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食事をする為に階下へ降りたマリア。
「こ、ここかな」
そっと入口から中の様子を覗く。結構な人達で賑わっており美味しそうな香りもした。
合っていたと安堵して食堂へ足を踏み入れる。周りを見るとトレイを持った人達が思い思いに食べ物を選んで取っている。成る程、自分で取るスタイルなんだなと理解した。
肝心のトレイが見当たらない。キョロキョロ視線を動かして周囲を探すが、やはり見当たらない。誰かに話し掛ける事も出来ないでいると、並べられている料理はどんどん減っていく。
どうしよう。どうしよう。動悸が早くなる。今も減っいっている料理達。しかし、話し掛ける事は出来ない。
入口付近に立ち止ったまま周りをキョロキョロ見ているだけの女、しかもシスター服。目立っていた。
しかし、話し掛ける様な奇特な人物はいない。ここは教会ではない。優しく他人に余裕を持って接する事が出来る人間は少ないのである。
ドンとぶつかられてよろける。
「チッ、邪魔だなぁ」
舌打ちされ悪態もつかれた。更に萎縮するマリア。
もう食べる物はパン位しか残っていない。このままでは何も口にする事なくこの街を発つ事になる。
やっと店員らしき人物に声を掛ける事が出来た。
「あ、あ、あの、トレイは何処に」
「あぁ、はい。どうぞ」
声を掛けられてから手渡す仕組みだった。
残り少ない肉料理を取り、白パンを幾つか取る。もう人も殆ど残っておらず座り放題だ。返却場所の近くの席に座り食べ始める。
食べ終わりお腹も膨れて気分が上向く。
自分から声を掛ける事が出来た事を思い出しニヤニヤしながら部屋へと戻ると、ゼーロンは居なかった。荷物も無い。書き置きは無いかなと部屋を探してみるが何も無い。
「え? え?」
自分の荷物には手をつけられる事は無くそのままになっているのを見て、とりあえず荷物を纏めた。戻ってくるかもしれないと、しばらく待っていると扉をノックされる。
「あ、は、はい」
「もう退室の時間なので出て貰えますか?」
「は、はい、あ、今」
荷物を纏めといて良かったと思いながらリュックを背負い部屋を出た。
ドラドラ屋を出るが、やはりゼーロンが待っている筈も無く途法に暮れる。
「ぇ、どうしよう、あ、教会は.....」
教会に行った所でどうにもならないと気付く。ゼーロンは、そもそも教会に良い感情を持っていなかった事を思い出したのだ。
「どうしよう」
キョロキョロと辺りを探す。どっちから街に入ったかを一生懸命に思い出す。
多分、先に出発したのだと考えた。早く後を追わなければきっと捨てられるだろう事は分かる。
「どこだっけ?」
同じ所をグルグル回る怪しいシスター服の女。
「あ、こ、こっちだ。こっちから来たんだからあっちに」
ようやくどっちから出れば良いのか分かったマリア。小走りで街を出ようとする。
「ちょっとちょっと、バッジ見せて」
「あ、あ、すみません」
街に入る時も出る時もチェックが入るのだ。
無駄に歩き回ったせいで既に足が疲れているが置いて行かれる訳にはいかないと懸命に歩く。
少し進むと立派な馬車が止まっていた。
木の影の中で誰かと話し込むゼーロンを見つける。
「いやぁ、そんな事はありません。僕なんてとてもとても」
「何を仰るのです。勇者様は大変素敵な殿方ですわ」
肉感的で美しい女性がゼーロンの手を取り頬を寄せて話している。
ドクンと心臓を掴まれた様な感覚に陥る。とても楽しそうに優しそうな微笑みを浮かべて女性と話す様子は、自分に対して向けられる表情とは比べ物にならない。
この人は私の事が嫌いなのだなとまざまざと見せ付けられる。
「それで勇者様には決まったお相手なんていらっしゃるのですか?」
「居ませんよ。募集中です」
優しいだけの表情から一転、色気を感じさせる顔を見せるゼーロン。
元の顔が良い為に、お相手の女性には効果てきめんだったらしい。顔を赤らめ垂れかかる。
「私が立候補しても?」
「おや、これは光栄です」
手を握り合い顔が近付く。
何だか泣けてきてしまったマリア。
「うっ......ぐす」
鼻を啜る音で会話を楽しんでいた2人がマリアに気付く。
ゼーロンは本当に腹が立った。今良い所だったんだよ。ふざけるなよ。お荷物が。
「あの、宜しいのかしら? あの方泣いてますけど」
「ん? あぁ、聖女なんですよ彼女は。僕とはぐれて心細かったのでしょうね。見つける事が出来て安心したのかな」
違う。勇者から嫌われている事実がハッキリしたせいで傷付いているのだと告げたいが、まるで好かれたいみたいで格好悪い。
分かっている。自分は只の同行者に過ぎない事は。それにゼーロンに好かれたいなんて、これっぽっちも思っていない。
私だって旅になんか出たくなかったのだ。
教会の中で安全で平和な毎日を過ごしていたかった。
ここで変な事を言って勘違いされるのも何だか悔しい。




