13 待ち受け、覚悟を決める朝
王都でその返事を受け取ったのは、翌朝だった。
サミュエルは封を開け、読み終えると、そのままルーカスへ渡した。ルーカスはざっと目を通し、ヘインズ氏へ回す。
「明日ではなく、今日来るということですね」
「昨日時点での明日だから、今日だ」
サミュエルは言った。
朝食の卓には、マギーもいた。ヘインズ夫人が焼きたての小さなパンを籠に入れて持ってくる。マギーは手元の皿を見たまま、会話を聞いていた。
父が来る。
ウィリアムも来るだろう。
そう思った瞬間、昨日より胸が詰まる思いがする。パンを一口ちぎったが、口に入れる気にならない。
「マギー」
サミュエルが声をかけた。
「今すぐ会わなくていい」
「でも、父上が」
「来るのは勝手だ。会うかどうかは、こちらで決める」
「そんなことができますか」
「できるようにする」
サミュエルはヘインズ氏を見た。
ヘインズ氏は茶を飲んでから、うなずいた。
「うちは貴族の屋敷ではないが、私の家だ。客を通す部屋も、通さない部屋も、こちらで決める。玄関に来た者を全員、食堂まで入れる商売はしていない」
「父上が怒ります」
「怒るだろうな」
サミュエルが答えた。
「ウィリアムも怒るでしょうか」
「怒る」
今度はルーカスが言った。
マギーがそちらを見ると、ルーカスは少しだけ肩をすくめた。
「昨夜からの話を聞く限りでは、怒ると思います。自分が動けば収まると思っている人は、扉を閉められるとまず扉に腹を立てるんです」
「扉に」
「ええ。中にいる人ではなく、まず扉に」
マギーは少しだけ笑いそうになったが、すぐには笑えなかった。
父が来る。ウィリアムが来る。
そして、ロズリーは屋敷にいる。お義母様も。
「私、ちゃんと話せるでしょうか」
「話せないなら、書いたものを読めばいい」
サミュエルは言った。
「昨日書いた便箋がある。あれを順番に出す」
「でも、まとまっていません」
「まとめなくていい」
その言い方は強くなかった。
「父上やウィリアムが勝手にまとめ始めたら、私が止める。お前は、覚えていることをそのまま言えばいい」
「そのまま」
「ああ。居間の椅子。青い布。ブローチ。鍵。昨日書いた順でいい」
マギーはうなずく。
ヘインズ夫人が、マギーの皿へ温かい卵を少し足した。
「食べられる分だけでいいわ。でも、少しは入れておきなさい。お腹が空いていると、声が出にくくなるから」
「はい」
マギーはパンを口に入れる。味はした。
それだけで、少しほっとした。
*
食後、ルーカスは商会の若い使いを二人呼んだ。
一人には、子爵家のあった町の馬車職人について調べるよう言いつける。もう一人には、王都の喪服を扱う仕立屋へ聞きに行くように言った。
「奥様方の噂話を聞くのではなく、帳簿を見せてもらえ。急ぎの注文、既製服の直し、支払いの名義。そこを当たるんだ」
「はい、若旦那」
「それと、余計なことは言うな。聞かれたら、ヘインズ商会で喪服の仕入れ先を確認していると言えばいい」
「はい」
若い使いたちは、慣れた様子で出ていく。マギーはそれを見ていた。
人が動く。自分の記憶のために。
それがまだ不思議だった。
「午後には、父上たちが着くだろう」
サミュエルが言う。
「それまでに、昨日の書付をもう一度見ておいた方がいい。直すのではなく、見返すだけでいい」
「はい」
「それと、父上が来ても、すぐ立ち上がらなくていい。謝る必要もない。まず座っていなさい」
「……はい」
「返事ができなければ、できないと言えばいい。泣きそうなら、そこで黙れ。無理に笑わなくていい」
命じる言い方ではなかった。
けれど、ひとつひとつ置かれるたびに、マギーは少しだけ息がしやすくなった。
ルーカスは窓の外を見た。
「馬車なら、昼過ぎでしょうね」
「思ったより早く来るかもしれない」
サミュエルが言う。
「ウィリアムが急がせるだろうさ」
「では、玄関に父を置きます」
「お前の父上を門番に使うなよ」
「向いていますよ。大きいので」
ちょうどそこへヘインズ氏が戻ってきた。
「誰が大きいんだ」
「父上です」
「それは事実だな」
ヘインズ氏はそう言って、書斎から持ってきたらしい鍵束を卓に置いた。
「客間は二つ空けてある。だが通すのは応接室までだ。マギー嬢が会いたくないと言えば、それ以上は入れない」
マギーはその鍵束を見た。大きな鍵と小さな鍵が、革紐にまとめられている。金属同士が触れて、かすかに鳴った。
この家の鍵は、誰かを閉じ込めるためではなく、誰かを勝手に入れないためにある。
マギーはそう思った。
そして、自分の小箱の鍵を思い出す。
――お義母様は、どうやって開けたのだろう。
同じ鍵を持っていたのか。
それとも、マギーの知らないうちに預けられていたのか。
問いが一つ増えた。
マギーは便箋を引き寄せ、その端に短く書いた。
――小箱の鍵。誰が持っていたか。




