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第33話「公爵家令嬢、リーデル・エーベルトの場合(※)」

「ちょっと待ってくださいって!」


 そう言いながら、(わたくし)こと、リーデル・エーベルトにしつこく追いすがるのは、小汚い恰好の冒険者という人種だった。


 近づかれるだけでもキッッツイ匂いがするのに──仕舞には、手まで取ろうとしてきた。


 下郎のくせに。

 ……あぁ、おぞましい。


「──おだまりなさい! それ以上近づくことは禁じますわ」

「んな?!」

「……それよりも、アナタは帰り道さえ教えてくれれば結構です! そして、10mは後ろを歩きなさい、いいですね。……さぁ、皆いきますわよ」


 しつこく追いすがる冒険者にぴしゃりと言いやると、唖然とした顔。

 そして、それを聞いていた年下の生徒達も元気に手を上げる。


「はーい!」

「やったー! これでもっと奥にいけるね!」「次のゴブリンは俺にくれよー」


 うんうん、これでいいのよ。


「お、お前ら!……ちっ。忠告はしたからな!」

「はいはい、結構ですわ」


 ふふーんっ♪


 これでいいのよとドヤ顔で見下ろしてやると、何か言いたげな顔をしていた冒険者であったが、結局それ以上言うこともなく真っ青な顔で渋々後ろについてくる。


 そうそう。

 それでいいのよそれで──。


 せ~~~っかくの楽しみにしていたダンジョン実習だ。邪魔をされてたまるもんですか。

 それにしても、このダンジョンはあの黴臭(かびくさ)い魔法学校の教室と違ってなんとまぁ、自由な空気に溢れているのか。


 しかも、数名での行動だから、いつものように肩筋を張らなくて済むのもいい。

 メンバーだって、選抜して大人しそうで言うことを聞きそうなのを選んだ。


 まぁ、さすがに魔法学校の選抜メンバーというだけあって、35名全員(自分含む)が色々と癖がありすぎて、全部が全部というわけには行かなかったけど──なるべくね。


「さて、そういうことですので、皆さん行きますわよ。魔物だって奥の方が絶対多くいますわー」


 うふふふ。


 そうだ。

 入口付近でちまちまゴブリンが出るのを待っていられるものか。


 鬱屈した魔法学校や主家と違って、ここでは自由にしていい。

 こんな時間をずっっっっっっと待っていたのだから、この時くらいは好きにさせろっての。


「やった! 委員長がこう言ってるから皆いこー」


 そういって先頭を走っていくのは11才か12才の少女。

 たしか第二学年の首席だったかしら? 大人しそうだと思ったけど、思ったよりも活発なのね。


 名前は確か──。


「リーンさん。先に行くのはいいですが、ダンジョンは危険ですから、警戒は怠らずにね」

「わかってますって! ねー、いこーいこー!」


 そういってリーンさんは、ワイワイっ♪ と楽し気に、第一学年の主席の少年の手を引いて先へ先へといく。

 

(うふふ、お姉さんぶっちゃって、まぁー、可愛いこと)


 ま、自分でも危険とは言ったものの、ここは所詮は素人ダンジョンだ。

 そりゃ危険は危険なのだろうが、

 身の危険が及ぶようなそんなことはないとわかってる。


 なにせ、ここは低ランクダンジョンで、

 こちらは魔法学校のトップオブトップですから。


 そして、リーンもその下の少年も、第一と第二学年の生徒とはいえ、貴族家で護身に魔法を習っている。

 当然、手席なだけあって超優秀──ゴブリンごときに後れをとりはしないだろう。


「あ、なにかいた!」

「え? どこどこどこ?」


 先頭をいく第一学年の彼の声に、次々と反応する年下の少年少女たち。


 あらあら、

 ……困ったものだ。


 皆、ダンジョンの中ではしゃぎすぎだろう。

 この5人編成では(わたくし)ことリーデルが一番の年上なのだから、彼らを導かなくっちゃね。


「落ち着きなさいな。──ゴブリンなら向こうから来ますわ。……それを一斉に叩くのよー!」


 魔法をぶっぱして!

 顔面を焼き焦がして──そのあとで近接魔法で切り刻んでやりましょう!


「えー? 来ないよー?」


 リーンが言う。


「うん。来ないー」


 他の子たちもそう言う。


 ……あら?

 本当に来ないわね?

 探知魔法にも確かに何かがいたと検知したのに──。



(……確かにおかしいわね?)



 なんだろう?

 この気配……。


「少し道をあけてくださいまし──……はっ!」


 パーティより一歩進み出て、額に魔力をこめる。

 探知魔法がダメなら直視で見ればいい。


 こうして目の付近に魔力を(とも)す遠見の魔法を発動し、さらには弱くはあるが鑑定の力も載せてやるのだ。


 いわゆる、魔法のマルチタスクというやつ。


 この高等技術ができるものは数少ないというが、この天才リーデル様の手にかかればあっという間ですわー。


「……っと、あれは──まさか」


 え?



    《スケルトンLv16》



「スケル、トン?」


 あれ?

 この新月のダンジョンにアンデッドなんていたかしら?


(ここって、たしかゴブリンとスライムと──……)


「ねーねー! リーデルさま、何が見えましたー?」

「え、ええ。……スケルトンね」


 そう。スケルトン……。


「え? それぅて、あの骸骨の魔物ですか?」

「そうよ、弱いアンデッドモンスターね」


 実際、アンデッドは弱い。


 核となる部分を破壊しないと、首だけでも動くという──少々では死なないというしぶとさ(・・・・)はあるが、逆にいえばそれだけである。


 動きものろいし、攻撃も単調なのだ。


「しかし、変ですわね」


 だのに、なぜかそのスケルトンは、じっとこちらを窺うだけで、ピクリとも動かない。

 通常なら、スケルトンなどのアンデッドモンスターは、生者を見かけると見境なく襲い掛かってくるというが──そんな様子もなせない。


(……というか、Lv16?)


 それって……、

「中堅クラスのスケルトンよね」


 そんなのがいるなんて聞いていない。

 だって、ここは低ランク帯のダンジョンのはず。


 それがスケルトンとはいえ、Lv16となればかなりの強敵だ。

 下手をすれば、後ろのDランクがごとき冒険者では返り討ちにあうかもしれない。


「リーデル様ぁ?」

「──……ま、私の手にかかれば問題はないか」


 そうだ。

 たかがスケルトンだ。


 むしろ、これはチャンスかもしれないわね?


 実習とはいえ、中堅クラスのスケルトンを仕留めれば、学校でもかなり注目されるかもしれない。

 そうすれば「主家」の威光で委員長をしているなんて陰口をたたかれることもない。


(ふふっ、面白くなってきたわね)


 心配そうにこちらを見上げるリーンの頭を軽く撫でてやると、酷薄そうな笑みを浮かべるリーデル。


「──いいわ。皆、追うわよー!」

「「おー!!」」」


 こうして、全員の一致を聞きつけたリーデルは、腰から魔法杖を抜き出し、いつでも魔法を放てるようにした。

 スケルトン相手ならどんな魔法でも効くけど、ここは定番の火魔法かしら。


(ま、じきに追いつくし、その時に考えてもいいわね)

 そして、自慢の魔法で吹っ飛ばしてやるのだ。


「さぁ、その次の角よ! 皆、気を付けてちょうだい!」


 とは言うものの、スケルトンはのろい。

 人間が走って追いかければ物の数秒だ!


「3、2、1──構えて!!」


 ババッ!


 5人全員で一斉に飛び出し、魔法杖を構える。

 そして、見敵必殺サーチアンドデストロイ────あ、あれ?


「……い、いない?」

「えー? ほんとだー」


 リーデルに続き、角からひょこっと顔を出したリーンも言う。

 確かにいない。


 おかしい、さっきまで通路の先で微動だにしていなかったはずなのに……。

 しかし、今、目の間に広がるのはまっすぐに伸びる通路のみ──。


「あはは、見間違いじゃないですかー?」

「い、いや。でも、ええー……??」


 年下の生徒にそう揶揄(からか)われると

 勢い込んで飛び出した自分の姿に少し恥ずかしくなって顔を赤らめるリーデル。


 だけど、おかしい。

 たしかにリーデルは鑑定までして確認したのだ。


「ほ、ほら! い、一応、ところどころに分岐があるから、そのうちのどこに入ったんじゃないかしら?」


 しかし、と。

 自分でいって、自分の言葉を訝しむリーデル。


(この見通しのいい通路で、分岐に入ったくらいで見逃すかしら?)


 この新月の夜のように薄暗い通路でも、

 魔法使いならば、目に魔力を通すことで昼間並みに見通すことができるのだ。


 もちろん、リーデルだってそう。


 だから、角を曲がれば無様に逃げるスケルトンの背が見えるはずなのだが……。


「……あー。じゃあ、あれじゃないですか? もしかしてスケルトンが走って逃げたとかでしょうかー?」


 くすくすと、リーンが冗談交じりに言う。


「あはは。まっさかー。アンデッドはのろいって常識だよ。そのに生きてる人間をみたら問答無用で来るって言うじゃん」


 彼女と手をつないでいる少年はそう返す。


 ……まさにその通りだ。

 だけど、ならばどこに行ったというのか──。


「……うーん、わかりませんけど、ちょっと警戒しましょうか。まさかとは思いますけど、待ち伏せをされているかもしれませんし──……アナタ、この先は?」

「ひっ!」


 ……ひっ?


 悲鳴を上げたのは背後に付き従っている冒険者だ。

 何だか知らないけど、奥に向かうと言って以来ずっと怯えている。


「──ちょっと聞いてるの?!」

「ひ、ひぃぃ……まずい。まずいまずいまずいまずい!」


「えぇー……」


 ダメだこりゃ。


 ちょっと道を確認しようとしただけなのに、なんなのだろうかこの怯えよう。


「あー、もう結構。アナタは帰り道だけ気にしてなさい」


 もはや、「まずい」としか言わなくなった冒険差にあきれ顔のリーデル。

 やはり下賤な冒険者ごときは使い物にならないのだろう。


「──さ、こんなのはほっといて皆行くわよ」


「はーい!」

「あ、リーデル様! こっちに部屋がありますよー」


 うん。リーンと少年のほうがよっぽど勇敢だ。

 たかだか低ランク帯のダンジョンに怯え切ったDランク冒険者と違って、彼らは10才程度でありながら先陣を切っているのだ。


「本当ね。……でも、いいこと? 中を見るのはいいけど、気を付けるのよ。スケルトンとはいえ、油断すればやられますわ」


「わかってますって──……え?」

「あれれ?」


 先頭を行くリーンと少年が妙な声を上げた。

 スケルトンがいたのだろうか?


「どうかしまして?」

「リ、リーデル様! み、見てください」


 ん?

 なにかしら?





「どうしたの──……って、これは」

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