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肉感的な美女と別れて、また2人で歩き出す。
無言だ。ゼーロンからマリアへ小言が飛ぶ事も無く黙々と歩く。
マリアはとても居心地の悪さを感じているが何かを言える勇気等持っていない。口を開くが何も出て来ず閉じるという行為を繰り返していた。
「あ、あ、あの、ご、ごめんなさい」
意を決して謝罪の言葉を話すマリア。
「何が?」
「お、お二人の会話の、邪魔を......」
「へー自覚はあったんだ」
許すとか責めるような言葉も使わずに、また無言になってしまう。
「わ、私の事......嫌いですよね」
「逆に好かれる所なんかあった?」
「ぇ、ぁ......」
また無言。マリアはオロオロするだけで反論も出ない。
また涙が込み上げてきた。
「また泣く......教会に帰れば?」
「ご、ご、ごめんなさい」
謝りながらも後から後から涙が溢れる。
「だる」
ゼーロンは虫でも見るような視線を一度よこすも直ぐに前に向き直り、どんどん進む。
マリアは慌てて歩き始めた。
結構な距離を無言で黙々と歩いているが次の街にはつかないまま夕方に。
ゼーロンは少し開けた森の中で野営の準備を始める。テキパキと手慣れた様子でテントを立て、焚き火の準備に取り掛かる。
マリアはオロオロとついて周るだけ。
「あのさぁ、良い加減にしなよ。声かけたら? 手伝いましょうか? とかあるでしょ。毎回そうだったけどさ、無言でついて回るだけって......鬱陶しいよ」
この旅路、常にそうだったのである。街から街の距離は当然ながらバラバラだ。野営だって今日が初めてではない。なのにマリアは動いてくれないのだ。
「あ、あ......て、手伝います」
「木の枝、乾燥してるやつね。拾ってきて」
「はい」
返事をしたのは良いものの。どれが乾燥しているか分からない。
「え? これかな?」
とりあえず目に入った枝を手当たり次第に拾って持っていった。
「え......マジ?」
半数以上の木の枝が瑞々しさが残る物だったのである。
「もしかしてお荷物さんって貴族な訳?」
「え? あ、いえ違います」
「普通は冬支度の時に乾燥している枝を拾ったりとか薪を割ったりして準備するでしょ」
「あ、え、わ、私の家ではいつも両親がやってました」
ゼーロンは思わずマリアの顔を見つめる。コイツは家でも何もして来なかったのか。両親の意向なのかもしれないが普通は手伝いを申し出るだろう。
「お荷物さんは家で何してきた訳?」
「い、家では、特に何もしてません」
ゼーロンは天を仰いだ。完全なお守り要員として一緒に行動する事になった気がする。勇者なんだから見捨てる事は無いだろうと押し付けられたのだ。きっと。
「料理は?」
「つ、つ、作れません」
「手伝うよとか声掛けなかったの? 全部両親にやって貰ってきた訳? マジ?」
「ぁ、ぇ、あ、起きたら朝ご飯は、もうあって、掃除とかも母さんはやり始めてるし」
「そうじゃなくてさ、声掛けるって事とか考えなかった? 手伝った方が両親も楽出来るでしょ」
マリアは考えた事も無い事を言われて、無言になる。私っておかしいのかと少しだけ思った。
「教会に入る前ってどんなだったのよ? まさかとは思うけど働いてないとか言わないよね?」
「は、は、働いてません」
ゼーロンは絶句した。
「......お荷物さんって何歳?」
「あ、はい、25になります」
化物を見るような顔で見つめられ戸惑うマリア。そんなに私は変な行動をしているだろうかと思い返す。
「次期聖女とか言われてなかったか?」
「そ、そ、それは多分、聖女は大変なので.......わ、私は頼まれた時に、ひ、否定しなかったからであって」
ゼーロンはコイツは思った以上にポンコツだぞと気を引き締める。こういう存在は本当に邪魔になるのだ。
何を言っても、おどおどとした返しをしてくる所なんて見ようによっては此方側が虐めてる様に見られるだろう。
何も出来ないお荷物さんを教育しよう等と思わない方が得策だろうか。しかしながら放っておいたら野垂れ死ぬこと請け合いである。
ゼーロンは肩を落した。これは貧乏くじだ。今更もう逃げ出す事は叶わないと分かってはいるものの、気持ちは下がる一方である。
極力関わらない様に魔王退治に向かおうと決意した。
無言で火を着けて鍋を掛ける。川から汲んでおいた水を入れて干し肉を適当に千切って入れた。
粗く切った野菜もゴロゴロ入れていく。塩と胡椒で味付けを調えてひと煮立ちさせた。
手際良く勧められる工程をやはり黙ってただ見つめるだけのマリア。
やって貰って当たり前の精神が染み付いているのだろう。ゼーロンは腹が立ったが何も言わない。疲れるだけだ。
自分の分の器を出してスープを盛る。街で買っておいたパンを取り出して食べ始めたゼーロン。
「え、あ、え、わ、私も食べたいです」
「何で? お荷物さんは何かしたっけ?」
「枝を拾ってきました」
食い気味に答えてきた態度に、また腹が立った。
「ほぼ使えるやつじゃ無かったでしょうよ。頭大丈夫? 教会から渡された荷物の中に日持ちする食べ物入ってる筈だから、それ食べなよ」
「あ......あ、はい」




