第6話 エルフの里 Ⅲ
屋敷の一室。
兵士たちは目の前のエルフの女性たちとの行為に夢中だった。
抵抗するエルフたちを無理やり押さえつけ、自分たちの欲望を満たしているのだ。
その時、背後から足音が聞こえた。
兵士たちは行為に夢中で、誰一人気づいていない。
一方、エルフたちの視線は、足音の主へと集まっていた。
こいつらと同じ人族の男がまたやってきたと。
だが、すぐにその異質さに気づく。
しかし、声をかけることも助けを求めることもできなかった。
恐怖に支配された喉からは、かすかな息が漏れるばかりだった。
すると。
「...おい。」
男は低い声で呼びかける。
だが、兵士たちは振り返ることもしなかった。
それどころか。
「なんだ。お前も混ざりたいのか?」
「だったら、そこで待ってろ。終わったらお前にも回してやるよ。」
下卑た笑い声が部屋に響く。
その笑い声を聞いた男は突然、腕を左側に大きく振りかぶった。
その瞬間。
バァン!
先ほどまで卑猥な笑みを浮かべていた兵士の姿が、一瞬にして視界から消えた。
音のした方に視線を向けると、そこには完全に頭が潰れた状態の兵士が壁に張り付いていた。
何が起こったのか理解できず、呆然とする兵士たち。
そこでようやく、彼らは目の前の男の存在に気づいた。
「お、お前は誰だ!」
「どうやってここに...。」
そして、兵士が慌てた様子で喋る兵士の口元を黙らせるように男は勢いよく鷲掴んだ。
兵士は必死に抵抗する。
だが、男の手に込められた力は、徐々に強くなっていく。
やがて。
ミシッ。
鈍い音とともに、兵士の顔が握り潰された。
「ひ、ひぃ...!」
最後に残された兵士は、先ほどまで自分と一緒にいたはずの仲間たちの無惨な姿を目にして、情けない悲鳴をあげる。
仲間をあんな姿にした男に視線を向ける。
その男は見た目は人族だが、その残忍さは、まるで悪魔そのものだった。。
漂う邪悪なオーラに残された兵士は助けを呼ぶための声一つ発せられなかった。
そして、その男が徐々にこちらに近づいてくる。
「や、やめ...。」
兵士は恐怖のあまり、自分の股から温かいものが垂れ流れる。
そして、男の手はがそっと自分の視界を塞ぎ、光が兵士の目に戻ることは二度となかった。
辺りを見渡す。
部屋に立っているのは、自分だけになった。
徐々にドス黒い感情が自分の中から消えていくのがわかった。
床や壁には、先ほどまで卑猥な笑い声を上げていた兵士たちの血が飛び散っている。
だが、その光景を目にしても、何も感じなかった。
静寂が部屋の中を走る。
そして、部屋の隅に視線を向ける。
そこには、先ほどまで人族の兵士たちに襲われていたエルフの女性たちが身を寄せ合い、震えていた。
ーーこんな光景を見せられて無理もないか。
エルフたちは目の前で起こった出来事が理解できなかった。
それ以上に、彼女たちには目の前の男たちが何者なのかわからなかった。
人族の兵士たちを瞬く間に葬り去った、圧倒的な力。
その男に対する恐怖は確かにあった。
だが、それと同時に、どこか自分たちに近しい何かを感じていた。
不思議な安心感、とでも言うべきものだろうか。
だが、それはなんなのかはわからない。
恐怖と安心感。相反する感情に戸惑い、彼女たちは身動き一つ取れずにいた。
エルフたちのその光景を見て男は何も言わず、その場を去ろうと部屋の出口へと向かった。
その時、一人のエルフの女性が口を開いた。
「...地下!」
「地下に...仲間が!」
なぜこんなことを言ったのか。
自分でもわからず、言葉を発し後に驚きの表情を浮かべていた。
隣にいる他の仲間たちも動揺した表情を浮かべる。
だが、それを聞いた男は去り際に一言つぶやいた。
「...任せろ。」
そう言うと、男も部屋から去っていった。
その言葉が聞こえたのか、エルフの女性たちからはいつの間にから震えは止まっていた。
その後、エルフの女性たちが言っていた地下につながる階段を見つけたレウス。
「木の上に建てられた建物に地下があるとはな。」
構造としては木の幹をくり抜いて地下につながる階段を作ったのだろう。
螺旋になっているその階段を静かに降るレウス。
階段が終わり、その先には一本の長い通路。
一定間隔に灯りが灯り、じめっとした暗い雰囲気の道。
道なりに進んでいくと、道の途中に鉄製の扉があった。
扉に耳を立てるが特に何も聞こえない。
恐る恐る扉を開けると扉の先は薄暗く、灯り一つついていなかった。
そして、何よりこの異臭が気になった。
湿った空気の中に、汚物と死臭が混ざり合ったような臭いが漂っている。
何か違和感を感じながらもレウスは部屋の中に入った。
そして、その違和感の正体にすぐ気づくことになる。
部屋に入ったレウスの視界には信じられない光景が広がっていた。
それは、言葉では表せないほどの悲惨な状態のエルフたちの姿だった。
鉄格子の中は、拘束されたエルフたち。
その目には精気はなく、呼吸も浅く、ただただ生きているだけの状態だった。
ある者は手足を失い、ある者は両目をくり抜かれていた。
まともな状態の者など、一人もいなかった。
そして、エルフの女性たちのみ集められた檻が一つ。
その女性たちのお腹は皆、等しく膨らんでいるのがわかった。
「...なんだよ。...これ。」
あまりの衝撃に掠れたような言葉が出るレウス。
ーーこれじゃあ、まるで...。
人間という生き物は、ここまで非道なことできる生き物なのかと流石のレウスも動揺が隠せない。
すると。
部屋のさらに奥にある扉が開く音がした。
中からは白衣を着た人族の男が出てきた。
そして、扉の外にいたレウスと目が合う。
「だ、誰だお前...。。」
次の瞬間、男の視界が反転する。
男の目にはレウスは天井に立っているような景色に変わる。
視界は徐々に掠れていき、頬に冷たい地面の感触だけ残った。
残された体は地面に倒れ込んでや波の中には静寂が戻った。
一瞬の出来事とはいえ、檻の中にいるエルフたちは誰一人と動じる気配はなかった。
レウスは白衣の男が出てきた部屋に足を伸ばした。
そして、そこでも悲惨な光景が広がっていた。
おそらく、捉えられたエルフたちと思われる死体が山のように転がっていた。
ただ、一つ違和感が。
損傷の程度こそ違えど、どの死体にも共通点があったのだ。
老若男女を問わず、体の中心部が同じように切り開かれている。
そして、そこにあるはずの心臓だけ綺麗に抜き取られていたのだ。
「なんで、心臓なんか。」
魔族とはいえ、体の作りはたいて人族と変わらないはず。
拷問をしたにしても共通して心臓を抜き取る理由がわからない。
怒りや同情、悲しみといった感情が自分の中でぐるぐると渦巻いていく。
思考がどうしてもまとまらない。
そして、部屋を出ると牢屋のエルフたちに視線を向ける。
「すまない、あとで必ず助けに来る。」
本来の目的である魔封じの発見と破壊をまだ達成できていない。
自分一人ならなんてことないが、ここに囚われているエルフたちを守りながらではまともに戦えない。
一刻も早く、魔封じを破壊しなければ。
レウスは地下道へと戻り、その最奥を目指して歩き始めた。
部屋を出てから数分。
通路の先に、小さな光が見えてきた。
近づくにつれて光は強さを増していき、光の元に着くと、そこには大きな地下空間が広がっていた。
そして、空間の中には光の正体があった。
「これが、魔封じなのか。」
それは自分の背丈の倍近くもある大きな球体の魔道具だった。
天井からはいくつもの管で繋がれ、稼働音のようなものまで聞こえる。
球体はガラスでできており、その中身にはいくつもの光り輝く石が入っていた。
そして、ガラスには複雑な魔術刻印が施されており、レウスにはその術式の詳細まではわからなかった。
だが、間違いない。
これが魔封じだろう。
この魔道具のそばにいると自分の中の魔力が掻き乱される、そんな感じがする。
ーーこれを破壊すれば。
レウスは漆黒の長剣を呼び出し、勢いよく振り上げた。
すると。
「おいおい、どうしてここに人がいるんだ?」
声のする方に視線を向けると、そこには純白の鎧を纏った人族の騎士の姿があった。
「君は誰だい?どうやってここに入った?」
騎士はレウスに色々と質問の言葉をぶつけるが何も返ってこない。
ただじっとその騎士に冷たい面線を向けるだけ。
「あのさ、こっちが優しく質問している間に...。」
「お前がここの指揮官か?」
騎士の言葉を遮り、レウスが口を開いた。
「やっと口を開いたかと思えば、そっちからの質問?」
「こっちの質問には答えてくれないのに...まあいいか。」
騎士の男は困った表情を浮かべるがレウスの質問に答える。
「俺はここの指揮官ではないよ。」
「ただ...。」
騎士は言葉を濁すと人差し指を上に向ける。
「それよりも上の存在。」
そう言って、男は薄く笑った。
「我が名はミスト・ヨークス。」
「ルクシリア王国 聖騎士の第七席、といえばわかってもらえるかな?」
その言葉を聞いた瞬間、レウスの目つきが変わった。
聖騎士とは、ルクシリア王国の騎士団の中で選ばれた七人のエリートにのみ与えられる称号。
そして、かつて勇者レウスとして旅をしていた頃の仲間の一人も聖騎士だった。
目の前の男なら、かつての仲間について何か知っているかもしれない。
レウスの口元が少し笑みが溢れた。
「そうか、聖騎士か。」
「アロガスは元気にやっているか?」
すると、その言葉にミストは少し顔を歪めた。
「貴様、なぜ騎士団長のことを...。」
ーー騎士団長だと?
ーーあいつが、そこまで出世したのか。
「おい、質問に...。」
だが、レウスはそれを無視し、静かに口を開いた。
「最後に一つ聞かせろ。」
「この屋敷で、エルフたちに何をしている?」
レウスの声は低く、冷たかった。
「地下牢にいた連中もそうだ。あれは一体何なんだ?」
その問いに、ミストはすぐには答えなかった。
やがて、レウスの顔を見つめると、口元をゆっくりと歪めた。
そして、ミストは不敵な笑みを浮かべた。
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