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バンッ‼︎‼︎
テーブルが勢いよく叩かれた、ユリウスによって。
「アイリーンは、私の婚約者だ!婚約破棄などあり得ない!」
だから、あり得ないのは貴方です……。
アイリーンは何故ユリウスが、こんなにも頑なに婚約破棄をしたがらないのが理解し難い。レベッカと結婚出来ないのは分かる。で、そうなると代役が必要になるのも分かる。
いや、やっぱり分からない。
そもそもレベッカを、そんなにも好きならどんな手を使っても手に入れようと努力を先ずはするべきだ。努力もせずに、楽な道を選ぶユリウスは滑稽で、酷く情けない。
最近は気にならなくなっていたが、何だかそう考えると段々と苛々してきた。
「婚約者である、私の前で求婚するなどあり得ないだろう⁈」
バンッ‼︎‼︎‼︎
テーブルが勢いよく叩かれた、今度はアイリーンによって。
瞬間、部屋の中は静まり返り皆驚愕した表情を浮かべ、アイリーンを見ている。ユリウスの時の何倍も迫力がある。
「あ、アイリーン……?」
恐る恐る口を開くユリウス。
「あり得ないだろう?……ですか」
「え、あ……」
「あり得ないのは、貴方ですよね、ユリウス様?婚約者である私がいるのにも関わらず、幼馴染であるレベッカ様といちゃいちゃいちゃいちゃなさって」
この際どうでもいいと、アイリーンはやけになっていた。
「幼馴染であるレベッカ様が、そんなにもお好きなら、幼馴染であるレベッカ様と駆け落ちでもなんでもなさったら如何ですか?幼馴染であるレベッカ様なら、きっと一緒について来て下さいますよ?……そうですよね、幼馴染であるレベッカ様?」
「あ、アイリーン、少し落ち着こう?気は確か」
ユリウスは、情けない顔をしながらおろおろとしている。
「私は至って冷静ですし、正常です!寧ろ気をおかしくなさっておいでなのはユリウス様とレベッカ様ですよね⁈」
アイリーンの迫力に押されたユリウスは、背後によろけ尻餅をついた。
「ユリウス‼︎大丈夫⁈」
レベッカは急いで駆け寄り、手を差し出した。
「ちょっと‼︎アイリーン様、幾ら何でも言葉が過ぎます!ユリウスが可哀想ではないんですか⁈」
いや、可哀想な訳がない。寧ろ貴女の事でもあるんですが……。
「可哀想なユリウス。アイリーン様から、謂れのない事で責められて……」
だから、貴女の事でもあります!……レベッカは、自身の事は完全にスルーしている。相変わらず、図太いな……と思う。
「レベッカの言う通りだ。アイリーン嬢、流石に暴言が過ぎるのではないか。これは、ユリウスの友人として見逃す事は出来ない」
類は友を呼ぶ、とはよく言ったものだ。第2王子のパトリスはユリウスの友人としてを連発してきた。友人として、友人として、友人として……鬱陶しい。
だが、相手は第2王子だ。流石にアイリーンも、これ以上何も言う事が出来なかった。心の中でため息を吐く。
ちらりと、後ろを見遣ると先程の令息達は、皆黙り込んでいる。誰1人としてアイリーンを庇おうとしてくれる者はいない。
まあ、そんなものよね。
思わず嘲笑する。先程までは、あんなにアイリーンの事を如何に好きかを語り、争っていたのに。我が身可愛さに、王族に楯突いてまで、アイリーンの味方をしようとは思わないのだろう。
所詮アイリーンへの想いなど、その程度のものだ。
「分かったなら、ユリウスとレベッカに謝罪の1つもあっていいだろう」
長いパトリスの、アイリーンへの説教もとい非難が終わると、2人への謝罪を要求された。
アイリーンは、唇を噛み締めた。悔しくて、自分が情けなくて、目の奥が熱くなる。淑女たるもの、人前で涙を流すなどあり得ない。アイリーンは、込み上げてくる熱いものをぐっと堪こえると、ゆっくりと頭を下げようとした、瞬間だった。
「謝罪など必要ないよ」




