第4話「初(?)エンカウント」
──やっべー……!
ギリギリだったわー。
口の中には甘い血の味と、残った両足がある。
それをバレないように、口を閉じてゆっくりと咀嚼する──ばーりぼーりばり。
うーん、デリ~シャス♪
しかし、時間がなかったこともあり、冒険者の装備までは隠すことができなかった。
そのせいで、部屋の中央には不自然に錆びた短剣が転がっている。
くっそー。
前の冒険者めー。
一丁前に短剣なんか持ちこみやがってー。こっちの身にもなれってんだ!
「──お兄ぃ! こっち」
ちっ。
来やがった──……あれは、ガキか?
「ミユ! 先走るな! ゴブリンが待ち伏せているかもしれないぞ」
……ゴブリン?
あー。いるんだ、他の魔物。そりゃそうか。
「大〜丈夫だって! 気配はなにもないよ! それに、ほらっ」
そう言って、部屋の入口に姿を見せたのは14、5才くらいの少女だった。
活発そうな顔付きに、赤い髪──そして、やはり冒険者らしく皮の胸当てとショートソードを装備している。
「誰もいないよ」
「馬鹿! 松明があるだろ!……少なくとも、ちょっと前までは誰かいたんだよ」
はい、せいかーい。
まぁ、今はお腹(?)の中だけどね。
……おそらく兄妹らしき冒険者が二人。
兄の方は多少慎重なのか、妹の後から警戒するよう部屋を覗き込んでいる。
幸いにも、松明を壁際に置いたおかげでよくその姿が見える。
意志の強そうな瞳に、額には青銅の鉢金。それと、両の手には手斧に丸盾を装備している。……一見して戦士だろうか?
とすると、妹のほうは剣士とか盗賊とかそう言う系かな?……先陣切ってたしローグ系だろうな
「ミユ」
そして、ゆっくり部屋を見渡した兄のほうは、顎で宝箱を差す。
「うん。わかってる」
……ん?
わかってる?
何が分かってるのだろうかと考える前に、兄妹が動き出す。
油断なく構えた兄は部屋に背を向けると、通路のほうを警戒する。
そして妹の方はというと、背中のバックパックからなにやら棒のようなもの取り出したかと思うと目の前で組み立て始めた。
(あ、あれはまさか……!)
カチャカチャと組み立てられるのはまさに棒……いや『10フィート棒』って奴か!
どうやら、妹の方はローグで間違いないらしい。
そして、思った通り、伸ばした棒で順次地面を叩き始めた。
これは何をしているのだろうかと思ったが、どうやら罠を捜しているらしいと気づく。
(なるほどね……。ミミックそのものより、罠があるほうが可能性としては高いのか)
だからこその10フィート棒なのだろう。
油断なく、地面を叩き、なんなら天井や壁まで叩いている。
しかし、宝箱である「私」には決して触れずに周囲を念入りに調べていた。
そして念入りに念入りに周辺を全て調べ終えると、ゆっくりと汗をぬぐった。
「ふーっ。部屋の中に罠はないみたい、大丈夫だよ!」
……だいじょばねーよ。
「私」がいるっつーの。
「本当か? なら、その血はなんだ?」
そろりと部屋に入ってきた兄のほうが床に散った血痕を差す。
……ちっ。
気づいてんじゃねーよ。
時間の許す限り、かなり丹念になめたがさすがに全てを消すのは無理だった。
そして、それを見逃すほど兄妹も甘くはないらしい。
というか、十中八九壁においた松明のせいだわ!
ぢぐじょー!
な~にが「飾りつけすゆー♪」だ!
ちょっと前の「私」の首を絞めてやりてー!!
……まぁ、首はないんですけどねー。
「血? あぁ、これね。……んー、わかんない。人間の血なのは間違いないんだけど、何かが拭った後がある」
「拭う?……誰かがわざわざ拭いたってことか」
うむ。
「私」が、わざわざ舌でな。
「うん。ゴブリンがそんなことするとは思えないし──……多分、人」
いや、「私」だ。
「ひ、人?! な、なんてこった。……ダンジョン内殺人か!」
「多分ね──ほら、遺留品」
そういって錆びた短剣を拾う少女。
(……違うよ、それは食べ残しだよ?)
錆びた短剣は、彼女の手には少し大きいことから、
おそらく食べ残しの──……じゃなくて、前の冒険者は男だったのだろう。
──にしては、うまかったなー。
男であれだけうまければ、このガキはさぞ……ゴキュ。
「ん?……何の音だ?」
うげ。
喉が鳴っちまった!
「音?……松明じゃないの?」
松明こと獣脂に弾ける音に、思わず部屋中の視線が集まる。
パチパチパチッ……。
──ナイス松明の音!
「え? あ、そ、そうか?……そうだよな。うん…………松明、だよな」
……セ、セーフ!
ローグのくせに鈍い嬢ちゃんで助かったぜ。
というか、ミミックがいるなんて予想もしてなさそうだ。
「っていうか、他に何があるんだか~。お兄ぃってば、ビビりすぎー♪」
「ば、馬鹿! くっつくな! こ、こういうのは慎重すぎるくらいがちょうどいいんだ」
「はいはい。お兄は慎重慎重~♪」うーりうり。
うんうん、兄妹のスキンシップがほほえましい。
警戒する兄の脇を妹がくすぐっているね!
「そ、それより、それは回収するぞ。これは至急ギルドに報告しないいけない案件だ。……他に遺留品はあるか?」
「んー……あとは、ちょっとだけ肉片みたいなのがあるよ、それもかな〜り新鮮」
へー、ギルドがあるんだ。
そんでこいつ等はそこに所属する冒険者っと。
「に、肉片って。い、言わんでいい言わんでいい……。とりあえずその短剣だけでも持ち帰ろう。ったく、最近のダンジョンの治安はどーなってんだ?」
え? ここ、治安悪いの?
「私」怖いッ!
「大丈夫だよ、周辺に気配はないからきっともう逃げてるって!」
「そういう問題じゃない。冒険者を殺した奴がこの辺をうろついていたんだぞ。警戒するべきだ」
うむ。「私」だな。
「はいはい。お兄ぃは心配性だなーっと、じゃ、そろそろメインディッシュといきましょうかー」
「だな。……あとはそれだけか?」
「うん! 罠なし、ゴブリンなし! 残るは宝箱だけ! えへへ、前の人には悪いけど、アタシたちがいただいちゃうねー」
ん?
………………おぉ、今か!
どうやらようやく「私」を開ける気になったらしい。
「気をつけろよ、ミユ! まだ、人の仕業と決まったわけじゃない」
「えー? 他になにがあるの?」
──むろん「私」だ。
しかし、そんなことなど露にも思わない兄妹は、宝箱に悪意があるとも知らずに、無造作に10フィート棒でバシバシ叩いてくる。
どうやら、これまでは罠があったりしたらそれで誘発させてきたのだろう。
(……だが、甘いな!)
それくらいでは発動しないのだよ! たとえ、魔物が潜んでいたとしても、今の「私」には自我がある!
ちょっと痛いくらいなんでもない────……って、さっきから叩きすぎだろ!
「わからん。だが、何かがあったのは間違いない」
「大丈夫だって! ほ~ら、何もない」
バシバシバシッ!
──イタイ、イタイ!
「ね! 安心安全。たまには可愛い妹を信じてってば……うりうり~」
「ばっ、ヤ、ヤメロっての! 俺は通路を警戒中だ! 何が来るかわからないんだぞ、おそらくその宝箱を取り合うか何かして、誰かがここで殺しあったんだ。警戒して警戒しすぎ────……ミユッ!!」
「えー? どうし」
ブシュッ!!
「私」を叩きに叩いて満足したのだろう。
兄の心配に軽口で返していた妹のほうが、罠も魔物もいないと判断して、箱をあけようと無造作に近づいてきたが最後──。
馬鹿め、その瞬間を待っていたんだよ!
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