティーリアの父が赤ん坊の頃から、ルイセン家で働いてくれる婆やが淹れてくれたお茶なら、信じるしかない。


 ルキウスが紅茶を傾け、口に含んだ。色気のある喉がごくりと鳴った。



「味も普通だね。平民なら、これ位が丁度良いね」



 可もなく不可もなく。ルキウスの機嫌が悪くならないのなら何だっていい。


 アスティーリアは訪問理由を訊ねた。昨日の今日会いに来るのだから、相当な訳があるに違いなと身構えるもルキウスはくすくす笑ってこう答えた。



「君に会いに来た」

「え」

「おれはね、君に会いに来たの。アスティ」

「どう、してですか」

「一目見て気に入ったからだよ。他意はない」



 アスティーリアの表情が暗く染まる。貴族に見初められる。それは、暗に愛人となると同義。魔王の補佐官であり、五大公爵家の一角フォレスト家出身の高位魔族。容姿も非常に見目麗しく、赤みがかった銀髪に妖しい色をした紫水晶の瞳の美青年。どんな女性も彼の美貌に当てられれば、一発でやられるだろう。異性との免疫がなりアスティーリアは長く直視出来ない程である。ずっと、ティーカップを見つめている。


 家の為を思えば、公爵家の者の愛人となって関係を持つのが普通。結婚もしていなければ、恋人もいないアスティーリアは最適と言える。


 しかし。



「あの、補佐官様っ」

「ルキウス」

「え?」

「おれの名前。昨日名乗ったでしょう?ルキウス=ネージュ=フォレスト。それがおれの名前。補佐官は役職。名前じゃない」

「で、でも、下位の者が高位の人の名前を気安く呼ぶのは」

「その高位の人が許しているんだ。それとも、アスティはおれの言う事が聞けないのかな?」



 そんな事はないと勢いよく首を振る。なら呼んで、と催促をするルキウスに観念したアスティーリアは、弱々しい声でその名を紡いだ。ティーカップを見つめたまま。ルキウスに顔を上げてと指摘され、恥ずかしさを堪えルキウスを真っ直ぐと見た。紫水晶の瞳が優しげにアスティーリアを視界に納めていた。


 顔の体温が急上昇していく。



「ふふ。顔が真っ赤だね」

「そ……その」

「おれを見て真っ赤になったね。おれの顔を見るのが恥ずかしいの?」

「だ、だってっ、ほ……ル、ルキウス様が……とても綺麗で……」



 耳まで赤く染めた状態で精一杯絞り出した気持ちを声にして伝えた。


 ルキウスは、今まで何度も言われた台詞に今更になって歓喜するとは思ってもみなかった。どんな美姫でさえ囁いても心動かされなかった台詞をアスティーリアが声にしただけで、感じた事のない喜びと幸福が胸を占めた。『宝物』を見つけた者は幸福の絶頂に立てるとフォレスト家の書物に記載されていたが。馬鹿らしいと鼻で笑った過去の自分を殴りたい。実際その通りだ。ルキウスはその幸福を今正に感じている。


 口端が歪に吊り上がった。



「ありがとうアスティ。アスティも十分綺麗だよ」

「あ、ありがとうございます」



 お世辞でもルキウスに言われると何故か嬉しくなる。アスティーリアの心を見透かしたルキウスは「貴族の令嬢よりも」と付け加えた。



「そんな訳、ありません」

「あるよ。おれが言うんだ」

「……ありがとう……ございます。それで、あの、ルキウス様。さっき、私を気に入ったと言いましたよね?」

「言ったね」

「それは、つまり……私は、ルキウス様の……その、愛人になれという事でしょうか?」

「いいや。違うよ。おれはね、君をただ一人の伴侶として気に入ったんだよアスティ」

「……ええっ?」



 ルキウスからの返事は予想を空を突き抜けて天界まで行ってしまう程驚く物だった。固まるアスティーリアへ美しい微笑を見せ、飲み干したティーカップをテーブルへ置いてアスティーリアの隣に座った。白く大きな手に触れられ、意識が現実に戻った。



「おれが欲しいのは君だ、アスティ」

「わ、私?」

「そう。アスティだよ。昨日会って君に一目惚れした」

「一目惚れ!?」

「アスティはおれの求愛を受け入れてくれるよね?」



 拒否権はない。断じて、一切。


 微笑なのに背後から禍々しいオーラを感じてしまう。


 熱の籠った声色でアスティと呼ばれ、背筋に寒気に似た何かが走った。



「返事は?」

「う……え、えーと、急に言われても。そもそも、私、ルキウス様を全く知りません」

「それはおれも同じだ。流石に、急には駄目だったか」



 ルキウスの求愛を受けるのは、ある程度の期間を設けてからになった。


 一週間までにアスティーリアの心を奪えなかったらルキウスは彼女を諦め、二度と接触をしないと誓約した。


 まずは友達から、とルキウスは左手の薬指に口付けを落とした。



「でも、すぐにおれを好きにして見せるよ。ちゃんと、覚悟しておいてね?」

「は、はいぃ」



 情けない返事をしたアスティーリアが可愛いと蕩ける笑みを浮かべたルキウス。アスティーリアを知る為に今日これから平民の街をデートしようと部屋を出たのであった。






読んでいただきありがとうございました!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ