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アイリーンは、息を呑んだ。凛とした声と共に颯爽と現れたのは、第3王子のシェルトだった。
静まり返る部屋の中に、シェルトのコツコツという靴音が響く。そして、アイリーンの側まで来ると背に庇う様にして、パトリスと対峙した。
「アイリーン嬢には、なんら非はない。故に謝る必要などない。寧ろ、ユリウスとレベッカ達が、彼女に謝罪して然るべきであると思うけど」
シェルト様……どうして。アイリーンは、全身が震えた。庇ってくれている。誰1人として味方がいない中、唯一シェルトだけがアイリーンの味方になってくれた。しかも、あの舞踏会の夜からずっとシェルトの事が頭から離れないでいた矢先。それが、こんな風に現れるなんて……こんなのは絶対反則だ。色んな意味で熱いものが込み上げてくる。
「シェルト……お前はレベッカの婚約者だろう。それなのにアイリーン嬢の肩を持つつもりか」
パトリスは、シェルトを睨みつける。そして、シェルトもまた鋭い視線を向けていた。一触即発の展開に、周囲は固唾を呑む。
「婚約者だから、どうしたという訳?婚約者だから、例え悪事を働いても見逃して、更には味方をしろと?パトリスの頭の中は、お花でも咲いているんじゃないのかな」
「っ‼︎シェルト、いつも言っているが、私はお前の兄なんだ!呼び捨てにするな‼︎それに、花が咲いているとは無礼だぞ!」
アイリーンは、シェルトとパトリスの遣り取りを見ていて思った。仲、悪いんですね……。しかも、シェルトはどう見ても、パトリスを下に見ている。兄なのに……。
「あぁ、そうでした。余りにも兄さんが幼いから、てっきり僕より年下だったかと、錯覚してしまったよ」
なんか、シェルト様って……黒いんですね。思っていた人となんか、違う気が……。アイリーンは、苦笑いを浮かべた。でも、まあカッコいい事には変わりない。
先程、シェルトが颯爽と現れた時は、昔読んだ本の中に登場する王子様のようだった。主人公である姫のピンチには必ず颯爽と現れ、救ってくれる。優しくて、頼りになって、正義の味方で、おまけに誰もが憧れる王子様だ。
実際、シェルトは王子であるので、まさに本の中から飛び出してきたように思えてくる。
アイリーンは、シェルトをちらりと横目で盗み見た。やはり、カッコいい……。この前の舞踏会の時より、更に何倍も輝いて見える!これが所謂欲目というものか。
「シェルト、貴方は私の婚約者であって幼馴染でもあるのに……アイリーン様の味方をするというの⁈酷いわっ!あんまりだわ‼︎」
出た。パトリスが劣勢と見るや否やレベッカが援護射撃を打ってきた。大きな瞳いっぱいに涙を浮かべて、周囲の同情を誘うという、単純明快な作戦だ。だが効果は抜群だろう。
以前から思っているが、レベッカは演技が実に上手い。その道の専門家になれば、才能を発揮するに違いない、と思う程に……。
きっと、その辺のチョロい令息達は容易く騙されるに違いない。アイリーンは、少しだけ振り返り、チョロだろうと推測出来る令息達を見遣る。案の定、心配そうな表情を浮かべレベッカを見ていた。
いやいや、ほんの少し前まで貴方方、私に求愛してましたよね?
「レベッカ嬢、私がおります。さあ、涙をお拭き下さい」
あれは、確か侯爵令息の……名前は忘れた。兎に角、1番初めにアイリーンに声を掛けてきた令息だ。レベッカの前に跪き、ハンカチを差し出す。
本当に……チョロいな。
アイリーンは呆れるを通り越して、笑えてきた。その後、次から次へと侯爵令息とその他大勢の令息達はレベッカを取り囲み慰める。流石のユリウスとパトリスも呆気にとられ、若干引いている。どうでもいいけど!
アホらしい……。アイリーンはため息を吐き、今の内に帰ってしまおうかと、バレない様にゆっくりと後退りをする。
「アイリーン嬢」
その時、シェルトに腕を掴まれた。
「へ⁈」
しぇ、シェルト様が……私の腕に、ふ、触れて……。アイリーンは、恥ずかしさに頬を染めた。嬉し恥ずかし乙女の恋心とは、こんな感じかしら。確か、昔読んだ本の1文にそんなのがあったなぁ、なんて下らない事を考えていたが……。
いやいや!これでは、帰りたいのに帰れないじゃない‼︎
アイリーンは、一瞬シェルトの魅力にくらりとしたが、気を持ち直し腕を外そうと試みる。だが当然力で敵う筈はない。しかも思った以上に、確りと掴まれている。
「僕は、レベッカと婚約破棄をする。だから、君にも、ユリウスとは婚約破棄して貰う」




