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母の形見を奪われたので、家を出ます~奪った庶子は、義母の娘でした  作者: さんけい


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13/58

13 待ち受け、覚悟を決める朝

 王都でその返事を受け取ったのは、翌朝だった。

 サミュエルは封を開け、読み終えると、そのままルーカスへ渡した。ルーカスはざっと目を通し、ヘインズ氏へ回す。


「明日ではなく、今日来るということですね」

「昨日時点での明日だから、今日だ」


 サミュエルは言った。

 朝食の卓には、マギーもいた。ヘインズ夫人が焼きたての小さなパンを籠に入れて持ってくる。マギーは手元の皿を見たまま、会話を聞いていた。

 父が来る。

 ウィリアムも来るだろう。

 そう思った瞬間、昨日より胸が詰まる思いがする。パンを一口ちぎったが、口に入れる気にならない。


「マギー」


 サミュエルが声をかけた。


「今すぐ会わなくていい」

「でも、父上が」

「来るのは勝手だ。会うかどうかは、こちらで決める」

「そんなことができますか」

「できるようにする」


 サミュエルはヘインズ氏を見た。

 ヘインズ氏は茶を飲んでから、うなずいた。


「うちは貴族の屋敷ではないが、私の家だ。客を通す部屋も、通さない部屋も、こちらで決める。玄関に来た者を全員、食堂まで入れる商売はしていない」

「父上が怒ります」

「怒るだろうな」


 サミュエルが答えた。


「ウィリアムも怒るでしょうか」

「怒る」


 今度はルーカスが言った。

 マギーがそちらを見ると、ルーカスは少しだけ肩をすくめた。


「昨夜からの話を聞く限りでは、怒ると思います。自分が動けば収まると思っている人は、扉を閉められるとまず扉に腹を立てるんです」

「扉に」

「ええ。中にいる人ではなく、まず扉に」


 マギーは少しだけ笑いそうになったが、すぐには笑えなかった。

 父が来る。ウィリアムが来る。

 そして、ロズリーは屋敷にいる。お義母様も。


「私、ちゃんと話せるでしょうか」

「話せないなら、書いたものを読めばいい」


 サミュエルは言った。


「昨日書いた便箋がある。あれを順番に出す」

「でも、まとまっていません」

「まとめなくていい」


 その言い方は強くなかった。


「父上やウィリアムが勝手にまとめ始めたら、私が止める。お前は、覚えていることをそのまま言えばいい」

「そのまま」

「ああ。居間の椅子。青い布。ブローチ。鍵。昨日書いた順でいい」


 マギーはうなずく。

 ヘインズ夫人が、マギーの皿へ温かい卵を少し足した。


「食べられる分だけでいいわ。でも、少しは入れておきなさい。お腹が空いていると、声が出にくくなるから」

「はい」


 マギーはパンを口に入れる。味はした。

 それだけで、少しほっとした。


 *


 食後、ルーカスは商会の若い使いを二人呼んだ。

 一人には、子爵家のあった町の馬車職人について調べるよう言いつける。もう一人には、王都の喪服を扱う仕立屋へ聞きに行くように言った。


「奥様方の噂話を聞くのではなく、帳簿を見せてもらえ。急ぎの注文、既製服の直し、支払いの名義。そこを当たるんだ」

「はい、若旦那」

「それと、余計なことは言うな。聞かれたら、ヘインズ商会で喪服の仕入れ先を確認していると言えばいい」

「はい」


 若い使いたちは、慣れた様子で出ていく。マギーはそれを見ていた。

 人が動く。自分の記憶のために。

 それがまだ不思議だった。


「午後には、父上たちが着くだろう」


 サミュエルが言う。


「それまでに、昨日の書付をもう一度見ておいた方がいい。直すのではなく、見返すだけでいい」

「はい」

「それと、父上が来ても、すぐ立ち上がらなくていい。謝る必要もない。まず座っていなさい」

「……はい」

「返事ができなければ、できないと言えばいい。泣きそうなら、そこで黙れ。無理に笑わなくていい」


 命じる言い方ではなかった。

 けれど、ひとつひとつ置かれるたびに、マギーは少しだけ息がしやすくなった。

 ルーカスは窓の外を見た。


「馬車なら、昼過ぎでしょうね」

「思ったより早く来るかもしれない」


 サミュエルが言う。


「ウィリアムが急がせるだろうさ」

「では、玄関に父を置きます」

「お前の父上を門番に使うなよ」

「向いていますよ。大きいので」


 ちょうどそこへヘインズ氏が戻ってきた。


「誰が大きいんだ」

「父上です」

「それは事実だな」


 ヘインズ氏はそう言って、書斎から持ってきたらしい鍵束を卓に置いた。


「客間は二つ空けてある。だが通すのは応接室までだ。マギー嬢が会いたくないと言えば、それ以上は入れない」


 マギーはその鍵束を見た。大きな鍵と小さな鍵が、革紐にまとめられている。金属同士が触れて、かすかに鳴った。

 この家の鍵は、誰かを閉じ込めるためではなく、誰かを勝手に入れないためにある。

 マギーはそう思った。

 そして、自分の小箱の鍵を思い出す。


 ――お義母様は、どうやって開けたのだろう。


 同じ鍵を持っていたのか。

 それとも、マギーの知らないうちに預けられていたのか。

 問いが一つ増えた。

 マギーは便箋を引き寄せ、その端に短く書いた。


 ――小箱の鍵。誰が持っていたか。


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