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コンコンと何度か軽いノックに、顔を上げる。
「おはようございます」
聞こえてきた声は可愛い、あの子の物。鏡に自分を写して変な所が無いか確認しつつ返事をする。
「おはようございます。今行きますね」
扉を開けるとシンプルなブラウスに可愛らしいスカート姿だった。似合っている。
「いやぁ、驚いた。昨日見たエプロンドレス? みたいな服でも可愛かったのに......君に似合っていて良いね」
「あれは一応この宿の制服みたいな物で」
スカートの裾を意味も無く払って返すクリスティ。照れ隠しなのかな、それにしても可愛いと思わず撫でてしまったゼーロン。
「あ! 申し訳ない。許可も取らないで」
「え! いえ。大丈夫です。嬉しかったし」
最後の方は思わず言ってしまったのか顔を真っ赤に染め上げるクリスティ。
「嬉しかったですか」
それは良かったと繋げて、顔を見つめる。
「お腹が空きました。クリスティさんは? 朝ご飯食べました?」
「まだです。宿の朝ご飯は自分で取っていくスタイルなの......従業員も食べて良い事になっているから一緒に食べましょう」
「あぁ、是非。一緒に食べましょう」
フフフッと笑い合って食堂に向かう。途中、受付にいる主人に声を掛けておく。
「突然で申し訳無い、連泊させて欲しいのですが」
「おー! 有り難い、勇者様に何日も泊まって頂いたとなれば一層繁盛してしまいますよ」
勇者という単語に驚くクリスティ。
「ゆっ勇者様?」
「はい、ですが。気にしないで下さい。大した事は無い平凡な男ですよ」
離れようとするクリスティに距離を取られたく無くて手を握ってしまった。
「一緒に食べて頂けるんですよね? 約束しました」
真剣な顔を見て頷くクリスティ。手を繋いだまま2人で歩く。
「僕が嫌になりましたか?」
「違います。ただ気後れして」
「どうして?」
「だって私は何の取り柄も無いし、釣り合わないと思います」
段々と俯きながら話す様になるクリスティに胸を痛めるゼーロン。
「クリスティさんは凄いですよ。立派に自活している。私の知り合いには25歳まで無職みたいな物で何にも出来ない様な人も居ます。そんな人と比べられるのも嫌かもしれませんが......僕は君と会って間もない、全然時間も経っていないけど。とても好ましいと思っています」
食堂に着いてトレイを受け取り食べたい物を選ぶ。
2人向かい合って座った。
「ゼーロン様は、何日ここに滞在するのですか?」
「そうですね......特に決めていませんでしたが10日は居ようかと。クリスティさんに手紙を読んで貰いたいので」
「ぁ......はい」
「名前を書く事は出来ますか?」
「名前だけなら」
「良いですね。数字の方は? 計算とか出来ますか?」
クリスティは頷いて返す。
「店の食材を買うのに、お金の計算出来ないと困るから宿の主人に教えて貰いました」
「凄い、クリスティさんは頑張れる素敵な方ですね」
「そんな凄い事はありません。只生きていくには必要だったからで」
「謙遜しないで下さい。クリスティさんは今でも充分に頑張っておられる」
甘いマスクで微笑みを絶やさない物腰の柔らかい男。周りには居なかったタイプである。
赤髪に、これまた赤い目。目元は二重ながら切れ長で鼻筋も通っている。唇は薄く今は嬉しそうに弧を描いていた。
褒められて相手からの好意も充分に感じる上に見た目もタイプで、クリスティは恋に落ちた。
「ゼーロンさんには、お付き合いされてる方居ますか?」
反射的に聞いてしまった。今なら引き返せる。ここで決まった相手が居るなら傷も、浅くて済む。
「居ませんよ。募集中です。願わくば目の前に居る方に隣に居て欲しいと思っています」
直球で言われた言葉に目を見開き何も言えないクリスティ。
「あ、嫌でしたか? すみません。今直ぐに返事が欲しい訳ではありませんので。ゆっくり考えて貰いたい。どうせ、この長い旅はまだ続きますし。手紙交換等して、お互いに良く知ってからで問題は無いですよ」
断れられるのが怖くて滔々と語ってしまうゼーロン。
「違います! 嫌じゃなくて......すみません。男の人に好意を寄せられる事が余り無くて、びっくりしちゃって。私も、こ、こっ好ましいと思います」
お互いに顔を赤くして見つめ合う。
そんな幸せそうな2人を呆然と見つめるマリア。この人、こんな顔するのかとゼーロンの表情の豊かさに心底驚く。
とりあえず、お腹空いてるしと置いてあるトレイを持って食べたい物を取っていく。余り近くに居るとゼーロンに何を言われるか分かったものではない。
少し離れた席に着く。声はかろうじて聞こえる距離に陣取った。ひとえに好奇心からである。
どうやら、この可愛い人と勉強会をするらしい。ほほぉ、楽しそうに笑い合っている。
明るい金髪に綺麗な緑色の目だ。目鼻立ちは、はっきりとしていて見た目だけなら気が強そうにも見える。
ゼーロンの見た目のタイプは綺麗めの肉感的な方らしいぞ。前に口説いていた貴族っぽい方もそんな感じだった。
ほーほーと1人納得して頷くマリア。




