15
朝起きて何気なく部屋を見渡してドアと床の隙間に見付けた紙。
「何だ?」
ゼーロンはのそりと立ち上がって手に取る。
たった1枚ペラリと置かれた、それはクリスティからの手紙であった。ドクンと心臓が高鳴る。
辿々しい文字をゆっくり見ていく。
成る程、明日は休みらしい。どうやら、また文字の勉強会を開いて欲しいようだ。
だらしなく口元が知らずに緩む。
「午前中はデートで午後から勉強会にするか」
サッと朝の支度を済まして宝飾店に行く算段を付ける。彼処の店主にお勧めの落ち着いた店を聞いておこうと思ったのだ。
「ん......な"ぁあ"」
ガバリと勢い良く顔を上げるマリア。
シスター服のままベッドの上でゴロゴロしている内に寝てしまっていたのである。風呂にも入らず晩御飯も食べずじまいだ。
慌ててベッドから転がり出て扉を開ける。乾いた食事が置かれたままであった。
「あ、あった......た、食べよう」
中に運び入れモソモソと食べ進める。当然ながら余り美味しくは無い。肉は固くなっているし、サラダも葉野菜達が萎びている。
寝てしまった自分が悪いのだ。そんな事は良く分かっているが腹立たしくなってきたマリア。溜め息を何度もつく。
喉を余り通らない食事を済ませて急いで風呂の準備を進める。
さすがに汗臭いまま教会に行くのは躊躇われたのだ。充分に湯が溜まっていないが服を脱ぎ捨て浴室へ向かう。
溜まり始めの湯を使ってどんどん洗っていった。湯船にゆっくり浸かる時間は無いとマリアなりに判断した結果である。
蛇口を止めてさっさと浴室から出て高速で拭いていく。
「は、早くしないと」
髪が長いせいで中々乾かない。
「あ"ーもう!」
こんな時、癒しの力以外の魔法が使えていたらと思わずにはいられない。何故、癒しの力に目覚めてしまったのか。
「もう良いか」
はーと深い溜め息を溢す。まだ、しっとりと濡れているが日が高くなってきていたのを見て諦めた。もう宿を出て教会に向かった方が良いだろうと。
ゼーロンは例の宝飾店へと来ていた。
「それで、何処かお勧めの店はありますか?」
「ランチの場で思いを告げられるのですよね? それでしたらフクースナというお店がお勧めです」
店主が言うには料理がまず美味しく店員の接客レベルも他の店よりも高いらしい。勿論、値段設定も他の店よりも高いようだが。
「ドレスアップして行った方が良い様な所ですね。彼女にも着替えて貰います」
「確かに、ある程度の服装は必要でしょう。どうですか? このまま一度服屋にも寄ってみては?」
「彼女に似合うドレスを店員に直接選んで貰いたいので明日にします」
「先に勇者様の分だけ買っておけば時間に余裕が出るのではありませんかな? それに下見も兼ねて見ておく必要があるかと」
「そうですね! 下見も兼ねて行ってきます」
店主に見送られながら少し敷居の高い服屋に向かう。
「いらっしゃいませ」
にこやかに数名の店員達に出迎えられ内心気後れしてしまうゼーロン。しかし、表情は崩さずに平静を装う。
「明日、好きな人に告白する為フクースナという店に行くので恥ずかしくない格好になりたいのです」
「かしこまりました。幾つかパターンをお出ししましょう。私共もご一緒に考えます」
サーッと奥の部屋へと連れて行かれ、仕立ての良い服を何パターンも試着させられた。正直うんざりしてしまう程であったがクリスティに良く見られる為だと耐えて見せたゼーロン。
そのかいもあって納得のいく物を選べた。店員達からも太鼓判を押された。
「有難うございます。明日は例の彼女を連れて来ますので宜しくお願いします」
「お任せ下さいませ」
きっちり支払いを済ませてスリーピースのスーツを持って宿屋へ一旦戻った。
小走りで教会へ向かうマリア。
司祭様が教会の前で立って待ってくれているのを発見し慌てて速度を上げて急ぐ。
「ご、ごめんなさい。お、お、遅くなりました」
「いえいえ、来て頂けて良かったです。何せ昨日は大変にお疲れの様子でしたので.......」
足元がふらつく程に頑張ってくれた事を思い出したのか、1人ウンウンと頷く司祭様。
「あ! これは申し訳ない。ささっ、中へどうぞ」
手でサッと示されたので、中へ入るマリア。昨日も案内された奥まった部屋へと向かう。
癒しの力を使った人達は寝たきりでは無くなってベッドの上で身を起こしていた。そんな光景を見てマリアは胸が震える。良かった、ちゃんと力になれていたのだと安堵すると同時に嬉しくなった。
「よ...よ、良かった」
「はい、ご覧の通り起き上がる事すら困難であった人達が自分で食事も取れる様になりました。これも次期聖女様のおかげです」




