第5話「妹が食われた(※)」
え?
あれ?
俺は目の前で起こったことが信じられなかった。
ただ、振り向いた瞬間、顔面をヌラリと濡らした何かが、妹のミユの血だと気づくのは早かったと思う。
……うん。
早かったとは思うんだけど──……それからが思考が追い付かない。
だって、
だって──……ミユの上半身がないんだ。
あの可愛い顔があった場所からは、ドロッとした内臓のようなものがこぼれて……そして、一瞬で背後の闇に消えていったところまでは見えたし、
わかった────あれ?
…………なら、ミユは?
ミユはどこいった?
っていうか、なんでミユの上半身がないんだ?
下半身はこっちに振り向いたような状態で、戸惑ったようにフラフラ歩いているけど──……あ、それも消えた。
「ミ、ミユ──?」
ミユ……。
ミユ──……み、
「ゲーップ!」
ペッ!
「あ、てめ」
コイツ……。
ああ、コイツ──。
あああああああ、コイツぅぅぅうう!!
今、吐きやがった!
口のように開いた宝箱の中から、ミユの欠けた顔の一部が吐き出されたのが見えた。
それは戸惑った顔のようにみえるが、すでに目は何も見ていない。だけど、可愛い可愛い顔の一部が──……み、ミユ?
「ミ、ミユーーーーーーーーーーーー!」
ああああああああああ!
あああああああああああああ!
ああああああ、わかった! わかった!!
今頃わかって、気づいた……!
「──ミミックか、てめぇぇええええええええええ!」
そうだ!
そうだった!
ダンジョンに潜む、宝箱の魔物ミミックだ!!
『人食い箱』とも評されるダンジョンの魔物。
主にソロで行動する冒険者が狙われ、未熟なローグが犠牲になることも多いという。
それがよりにもよって、
よりにもよってぇぇええええ!
「ちくしょー!!」
俺は斧を振り上げ突撃する!
……所詮は奇襲専門の魔物だ。正体さえわかれば敵じゃない!
だけど、畜生!
だけど畜生!!
簡単なクエストだったはずなのに!
誰でもできる楽なクエストだったはずなのに────……。
「なんでミユがぁっぁああああああ!」
※ ※ ※
「うわぁぁぁああああああ!」
叫びながらこちらに突進してくる戦士が一人。
言わずと知れたミユちゃんの兄貴だ。
戦士職らしく、近接専門で思い切りがいい!
──ちぃ!
やはり、ミミックという魔物の特性上、2対1はキツイ!
どうしても待ち伏せ専門で、奇襲しか戦闘のカードが切れないので、それを切ったあとは不利な戦いになるようだ。
なにせこっちは動けない!
一応、食いつく瞬間は多少は箱が動かせることは今知った。
と言っても、箱が倒れるギリギリまで乗り出して、バクン! と行く程度だ。とてもリーチがあるとは言えない。
それ以外は舌を伸ばして攻撃することもできるが、所詮は舌は舌だ。
強度はかなりあるようだが致命打を与えるようなものじゃあない。
あとは……あとは、腹の中にためた物を吐き出すくらいかな?
これも今知ったが、腹の中にはそれなりの空間があるのか、今しがた食べたばかりのミユちゃんがごっそり入っている。
急いで咀嚼したせいで、まだ全然味わっていないけど……あ、めっちゃ美味いわッ!
やっぱ女の子だからか?
それとも美少女だからか?
うん、まぁ、味わうのは後でいいとして、とりあえず飛び道具はこれか────!!
兄貴の斧が振り下ろされるのを待つことなく、
舌を振り回して牽制しつつ、腹の中に溜まった食べ物を思いっきり吹き出した!
「おええええええ!」
……中身はお察しのとおりミユちゃんの残骸と、前に食った冒険者の残骸だ。
骨はもちろんのこと、冒険者の装備品には金属も含まれているので、それなりに攻撃力がある。
「うぐっ!」
ミユちゃんの残骸に思わずガードを入れる兄貴。
そこにすかさず舌でガード下を狙いつつ、上からは冒険者の装備を降り注がせる。もちろんミユちゃん入りだ!
「て、てめぇぇ!」
血だらけ、肉片まみれで妹まみれの兄貴はそれでもしぶとく構えて折れない。
……まぁ、目の前で可愛い妹を食われちゃなー。
でも、ごめんね。「私」はミミックなのだ!
そして、慰めになるかどうかは知らんが、ミユちゃんは超ウメーぞ!!
ブパパッパ!
その超美味いミユちゃんを小出しに吐きだし、とりあえずの武器にしつつ、兄貴を牽制!
おかげで部屋が凄いことになっている。
まぁ、今は部屋のあり様はとりあえず置いておいて、兄貴の攻撃を抑えつつチャンスを狙う!
幸いにもこの兄妹は冒険者としてはそこまで強くはないらしい。
兄貴のほうは慎重だったが、ローグのミユちゃんはお察しの通りだし、なにより装備が安っぽい。
これなら、連続攻撃で勝てるかも!
「ちっ!」
だが、さすがに折れない心は、腐っても冒険者だ。
ミユちゃんの残骸をみて目が死にかけていたが、それでも徐々に戦う意思を取り戻したらしく、今度は身体を小さくして丸盾に身を隠す!
「──ぬぅ!」
これでは、攻撃が通らない!
「舐めるな! ミユの仇ぃぃい!」
「ちぃぃ!」
そのままシールドバッシュ気味に突っ込んでくる兄貴!
視界は極端に悪くなるだろうが、防御力は最大だ!!
──……だが、そうくるのを待っていた!
「馬鹿めー! 何のためにばらまいたと思ってんだ!!」
せっかくのミユちゃんを!
…………美味しいのに!!
「な! しゃべ──」
はっ!
今更!
「明かりがなくて、どこまで戦えるかなぁぁあ!」
視界を隠したが最後!
暗闇で自位置がどこまで特定できる?!
ビャシャヤアア!
腹の中に残った死体をすべて吐き出し、松明へ指向する!
そうとも、この部屋の光源が唯一のこれのみ!
こいつ等兄妹はおろかにもこの部屋に入った段階で光源をこっちに頼りすぎていたのだ!
「しまっ──」
兄貴の悲鳴が聞こえた瞬間、部屋が暗闇に閉ざされる。
そしてわずかに香る肉の焼ける臭い……うわ、いい匂い!
「く、くそ! お、おちつけ! 奴は動けないはず!」
その通り!
だけど、その分、足回りなんて気にしなくていいもんねー。
その分、兄貴のほうは足元の妹の残骸を気にしながら進むしかない。
いや、ここに至って、いまさら踏み散らすことなど気にしないだろうが──待ちの一手のこちらと、近づく必要のある兄貴ではどっちが有利かは一目瞭然!
そして、暗闇とは人間に根源的な恐怖を与えるものだ!
だが、「私」は違う!
闇に生れ、闇に生きる魔物!
そして、闇が日常の──ミミックだ!
…………「飾りつけすゆー♪」は忘れろ!!
「くぅぅぅ……! こ、ここかぁぁあ!」
残念!
空振り!
慎重に一歩一歩近づいてきた兄貴ではあったが、闇の中、いつ「私」の攻撃が迫るかの恐怖に耐えきれず強攻撃を繰り出してしまった。
安っぽい装備の冒険者にしてはいい振り──いい一撃。……そして、覚悟の乗った攻撃だ。
だけど残念。
「──強襲時に声を出しちゃいけないよー」
はい、勝ちー!
舌でからませて振り上げていたミユちゃんの10フィート棒を、声のした位置に思いっきり振り下ろした。
刹那、鈍い音が響き、兄貴の身体が血だらけの地面に崩れ落ちる音がした。
【お願いごと】
本作品を少しでも、
「面白かった!」
「続きが気になる!」
「更新待ってます!」
と思ってくださった方は、ブックマークの登録をしていただけると執筆の励みになります。
なにとぞ、よろしくお願いします。
皆様の応援と評価が一番のエネルギーとなります。
ご協力お願いします!




