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母の形見を奪われたので、家を出ます~奪った庶子は、義母の娘でした  作者: さんけい


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4 王都の駅で次兄と

 駅へ着いた時、マギーはまず手紙を出した。


 手紙だけでは遅いかもしれない、と窓口の年配の職員に言われた。

 そして王都へ急ぎの電信も送れるがどうするか、と訊かれ、迷った末にそちらも頼んだ。短く。


 ――今日、王都へ向かいます。

 ――駅で待っていてください。

 ――どうか一人にはしないで。


 最後の一文は、書いてから消そうとした。

 けれど、職員はもう紙を受け取っていた。


「これでよろしいですな」


 マギーは、はい、と答えた。


 *


 列車は昼過ぎに出た。

 屋敷のある町から王都までは、近いとは言えない。けれど遠すぎるわけでもない。

 夕方には着く。そう聞いていたのに、席に座ってみると、王都までの時間はやけに長かった。

 窓の外を、畑と林と小さな駅が流れていく。

 向かいの席には、商人らしい男が二人座っていた。彼らは荷の話をしている。塩の値が上がった、今年の羊毛はどうだ、王都の倉庫代が高すぎる。

 マギーにはよくわからないことばかりだったが、聞いている方が楽だった。自分のことを考えずに済む。

 それでも時々、胸元を見てしまう。ブローチはない。

 あの真珠は、今もロズリーの胸にあるのだろうか。それともお茶会の支度を終えたあと、オードリーが大事に箱へ戻したのだろうか。いや、戻す先はマギーの小箱ではないかもしれない。

 そう思ったところで、列車が大きく揺れた。

 マギーは膝の上の鞄を押さえた。中身は少ない。けれど、これだけは置いてくるわけにはいかなかった。


 途中の駅で、親子連れが乗ってきた。

 小さな女の子が母親の膝に座り、窓の外を指さしている。母親はそのたびに、ええ、馬ね、あれは水車ね、と答えていた。

 マギーはすぐに視線を外した。

 見てはいけないものを見たわけではない。ただ、見ていると自分の中のどこかが変に痛くなる。

 母は、ああいうふうに答えてくれる人だった。

 だからこそ父は、母が亡くなったあと、ひとりに耐えられなかったのだろう。

 それはわかる。わかるのに。

 その寂しさの隙間から、どうしてマギーの場所まで削られなければならなかったのかは、やはりわからない。


 王都に着く頃には、空は薄く暗くなっていた。

 大きな駅だった。

 屋根は高く、鉄骨の梁が黒く交差している。蒸気と煤の匂いがこもり、人の声があちこちで重なっていた。荷物を運ぶ者、迎えに来た者、馬車を呼ぶ者。町の駅とはまるで違う。

 マギーは鞄を持ち直す。


 ――急ぎの通信は届いただろうか。サミュエルは来てくれるだろうか。

 ――もし来なかったら。


 考えかけて、やめた。

 とにかく駅の中で待つ。夜になったら宿を探す。そう決めて、改札の方へ歩き出す。

 すると、


「マギー!」


 声がした。

 マギーは足を止める。

 改札の向こう、人の流れの中で、サミュエルが手を上げていた。大学の外套を着て、髪は少し乱れている。たぶん急いで来たのだろう。隣には、見覚えのない青年が立っていた。

 サミュエルは改札を抜けるなり、マギーの前で足を止めた。


「本当に来たのか」


 その言い方は、怒っているようにも、驚いているようにも聞こえた。

 マギーは返事をしようとして、声が出なかった。

 するとサミュエルは、マギーの鞄を見た。それから、外套の裾、手袋、髪に挿した簡素なピンまで順番に見て、最後にもう一度鞄へ戻る。


「……一人で来たんだな」

「はい」


 ようやく返事ができた。


「屋敷には?」

「言っていません」

「父上にも?」

「言っていません」

「兄さんにも?」

「言っていません」


 サミュエルはそこで片手を額に当てた。


「いや、うん。わかった。ひとまず、ここで詳しい話はしない」


 マギーは少しだけ肩の力を抜いた。

 怒鳴られなかった。

 それだけで、もう十分な気がした。


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