人斬りたちの夜 後編
『獣爪剣』のシジウスと、『車輪剣』のロロナ。両者が熾烈な剣戟に身を置いている間、カタナ=イサギナもまた、死線の上にあった。
「ヒュッ!」
脳天に振り下ろされる大斧を半身に躱し、交差気味に左の掌底を叩き込む。それと同時に、右手の『姫斬丸』を薙ぎ払って、突き出される槍の穂先を斬り落とした。
「ぐおっ」
それで敵の一人は倒れ、一人は武器を失ったが、それで息をつく間などカタナにはない。
「死ねやあ!」
「囲め囲め、後ろを狙え!」
倒れた仲間を踏みつけに、飽くことなく押し寄せる正気を失った闘士と、こちらは正常な判断力を持ったまま、カタナを包囲する私兵たち。
シジウスがロロナとの戦いを開始したため、彼に止められていた観客は再び出口へと逃げ始め、そして空いた空間にカタナは追いやられていた。
「好きで追い詰められたわけじゃないんだが、やっぱりキツイか」
カタナは不満げに呟き、また一人の腕を突き通す。例え正気を失った身であろうとも、腱を絶たれてしまえば戦いを続けることは物理的に不可能だ。
カタナとしては、敢えて敵を殺そうという気はなくとも、流石に一人一人手加減できるほどの余裕はない。
こちらは一人なのに対して、敵はカタナとロロナ両名に大きく数を減らされたとはいえ、未だ二十人はいる。
個々の腕が大したものではなくとも、これだけの数で掛かられては、並の戦士ならば為す術なく切り殺されていただろう。
「……くそ」
そして、このままの状況が続けば、カタナとて恐らく同じ結果となるだろう自覚があった。
多数相手の立ち回りは体力の消耗が激しく、それで身体のキレを失って大きな手傷を負えばもはやこの数は支えきれないだろう。
そして精神的にも、息つく間もなく追い詰められる圧力は否応なく心を蝕み、疲弊させる。
(……やるしかないか)
絶体絶命に片足突っ込んだような修羅場で、カタナはちらりとそう思考する。
ともかくこの周囲を完全包囲されている状況さえ打開できれば生存の道はぐっと開ける。
ならば危険を冒してでも包囲の一角に深く斬り込み、そのまま外へと突き破るのみ。
それは言葉にすれば簡単だが、実際に行うとなれば地獄の踏破に等しい。
敵の包囲に突っ込むということは、敵の刃を自らの肌に触れるほどの近くに引き寄せることと同義だ。一度止まってしまえば、無慈悲に突き出されたそれらは瞬く間にカタナの身体を八つ裂きにするだろう。
だが、ここは既に死地。安全な道などどこにもありはしないと、カタナにはよくわかっていた。
「――コォォ――」
襲い来る闘士を蹴り飛ばして僅かな間を作り、深く、深く息を吸う。
ここから先は、呼吸する時間すら惜しむべき刹那を幾重にも積み上げて命を繋ぐ、文字通りの死線を越える戦いだ。
カタナは、己が身に流れる『血』に裏打ちされた心肺能力を総動員して、全身に酸素を、活力を、戦意を行き渡らせる。
「――っ!」
無言のまま、カタナはその身を弾き飛ばすように解き放ち、迫る刃に倍する勢いで敵の群れに飛び込んで行った。
●
「おやおや、これは予想外の展開になってきたじゃないか」
『剣獄』の毒師ザイン=エンドはシジウスとロロナの戦いを見下ろして含み笑った。
彼がいるのは地下の剣闘場の上、特別席とはまた別の一室だ。
「できるだけ痕跡は隠したつもりだったけど、結局『闘技王』一党に踏み込まれたか。あちらさんには目端の利く駒がいるようで?」
ザインの言葉には、奇妙なことに一切の焦燥さえもない。
ここにロロナ=アンゼナッハが現れたということは、この地下剣闘場が『闘技王』の視界に捉えられたも同然だというのに、彼はいっそ不気味でさえある落ち着きを見せている。
「さて、カタナ=イサギナは……良く見えないな? 生きてはいるっぽいけど」
『剣獄』の私兵や闘士が群がっている辺りは、なにやら人が激しく動いているのは見て取れたが、薄暗く距離もあるので詳細はわからない。
「まあどの道やるべきことは変わらないか。普段から情報をまとめておいて正解だった」
ザインは「観戦」はほどほどに切り上げて、この場所を訪れた「本来の目的」に取り掛かる。
「えー、闘士に投薬した経過の表はこれとこれ、あとは新薬に使う素材の詳細はこれか」
ここは、『剣獄』の機密とも言うべき資料や物品が保管されている場所で、『剣獄』要人だけが立ち入りを許可されている。
ザインは言葉通り、手慣れた様子で求める情報をさっさと選び出すと、背後を振り返った。
そこには、三人の人影が立っていた、いずれもザインよりも背が高くがっちりとした肉体を持った巨漢――『剣獄』の闘士たちだ。
「これでよし。じゃあお前たち、指示した通りに、道具を持って『支柱』に向かってくれ。合図と同時に砕いて、この闘技場、丸ごと潰そう」
そう、事も無げにザインは告げた。
「この地下空間は、幾つかの『支柱』によって地上の重量を支えている。要となるそれらを砕けば、大仰な作業なんかしなくても「あそこ」はあっという間に瓦礫に埋まる」
唐突且つ突飛な命令にしかし、闘士たちは疑問を差し挟むことなく黙って頷くと、すぐに各々移動を始めた。
彼らが、薬によって正気を失わされているのは明らかだった。
何故なら、眼下の剣闘場のある大空間には、多くの観客や彼らの同朋である『剣獄』の闘士たちが未だに残されているのだから。
この混乱では、全体の避難など不可能。それどころか、気を失って倒れているものを運び出すこともできないだろう。
それを十分承知しているはずなのに、ザインは何の躊躇いもなく笑みを見せる。
「活きのいい実験台が随分手に入った便利な場所だったけど、もう潮時――じゃあな爺さん」
●
「おおぉ!」
「シィイ!」
『車輪剣』が宙より振り下ろされ、『獣爪剣』が、地より掬い上げられる。
「ぐ! おのれ!」
一撃の威力では、大質量たる『車輪剣』は他の追随を許さない。
シジウスの斬撃を弾き飛ばして、轟音を響かせて大地に着弾。危ういところで退いたシジウスは、歯を噛み締めて体勢を立て直す。
「っく!」
しかし、次の瞬間には、シジウスは一撃を振り抜いたロロナ目がけて刃を突き出していた。
今度は『車輪剣』の主が悔しげな声を漏らして後退する。彼女の黒髪が、一房斬れて闇に溶ける。
シジウスの戦士としての特徴を一つ挙げるなら、それは柔軟性だ。捻り込まれた彼の右腕は、弧を描くような軌道でロロナを多方面から襲う。
そしてそれは、『獣爪剣』という武器を扱う上では理想的とも言える資質だった。
「シュラァァッ!」
奇声と共にシジウスの右腕が閃き、上段からロロナに斬り落とされる。
「ふっ!」
ロロナは先刻のように『車輪剣』を回し、盾としてシジウスの剣を防ぐ。
ギィン、と鋭い衝撃が響くが、その程度では『車輪剣』は揺るがない。
だが。
「――っ?」
ギャ、ギャ、ギャリン、と。濁った金属音が、さらに三重、ロロナと『車輪剣』に落ちて来た。都合四発。連続して叩き込まれる攻撃に、ロロナは一歩押し込まれる。
そしてそれは、四発だけでは終わらない。
八。十二、十六、二十、二十四――。
瞬く間に重ねられていく衝撃に、ロロナはたまらず後方へと弾かれる。
「飽和斬撃」
踏みとどまるロロナの耳に、シジウスの声が、ぎょっとするほど近くから降りかかる。
「『獣爪剣』は一振りにして四の斬撃を持つ。貴様の一撃がどれほどの威力であろうとも、所詮は『一』の剣でしかない」
そして、再び突き出される『獣爪剣』。だが、これは――。
「時間差――?」
捻りを加えられた右腕によって放たれた『獣爪剣』は、四本の爪それぞれが僅かにずれた軌道でロロナに迫っていた。
そしてそれこそが、シジウスの言う「一振りにして四の斬撃」の正体。紛れもなく一本の攻撃なのに、それは四つに分裂して連続で襲いかかって来るのだ。
一撃がそのまま四連撃として敵を削り、さらにそれが八連十二連十六連と四倍の掛け算で増えていく。
驚嘆すべきはシジウスの間接の強靭さと『獣爪剣』を扱う技量だ。
敵に当てる瞬間に、当たる爪だけに力を集中させ、しかもそれを四本連続で完璧にこなせるからこそ、この『一刀四撃』は成立する。単に四本の刃が順番に当たるだけでは、斬撃としては欠陥品だ。
並のものが使えば何の役にも立たないが、使いこなせる者にとってはどんな業物にも勝る名剣となる――それが、『異装十二剣』。
そして攻撃の手数では、『獣爪剣』こそ『異装十二剣』筆頭。薄く研ぎ澄まされた四の爪は、軽やかに舞いロロナに迫る。
「く、ぁっ」
ロロナは『車輪剣』の巨大な剣身でなんとかこの連撃を凌ぐが、防戦一方に追い詰められて反撃の糸口さえ掴めない。
そもそも、『車輪剣』の攻撃は、車輪による助走、斬撃を放つための構え、梃子の原理による斬撃という三つの段階を踏まねばならない。無論、練達のロロナにとっては、それを行うのは一呼吸あれば十分なのだが――。
「貴様の鈍重な剣など、もはや一振りも許しはしない――このまま四連の斬撃に呑まれ、消え失せろ」
今のシジウスは、その僅かな間すら与える気はないのは明らかだった。距離を詰めて助走の間合いさえも潰し、ロロナの逆転の目を封じにかかる。
「養父上の邪魔をしたことを悔やみ、『剣獄』に散る徒花となれ――『闘技王』の走狗が!」
「――!」
ついに、不完全な体勢で攻撃を受けた『車輪剣』が弾かれ、ロロナはシジウスの剣に正対することになる。
それは即ち、勝負の趨勢が決する瞬間であるとシジウスは確信する。
「――か、はぁ!」
『獣爪剣』を深く懐に沈め、一瞬の遅滞もなく切り上げる。巨大な『車輪剣』を抱えたロロナではここからの連撃に付いていけないということは、誰の目にも明らかだった。
●
「ふっ!」
ただしそれはあくまでも、ロロナ=アンゼナッハが『車輪剣』を抱えたままであったら、という前提の下での仮定であった。
「なに――?」
必勝を期して放った剣が空を斬ったことに、シジウスは微かに眼を見開いて動揺を示す。
ロロナは、シジウスが刃を繰り出す寸前、『車輪剣』を手放して、身軽になった挙動で『獣爪剣』の殺傷圏外へと離脱していた。
「……甘い」
「この――!」
殺意をぶつけ合う殺し合いで、敢えて武器から手を離す――それは、並の胆力、並の冷静さで選べる選択肢ではない。もしも目論見が外れ丸腰で敵と相対することになれば、それは即、死を意味するのだから当然だ。
「だが、武器を捨てれば、どの道貴様に勝ち目は無い!」
そしてその意味では、今の状況とて同じことだ。無手のロロナに戦う手段は残されては――。
「私が、『車輪剣』を捨てる? ……有り得ない」
同時、ロロナが一歩踏み出して差し出した右手の中に、まるで剣が意思を持っているかのように『車輪剣』が自らの柄を預けて落とした。
「……な」
その光景にシジウスが驚愕の気配を隠せずに動きを止めるが、ロロナは当然という表情で『車輪剣』を握り直す。
『車輪剣』を手放す瞬間、ロロナは僅かに力を加えて取り残された『車輪剣』の倒れる方向とタイミングを自分で調整していた――理屈で説明するならばそういうことになるのだろうが、一体どれだけの時間剣を振り続ければこの殺し合いの最中にそんな離れ業を成功させることができるというのか。
「そして『ここ』は、既に私と『車輪剣』の間合い」
シジウスの攻撃を、素手の身軽さで大きく躱して距離を開けることができたロロナは、つまりこれで『車輪剣』を振るう時間と空間を同時に手に入れたことになる。
「させん!」
危機感に突き動かされてシジウスが突進するが、それよりも早く、ロロナと『車輪剣』の斬撃が解き放たれる。
「『獣爪剣』が『一振りにして四の斬撃』なら、私の『車輪剣』は『十の斬撃分の一振り』――終わりなさい……!」
その、まさに直後――いくつもの事態が連続して起こった。
●
まず、何よりも最初に起きたことは、カタナ=イサギナが、『剣獄』勢の包囲網を突破したことだ。
「――っ抜けた!」
二十人からなる刃の群れを潜り抜け弾き返し、ある者は斬り倒しまたある者は踏みつけて足場にし、全身のあちこちに裂傷や打撲を負いながらも彼は死地を抜け出すことに成功したのだ。
とは言え、何もかもが彼の狙い通りだったわけでもない。敵の波に流されるように進路が歪んだため、予想よりもかなり長時間命がけの突破劇を戦う羽目になったし、抜け出す場所もずれてしまった。
それが即ち、今まさに決着しようとしているロロナとシジウスの戦いの場のすぐ脇だった。
「!」
そして、彼の視界にあったのは、ロロナとシジウスの二人、だけではなく――。
●
「が、あアアぁあ――!」
ロロナは、背後から響いたその絶叫に驚く間もなく、何者かに足首を掴み寄せられて体勢を崩した。
「――なっ!」
シジウスとの決着に全神経を集中していた彼女にとって、それは完全な想定外。驚愕と共に振り返ると、そこにいた――否、そこに這っていたのは、おびただしい血を吐きながらも狂騒に顔を歪める大男。
「ごぉおの……ガ、ナーンざまにぃ、ぃよぉぐもおぉぉ……!」
この地下に飛び込んで最初に斬り倒したはずの相手が、匍匐前進のようにロロナの後方から忍び寄り、がっしりと彼女の足を捕らえていた。
この『剣獄』で使われている常軌を逸した「薬」の存在は、ロロナには想像の埒外だった。例え致死に至る傷を受けても、暴走する狂気は敵を殺すまで使用者を突き動かす。
「――!」
例えようもない嫌悪と危機感に突き動かされてロロナは半ば反射的に『車輪剣』の軌道を無理やり変更。足元の大男の背を巨大剣で貫いた。
だが。
「ぎ――ギギギギギギぃ!」
致命の刃を喰らった大男は、絶叫とも哄笑ともつかない声を上げつつ、それでもロロナの足を離さない。
命の最期の最期まで、敵を殺す執念を絶やすことはない。
それが、『人斬り剣獄』の闘士。
もしかしたらこれは、彼らが剣闘士という存在に対し、「甘く見るな」という言葉を突きつけたということだったのかもしれない。
『我らは、実力が無いから、薬と狂気に逃げたのではない』
『我らは我らの意地として、死を売り物にしてでも真剣で戦い続けることを選んだ地獄の戦士』
『舐めるなよ、剣闘士』
だがそれも、時間としてはほんの数秒、蝋燭の炎が燃え尽きる寸前の残照にすぎない。
『剣獄』の闘士ガナーンは、こうしてロロナを僅かに足止めしたことを戦果として、その生を終えた。
しかしその数秒は、彼の上に立つ『王』が勝利を得るためには、必要不可欠にして十二分のものとなる。
「見事。ご苦労だった――第二位」
「――っぁ!」
ロロナが向き直った時には、シジウスの『獣爪剣』は、既に躱しようもない距離にまで迫っており。
ここに、『剣獄』の逆転によって彼らの勝利が確定する。
はずだった。
●
激震。
大きな揺れが、地下闘技場全体を突如襲った。
揺れているのは地面ではない。遥か高くにある天井、そしてこの場を囲む壁面だった。
「さて、これにておしまいっと。あとは逃げるだけだな」
それを指示したのは、『剣獄』の毒師ザイン。否、彼自身は既にその立場を捨てたつもりである。
ふと、眼下の闘技場を見下ろすが、壁面が崩落して松明が欠けた中、闘技場は急速にその明るさを失いつつありザインからは様子が窺えない。
「さて、面白い人材は何人かいるけど、流石に回収してるヒマはないかなー」
『王』シジウスに、肉体を暴走強化させたガナーン。感覚増強のククもまだ捨てがたい。
そして『闘技王』の片腕ロロナに、『闘王殺し』の弟子カタナ=イサギナ。
「その他の雑魚はどうなってもいいけど、この何人かは生き残ってくれると嬉しいんだがね」
だがそれも、彼にとっては優先順位の低い事柄でしかない。
そう、こんな街は、ザインにとっては所詮実験のための仮の宿。
「ククを拾ったシノバの里で盗み出した薬学知識の実践と応用はここであらかた済んだ。次は……いよいよ帝都か」
既にザインの想いはここになく、剣闘場から聞こえる押しつぶされる人々の末期の叫びは、彼の耳に届いてもいない。
そのまま、ザイン=エンドは闇に沈むように消える。
「裏口――は、あの爺さんも使うし、待ち伏せされそうだなー。裏をかいて正面から行くか。逃げる観客に紛れてもいいし、いざとなったら『あれ』を使えば何とかなる。……しかしどいつもこいつも詰めが甘い」
ただ最後に、不吉な声が人気の無い部屋に残された。
「『剣獄』にある『異装十二剣』が一つだけなんて、誰も言ってないんだがな」
●
「――ぐうぅ! 何が……」
いきなりの闘技場の崩壊に、シジウスはたたらを踏んで転ぶのを堪える。ロロナの首を斬り飛ばしかけた『獣爪剣』は、狙いを外してロロナの肩を切り裂くに留まった。
皮肉にも、『剣獄』の闘士がその手に掴もうとした勝利は、『剣獄』の裏切り者によってすり抜けたことになる。
「おのれ逃さん!」
だが、その程度のことで諦めるほど、シジウスの執念は甘くない。倒れたロロナに向かって、再度とどめの一撃を振り下ろす。
「『剣獄』の、勝利だ!」
その、勝利宣言と共に放たれた攻撃に、ロロナは咄嗟に身をよじって躱そうとするが、死してなお彼女の足首を掴むガナーンの手と、彼の背に突き立ったままの『車輪剣』、そしてこの場を襲う激震に妨げられて、その目論見は果たせない。
「――ま……だ」
最後の一瞬、足掻くように彼女の手が伸ばされる。だが、それは何を掴むことも――。
「いいや、勝つのは剣闘士だ」
ロロナの手が、誰かの背に軽く触れた。
「一対一なら手を出さないのが礼儀だと思ってたが、女の子相手に男が数で押すんじゃねえよ。情けない」
ギリギリのところでシジウスの刃を止め、弾き返したのは、ロロナにとっては一度会話を交わしただけの、名も知らぬ少年。
「貴様――カタナ=イサギナ!」
シジウスが怒りの呻きを上げ、また一際大きな崩落が巻き起こり、地下に砂埃が舞い立った。
カタナは崩壊する地下で、ロロナを背後に庇って最後の戦いへと臨んで剣を構える。
「さあ、決着と行こうか――『人斬り剣獄』!」




