第4話 エルフの里 Ⅰ
朝日が昇り、エルフたちは少しずつ村の復興に取りかかっていた。
崩れた家屋の片付けに追われる者もいれば、負傷者の手当てをする者もいる。
そんな光景を横目に、俺は今後について話し合うため、ステラと場所を移すことにした。
これからどう動くか。
復讐をするといっても30年も経っている。
恐らく状況が色々変わっているはずだ。
となると、まずは情報を...。
「魔王様?」
一人で思考しているとステラが声をかけてきた。
「だから、魔王じゃない。」
「そもそも、どうして魔王だと思ったんだ。」
ステラは勢いよく頭を下げる。
「申し訳ありません!」
「ただ、あまりにも伝承と酷似していたので。」
「伝承?」
「はい。」
そして、ステラは静かに伝承を語り始めた。
「ーー魔の王、決して滅びぬ。」
「ーー真なる魔の王、月光の下に蘇らん。」
ーー...月光の下に蘇る?
「ーーそして、七つの眷属を導かん。」
レクスが眉をひそめると、ステラは話を続ける。
「伝承によれば、真なる魔王は月の女神の祠で目覚めると聞きました。」
「ただ、その祠がどこにあるのかは伝承にはありませんでした。」
ーー月の女神の祠...俺が目覚めたあの場所、もしかして...。
ーーいや、これは黙っておこう。
ーーもし、この伝承とやらが本物だったとして、俺は魔王なんかになるつもりはない。
ーーそれより、俺が蘇ったのは月の女神とやらが関係しているのか?
また考え込んでいると、ステラが声をかけてきた。
「あの、魔王様?」
その言葉に何度言わせるんだと言わんばかりに冷たい視線を向ける。
「も、申し訳ありません!!」
「で、ではなんとお呼びすればよろしいでしょうか?」
すると、レクスも今さらながら気づいたといった顔をした。
ーー元の名前は...流石にまずいよな。
ーーなら...。
「レウス。」
「俺のことはレウスと呼べ。」
そう、今の俺にはお似合いの名前かもしれない。
「レウス...様。」
ステラはレウスの名を口にし、少し頬を染めながら彼を見つめた。
その行動に首を傾げると、ステラは我に返り慌ただしく話を続けた。
「そ、それでレウス様!」
「我々にお力を貸してくださるとのことでしたが。」
「ああ。だが、俺の目的を果たすまでの一時的なものだ。」
「それまではお前たち魔族の力になってやる。」
そう、俺には目的がある。
人族ーー特に、あいつらへの復讐だ。
脳裏に浮かぶ妻の顔。
俺は無意識に拳を握りしめていた。
そして、故郷で一体何があったのか真相を暴いてやる。
「それで、お前たちの望みは?」
「はい。私たちの望みは我らエルフ族の里『アルーヴ』と、最終的には魔族領とその王都の奪還です。」
ステラは先ほどまでとは違い、真剣な表情でこちらを見つめてきた。
「現状、魔族領は人族の二つの国から侵攻を受けています。」
「陸からは『ルクシリア王国』、海からは『ティラニス帝国』です。」
ーーやはり、王国の奴らだったか。
昨夜の兵士たち。
30年が経ち、鎧の見た目が少し変わっていたが王国のものだったようだ。
ステラはさらに話を続ける。
「二つの国は魔族領の覇権を争って対立し、我ら魔族にもその争いの火種が飛んできました。」
「人族らの支配領域は日に日に増して、今の我らだけではもうどうすることも...。」
ステラは悲しい表情でエルフの民たちに視線を向ける。
今日を生き残るだけでもままならない状態で故郷の奪還など夢のまた夢だろう。
「ですから、まずは我らの故郷を奪還し、皆が安心して暮らせる場所を取り戻さなければなりません!」
「そして、各地に散った他の種族たちと合流し、共に力を合わせて、この魔族領を我らの手に取り戻すのです!」
そして、ステラは改めて深々と頭を下げた。
「ですから、どうかレウス様のお力をお貸しください!」
少しの沈黙の後、レウスは口を開いた。
「今お前たちの故郷を占領しているのはどこの国だ。」
「は、はい。我らの故郷、そして王都を占領しているのは『ルクシリア王国』です。」
すると、レウスの口元にかすかな笑みが浮かんだ。
「いいだろう。」
「手始めにお前らの故郷奪還に手を貸してやる。」
「あ、ありがとうございます!」
俺の目的は王国と元仲間達への復讐だ。
だが、そのためにはまず情報がいる。
今あいつらが何をしているのか。
そして、どこにいるのか。
王国の現状を知る必要がある。
エルフたちの故郷を奪還するのはあくまでついでだ。
もしかすると、かつての仲間の誰かが、その里にいるかもしれないしな。
そう考えると、自然と口元が緩んだ。
レウスのそんな思惑を知る由もなく、ステラは涙を流しながら感謝の言葉を口にする。
「それで、お前らの故郷はどこにあるんだ?」
ステラは涙を拭い、レウスの質問に答える。
「はい。ここから東に2日ほど進んだところにあります。」
「ただ...。」
話の途中で急に言葉が詰まるステラ。
「どうした?」
「里に着いても我々はお力になれないと思います。」
「どうしてだ?」
「...魔封じです。」
その言葉を口にした途端、ステラの表情が曇った。
「以前、我々も里の奪還を試みたのですが...里全体に大きな魔封じの結界が張られて、手出しできませんでした。」
「そのため、魔法はおろか、魔族の私たちでは街に入ることもままならないでしょう。」
「なるほど...。」
俺は顎に手を当て、しばし考え込んだ。
ーー魔法を阻害する魔道具、か。
少し考えた後、レウスは口を開いた。
「そもそも、魔封じってなんなんだ?」
俺が尋ねると、ステラは小さく頷いた。
「魔封じとは、以前お伝えした通り、人族の賢者によって作られた魔法を阻害する魔道具です。」
「どうして魔法が使えないのか、その仕組みまでは分かりませんが...。」
そう言って、ステラは悔しげに眉を寄せた。
「仕組みさえ解明できれば、何か対抗する手段が見つかるかもしれません。」
「ですが...実物を手に入れたことがないため、それも叶いません。」
最後は、どこか諦めを含んだ声だった。
魔法を封じられるのは魔族にとっては相当脅威だろう。
俺も魔王との戦いで相当苦戦した記憶がある。
「そういえば、昨日の連中も持っていたんだろう?」
「それは回収できないのか?」
俺が何気なく尋ねると、ステラの表情が途端に曇った。
「あ...それが、その...。」
言いづらそうに視線を泳がせ、言葉を濁すステラ。
「...確かにあの指揮官が持っておりました。」
「ただ、昨夜のレウス様との戦いで、その...。」
「ーーあぁ。」
そこまで聞いて、ようやく察した。
「俺が一緒に燃やしちまったのか。」
「...はい。」
ステラは申し訳なさそうに俯いた。
「結局、俺頼みか。」
思わずため息が漏れた。
「うっ...。我らの故郷のことだというのに、何もかもレウス様に頼ることになってしまい...面目次第もございません。」
ステラは再び深々と頭を下げた。
いや、そもそも俺が手掛かりを燃やしたんだから、文句を言える立場でもないか。
「気にするな。そもそも、俺も自分の目的のために協力すると言ったんだ。」
「お前が負い目を感じる必要はない。」
「レウス様...。」
レウスの言葉に安堵する表情を見せるステラ。
「まあ、なんとかなるだろ。」
楽観的に聞こえるかもしれない。
だが、俺にはそう言い切れるだけの確信があった。
それはーー。
「きゃぁぁあああ!」
村中に叫び声が響き渡る。
「なんだ!」
すると、一人のエルフの男性が二人に駆け寄ってきた。
「ステラ様!」
「魔物です。魔物が現れました!」
「なんですって!?」
エルフの男性に連れられ、レウスとステラは村に急いで戻る。
そして、そこには人型や昆虫型、獣型といった様々な魔物の群れが村に押し寄せてきていた。
「なんでこんなに沢山の魔物が...。」
おそらく、昨晩の一件のせいだろう。
多くの血が流れたせいで、夜は寝ている魔物たちが今になって押し寄せてきたんだ。
なんとかエルフたちは魔法で対抗しているが、昨夜の一件で動けるものは少ない。
それに加えて、今までの疲労や不調により大した魔法も使えないようだ。
「私たちも加勢しないと!」
慌てて駆け出そうとするステラを、レウスが片手で制した。
「まかせろ。」
「レウス様...?」
そういうと、レウスは魔物たちの前に立った。
ステラや他のエルフたちは不安気にレクスを見つめる。
案の定、魔物たちはレウス目がけて一斉に走り出した。
「危ない!」
ステラは声を荒げ、飛び出そうとする。
他のエルフたちも魔法を構え始める。
だが。
『止まれ』
その瞬間、魔物たちは一斉に動きを止めた。
本能のままに暴れ回っていた魔物たちから、先ほどまでの凶暴さが消え失せた。
その瞳に宿っていたのは、主に従う獣のような静かな服従だった。
「一体...何が...。」
エルフたちの間から、困惑に満ちた声が次々と漏れる。
目の前で起きたことが信じられないのだろう。
誰もが呆然と立ち尽くし、魔物たちとレウスを交互に見つめていた。
中でも、先ほどまで必死に声を張り上げていたステラは、驚きのあまり口を開いたまま固まっていた。
なぜなら、本来誰にも懐くこともなく、心を通わすこともできない魔物を従わせているのだ。
そんな彼らをよそに、レウスは悠然と魔物の群れへと歩み寄った。
そして、一匹の魔物の頭にそっと手を乗せる。
そう。
これが、今の俺の力の一つだ。
昨晩の一件で確信した。
どういう因果か、勇者だった頃のスキルが別の力へと変質してしまったらしい。
だが、今の俺にとっては好都合だ。
この力があれば、国を相手にしても渡り合える。
ーー待っていろ、人間ども!
お忙しい中お時間を割いていただきありがとうございます!
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