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アイリーンは、思考が停止した。取り敢えず、周囲を見回す。良かった。レベッカに気を取られ、誰も聞いていなかったようだ。
それにしても、今なんて、仰いましたか?何かとんでもない事を、さらっと、当たり前の様に言われた気がする……聞き間違えかな。最近あの2人の所為で、疲れてたから……幻聴かな。
アイリーンは、聞かなかった事にしたが。
「ユリウスと君には婚約破棄をして貰う、分かった?」
そこ、2回も言いますか?しかも、半ば強制ですか。
それにしても、シェルトは何故2回言ったのだろう……。どうでもいい所が、気になってしまう自分の性格が笑える。だが、気になるものは気になる。私は、好奇心旺盛なんです。
アイリーンは、暫し悩み納得をした。
あー、あれだ!大事な事だから2回言いました!的な感じだ。成る程!若しくは、聞いていない事にしようとしたのがバレたか……。
「……」
ニコニコしながら、アイリーンを見ているシェルトと目が合った。アイリーンはシェルトの笑顔に、不本意ながら頬が赤くなってしまった。……やっぱり、カッコいい。素敵です、シェルト様。心なしか、何か光り輝くモノが見えるし。シェルト様と、結婚するのも悪くないかも、知れない……なんて気になってくる。
「……」
いやいや!やっぱり色々おかしい。危ない、危ない、素直に頷く所だった……。欲目効果って、怖い。確かにユリウスとは、もの凄~く婚約破棄はしたいが、そこにシェルトとレベッカは、関係ない筈だ。更に言えば、常識的に考えて、もしも関係があったとしたなら……それはまずいだろう。
「あ、あの、シェルト様……理由をお伺いしても……」
一応、理由は聞いておく。後から知っても、怖いし困る。
「理由?アイリーン嬢、変な事聞くんだね」
そう言いながら、可笑しそうに笑うシェルト。
それを見たアイリーンは、不安になった。何だか、シェルトもヤバそうな匂いがする、と……。
「だって、僕とレベッカが婚約破棄しても、ユリウスと君が婚約破棄しなかったら、君は僕と結婚出来ないんだよ?そんなのおかしいじゃないか」
私には貴方が、おかしいのではないかと心配になります……。アイリーンは、シェルトのズレた回答に引いた。呆気に取られるアイリーンを他所に、空気を読もうとしないシェルトはそのまま話を続けていく。強引に押し切るつもりだろうか。
「アイリーン……もう、我慢する必要はないよ。僕が君を全てから解放してあげる。無事婚約できたら」
シェルトはアイリーンの耳元に唇を寄せ、恥ずかしい台詞を囁かれ、熱い息を掛けられた。アイリーンは思わず身体を震わす。
「っ‼︎」
アイリーンは口を、パクパクとさせ顔を真っ赤にする。免疫のないアイリーンの頭と身体は、パニック状態に陥り、目眩に襲われフラついた。
「おっと、大丈夫かな?そんなに、恥ずかしがらなくてもいいのに。今からそれだと、僕との甘い夜は心臓が破裂してしまうよ?」
シェルトの言葉が、冗談なのか本気なのか、もはやアイリーンには選別出来ない。
「さて、此処にはもう用はないし。帰ろうか」
シェルトは、さも当然の如くアイリーンの腰に腕を回し、帰ろうとする。そこで、アイリーンの意識は覚醒した。
「シェルト様⁈私、1人で帰れますから!」
「レディーを1人で帰すなんて、そんな危険な事出来ないよ」
貴方と帰る方が、危険です‼︎
「いえいえ!私なら、本当に大丈夫ですので……それにレベッカ様をほっておかれるのは……」
アイリーンは、未だ泣き真似をしているレベッカに、視線をやった。よくもまあ、あんなに涙が出るものだと正直、感心する。
シェルトもアイリーンにつられてレベッカを見るが、盛大なため息を吐いた。
「見ての通り、レベッカには彼らも、一応ユリウスもいるし。そもそも、レベッカはほっておいても、問題ないよ」
以前も思ったが、従兄妹で、妹のようだと言うわりには、シェルトのレベッカへの対応が冷た過ぎる気が……これは恋愛対象以前に、ただ単にレベッカの事が嫌いなのでは……。
シェルトは、かなり強引にアイリーンの腰に手を回すと、そのまま屋敷の外へと連れ出した。外には、既に馬車が待っており、アイリーンはシェルトに乗るように促される。
「シェルト様、あの、私は自分の家の馬車に乗りますので……きゃっ‼︎」
不意にアイリーンの身体は宙に浮き、気づけば馬車の中にいた。
バタンッ、と冷たく扉が閉まる音がして、馬車はゆっくりと動き出す。アイリーンは、何が起きたか分からない内に強引に乗せられてしまった。
こ、これは、人攫いです~‼︎




