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「あの、どうぞ」
王太子のリオネルが、何故こんな所に来たのだろう。取り敢えず、座って貰いお茶を出した。
「あぁ、すまないな。頂こう」
リオネルが、優雅にアイリーンの淹れたお茶を飲んでいる。まさか、王太子であるリオネルが自分の淹れたお茶を、こんな所で飲んでいるなど、普通に考えたらあり得ない。これは、夢か何かだろうか……。
因みに、先程お茶を淹れている最中「アイリーン嬢は、自分でお茶を淹れられるのか」と感心された。ちょっぴり嬉しかったりするが、複雑でもある。強制的に叩き込まれました、とは言えないので普通に礼だけ述べた。
それにしても、リオネルに会うのは初めてではないが、挨拶を交わした事がある程度で、顔などこんなに間近で見た事はない。こうして間近で見るとやはり兄弟だ。シェルトと顔立ちや雰囲気がよく似ている。
「私の、顔に何かついてるかな?アイリーン嬢」
「い、いえ‼︎申し訳ございません!」
リオネルは、アイリーンからの視線に気付き声を掛けた。アイリーンは、勢いよく頭を下げる。
どうしよう。王太子殿下の顔をこんな至近距離で、ガン見していたから、気分を害したかも知れない……。
以前のアイリーンならこんな失態はしなかった。これでも、公爵令嬢として、淑女としての振る舞いは完璧だった筈。ただ、押しにだけは弱かったが。
ここでの暮らしは、公爵家での暮らしとはかけ離れている。故に、自分が気付かない内に、いつの間にか幾分と変わっていたらしい。
「フッ。別に怒ってなどいない。ただ、随分とアイリーン嬢からの視線が熱かったのでね、気になっただけだよ」
リオネルの言葉にアイリーンは、ほっと胸を撫で下ろした。そして落ち着いた所で、やはり気になるのはシェルトの事だ。
「……あの、リオネル殿下。シェルト様は」
「あぁ、今日は来ていないみたいだな」
リオネルの意外な言葉に、アイリーンは目を丸くした。てっきり、シェルトの事で何か話があってきたのとばかり思っていた。
どうやら、リオネルもシェルトの所在を知らない様子に見える。
「シェルト様に、会いに来られたのですか。シェルト様でしたら、ここ数日いらしてないですが……」
アイリーンは自分で言って、自分で落ち込む。先程まで、1人で落ち込んでいた事を、思い出してしまった。
「いや」
なら、何しに来たのだろうか。まさか、私に会いに来たわけでもあるまいし。
「アイリーン嬢、君に会いに来たんだ」
いえ、私に会いに来たそうです。
リオネルに椅子を勧められ、アイリーンは恐縮しながらなも腰を下ろした。
「……」
何だか、凄く気まずい。顔や雰囲気はシェルトに似ているが、リオネルはシェルトと違い、どこか威圧的なものを感じる。流石、王太子と言ったところか……。
「君と1度サシで話したいと思っていた」
え……それは、どういった意味なのだろう。サシで話したいなどと言われたのは人生の中で初めてだ。一体何を言われるのか……。
アイリーンの額に汗が一筋流れた。
まさか、可愛い弟であるシェルトを誘惑するなとか。可愛い弟であるシェルトから身を引け、とか。可愛い弟を……。リオネルも、まさかユリウス達と同類⁈幼馴染が幼馴染が、友人として友人として。今度は、兄として、兄としてと、攻撃されるのか……。想像しただけで、胃が痛くなりそうだ。
「アイリーン嬢、君はシェルトをどう思う」
何だか、抽象的な質問ですね。これは、試されているとか?どうしよう……なんて答えれば正解なのだろう。
まさか……カッコよくて、何でも出来て、頼り甲斐もあるし、ちょっと意地悪だけど、まあそこも嫌いじゃないんですが、それでいて優しくて、全て完璧な人です!とは言えないし。
「成る程……ベタ褒めだな」
「へ?どうして……」
リオネル様は、実は心が読めるの⁈それは、マズすぎる!じゃあ、今までの事全てダダ漏れ⁈
かなり動揺しているアイリーンを見たリオネルは、愉しそうに笑った。
「フッ。アイリーン嬢は、予想に反して面白い人のようだ。大丈夫だ、私は君の心の中を読んだ訳ではないよ。全部、口に出ていただけだ」
リオネルの言葉に、アイリーンは絶句した。
嘘、でしょう。リオネル殿下、全然大丈夫なんかではないです……恥ずかし過ぎてこの場から消えて無くなりたい……。いや、その前に不敬罪で首が飛んだりして……。
アイリーンは体を縮こまらせて、顔を真っ赤にしたり、青くしたりしていた。
「アイリーン嬢、弟をそこまで想ってくれて嬉しいよ。感謝する」
「そ、そんなっ。感謝、なんて……寧ろ感謝しなければならないのは、私の方でして」
シェルトの意向がどうであれ、シェルトのお陰でアイリーンは今自由に、幸せな日々を過ごしている。感謝しなければならないのは自分だ。
でも、良かった。どうやら、アイリーンの首は飛ぶ事はなさそうだ。
「アイリーン嬢、君に話したい事がある」
急に深刻な表情を浮かべるリオネルに、アイリーンは息を呑む。
「実は……」
バンッ!
リオネルが口を開いた瞬間、扉が勢いよく開いた。
「シェルト様!」
開け放たれた扉の前に立っていたのは、息を切らし珍しく怒った表情を浮かべているシェルトだった。




