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第9話「獲物の気配」

『お兄ぃぃいいいいい!!』


 そう叫んで、何処かへ向かうスケルトンを猛烈な勢いで追っていくミユちゃん。

 ばいばーい。お兄ちゃんと末永く幸せにー。


『バーカ! 死ね!』


 うわ、戻ってきて、舌みせてきた。

 可愛いだけなのに。


「……まぁいいや。おかげでなんとなく「私」がどういうものかわかってきたぞ」


 どうやら、部屋の配置だけでなく『消化』によってモンスターも生み出せるらしい。


 もっとも、なんでもかんでもとはいかないだろうし、さっきのお兄ちゃんスケルトンをみるに、

 配下でもなんでもなく、ただただモンスターを排出するだけらしいけど。


 まぁ、それでも使いようかー。


 今はただ、無造作に排出してしまっただけだが、冒険者パーティが来る段階で出すことができれば、複数で取り囲まれタコ殴りにされるような事態を防げるかもしれない。

 もっとも、配下でないというのがネックなので、思う通りに動いてくれるは賭けになるだろう。

 ……いいとこ、攪乱(かくらん)程度かな?


「だけど、選択肢が増えるのはいいことだね」


 うんうん。

 ……イマイチ、ゴースト化とスケルトン化の境が分からないけど。


 そも、ミユちゃんはゴーストか、あれ?

 なんか、自我あったよね?


「…………美味しく食べたからかな?」


 こう、味が影響するとか?

 それとも、あれか──諸事情(しょじじょう)で細切れにしたせいで、スケルトンになれなかったからとか?……わかんね。


「まぁ、ミユちゃんはいいや。それよりも──そろそろ冒険者こないかなー。お腹空いてたまらん」


 ストックしてたミユちゃんもそろそろなくなりそうだし──……うわ。ミユちゃんまた来た。


『ちょっと、アンタぁ! あれなによ!』

「あ、あれって?」


 んー。

 ミユちゃん(バラバラ)を齧ってるときに、本人が来るのはなんかヤダ。


 「私」はそこまで人でなしじゃないよ?

 ……人じゃないけどねー!


『あれはあれよ! お兄ぃのことー!』

「お兄ぃ? あーあの骨。……ん? どうかしたの?」


 末永く幸せに暮らすんじゃないの?


『どうかしたじゃないわよ! なによ、あれ! 全然喋んないし、アタシのプリチーフェイスに見向きもしないし」


 うん。

 顔美味しいね。


『──オマケにダンジョンから出ようともしないしー!』

「そりゃモンスターだしね」


 「私」も出れないし、動けない。魔物ってそういうもんじゃないの?


『そんなわけないでしょ! アタシたちは人間よ!……つーか、さっきからアタシを(かじ)るな』

「や、ゴメン。おいしくて──もぐもぐ」


『もぐもぐすんなー!…………美味しいの?』

「うむ。美味なり」


 いまんとこ、一番うまい。

 美少女うまい。


『え、えへへ。そっかー。美味しいのか──……って、ツッコミの困る感想やめーや!』

「こっちのセリフだなー。ってか、モンスターだとしてもお兄ちゃんと一緒にいなよー」


 そして、ここに来るな。

 単純に邪魔だ。


『なによ! アタシを食べてるくせにその態度ー』


 や。

 マジで狩りの邪魔。


『むー! ここしか居場所がないの!』

「家帰りなよー」


 ここダンジョン。

 YOUはミユちゃん、あんだすたん(理解した)


『帰ったわよ!』

「あ、帰ったんだ」


 そういや、三日ほどしてから急に現れたもんなー。 


『でも、もうあそこはアタシの居場所じゃない……冒険者なんて、そんなもんよ』

「ニヒルに言われてもなー」


『あと、なんか外にいたら頭がぼーってしてくんの』


 そうなん?

 ぼーっと、ねー。


『なんか、こう──、キラキラした光が空から舞い降りてきて、なんかフワフワしてくんの!』

「……それ成仏してるだけじゃない?」


 ええことやん。

 多分天国にいけるいける。……あるのか知らんけど。


『やーよ! わけわからないとこに行くのなんて! だから、ダンジョンの中なら頭がシャキっとするの!』

「……成仏してよー」


 食べちゃって悪かったからさー。


『ふんっ! 他に話せる奴もいないし、ここに居座ってやるんだから! べー!』


 えー。

 やめてよー。


「仕事できないから却下」


 あと、本人いたらお肉食べにくいじゃん。


『ふんっ! それよそれ! ミミックなんてサイテーな魔物の餌に、仲間をやらせるもんですか!』

「えー。冒険者なんてそんなもんとか言ってなかったー?」

『それとこれは別!』


 プイッとそっぽを向くミユちゃん。

 いや、参った……。


 変な物食べちゃったかもしれない。


「あー。吐いて、くっつけたらスケルトンになったりしない?」

『しないし、吐くな!! 人のこと食べたなら、最後まで責任を持てー!』


 えー。

 本人が言うことー?


「……なんか食べる気失せてきた」


 美味しんだけどねー。


 はー、参った参った。

 お口をもぐもぐしながら頭(?)を抱えていると、ついに脳裏にあの反応が来た──。




   ピィ~ン♪




「……むむ! 足音感知ッ」

『ん? どーしたのよ?』


 なんか座禅を組んだまま、目の前をフワフワ浮き始めたミユちゃんであったが、どうやら探知感覚器的には「私」に遠く及ばないらしい。

 まぁ、ローグとしてもどうかって子だったしね。ゴースト(?)化してさらに鈍ったのかもしれない。


「なんでもないよ」


 ここでミユちゃんに気づかれたら邪魔されるのは目に見えている。

 ……さすがにそれは困る。


 逃がすだけなら百歩譲って良しとしても、気づかれた状態での会敵はミミックにとって非常に不利だ。

 なにせ動けないのだから、遠距離攻撃を叩き込まれたら反撃のしようがない。


 ──つまり、結構マズイ状況だ。


(……くっ。こっちに気づいたのか近づいてくるぞ)


 足音は一瞬止まったものの、

 すぐにこちらに向かって来るのが分かった。おそらくミユ兄妹と同じく、明かりに惹かれてきたのだろう。

 もっとも、そのための明かりなんだけど。


『なによー。黙ちゃってー……あれ? 足音』

「ちっ!」


 気ーづきやがった。

 ……これはまずい。


「あ、あー。気のせい気のせい。それよりほら、お兄がゴブリンにやられてるかもよー」

『は? 馬鹿じゃないの? お兄ぃがゴブリンごときに後れ(おくれ)を取るわけないじゃん』


 いや、いまのお兄ぃはスケルトンだよ?

 しかもLv1だし。


『さっきだって、なんか肩のぶつかったゴブリンに絡まれたから返り討ちにしてたわねー、うんうん』


 えーなにそれ。

 チンピラやん。


 あと、うんうん。じゃねーよ……。つーか、モンスター同士って戦闘するのー?


「思ったより修羅の世界だな──っと、まずい」

『まずいって……あ、やっぱり足音! しかも冒険者っぽい!』


 くそっ、バレた!

 コイツどうしてやろうか……。


 もっかい食う?

 いや、ゴーストだし無理か──……これは不味いぞ。


「な、なんで冒険者ってわかるのさ? ゴブリンとかかもしれないよー」

『バーカ! 装備の(こす)れる音で分かるわよ!』


 ……ホントだ。

 金属とか皮が当たってカチャカチャいってるわー。


『よーし、ミミック討伐してもらおーっと!』

「あ、やめー!」


 しかし止める間もなく──というか止めることなどできるわけもなく、ミユちゃんが部屋から飛び出して行ってしまう。

 そして、そのまま音源に向かうかと思いきや、


『おーい、ここにミミクs56よい83#%$#$──』 



  ザザッ!!



 なぜか、語尾を濁らせたままミユちゃんの姿がぶれていく。

 それはTV画面が揺れるかのように、なにかの周波数が混線するかのように、彼女のゴースト体が揺らいでいく。……うん、TVがなんなのか知ら──以下略。




『あれ? なにこ$%$’&──?! どーな&%’%&』


 ザザッ!


   ザザザー!



 ……そして、そのまま彼女の姿が砂嵐のように掻き消えていく。

 それと並行して部屋の入口に姿を見せる冒険者たち。


 こ、これは一体──??


 だけど、都合がいい!

 そしてざまーみろ! 二度と出てくんな、インチキゴースト!


「そのまま成仏しろー! 南~無~」


 ……『南無』がなにか知らんけどね!


 まぁ、こうしていい感じにミユちゃんが消えてくれたおかげで、冒険者たちは何も疑ってはいなかった。


 そうです、そうです。

 ここは何の変哲もない倉庫とか武器庫ですよー。





 明かりもあって、宝箱もありまーす。

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