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第34話「お腹が減った(※)」

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よろしくお願いします!

 リーンと少年に導かれるようにして、部屋を覗き込むリーデル。

 その先には、異様な光景が広がっていた。


「……驚いたわね──まさか、こんなダンジョンに?」

「リーデル様は、これ(・・)をご存じなのですか?」


 リーンが見上げるように問うてくる。


「あら、知らない? 結構有名みたいだけど──」

「そうなのですか?」


 素直に首をかしげ、くりくりとした目で問うてくるリーン。

 可愛い……。


「そうね、魔法学校では下賤な冒険者がやるようなダンジョントライなんて滅多にやらないから、あまり一般的ではないのかもですけど」


 チラリと最後尾で怯えている冒険者を見ながら、ことさら下賤という言葉にアクセントを置きつつ前置きすると一気に言った。


「……(わたくし)も見たことはないのですが、文献で少しね。──ここはおそらくセーフポイントよ」

「「「「セーフポイント?」」」」


 当然、誰も知らない。

 まぁ、それが普通だ。


 魔法学校といえど、ダンジョン探索に必要な知識なんて必要最低限しか教えない。

 そもそも、ダンジョンに興味を持つような子は魔法学校の主席や次席になどならない。これは冒険者の領分なのだから。


「えぇ。ダンジョンに内にいくつか存在するという安全地帯のことよ。そこには魔物は入れず、安心して過ごせると聞くわ」


 もっとも実物を見たことがないので、これがそうのかは知らない。

 ──かくいうリーデルがそれ(・・)を知ってるのも、予習復習と、あとはたまたま書籍で見知っただけだ。


 だが、いきなりの整った部屋だ。


 しかも、わずかではあるが箱や棚や……初めて見る文様のタペストリーまでである。


 ここに来る途中にあった通路や部屋は基本的に殺風景な物ばかりで、家具や明かりがついている場所など一つもなかった。

 だのに、ここには数々のアイテムもあるところをみるに、セーフポイントとかこういうものなのだろう。


 それに、どこかしら清浄(?)な空気が流れてる気もするし──……綺麗な水場もある。

 ならばここがそれと思って間違いなさそうだ──。


「あー! 薬草がある!」

「みてみて、ポーション!」

「ボロボロの服ー」


 って、


「ちょ、ちょっと! 危ないわよ!」


 しかして、まだ完全に安全と決まったわけではない。

 だのに躊躇なく入っていく少年少女たち。


「はぁ、まったく油断して……」


 まぁ、こんな低レベルダンジョンだからしょうがないといえば、そうなんだけど。


「いいこと、こう言ったときの対処は授業で習ったでしょう? まずは、どんな時でも安全化(クリアリング)してから入ること」


「安全化ー?」


 あ、そこから?

 まったくもう……。


「魔物が潜んでいたり、トラップがあったらどうするのよ」


 そもそも、

 リーデルの知識は所詮聞き限った程度だ。前提からして間違っていたらどうするのか──。


 なにより、未探査の部屋に入るのは、高貴な自分たちでなくまずは下賤からと決まっている。

 それが貴族というもの……そう思ってチラリと背後を振り返ると、相変わらず最後尾の冒険者は(かたく)なに動きそうになかった。


(……使(つっっっか)えないわねー)


「はぁ」


 ま、こんなダンジョンに危険もなにもないか。

 いいわ。


「リーデル様ぁ?」

「なんでもないわ──それより、あまり動き回らないでね」


「「はーい!」」


 小さい子たちは返事だけはいいのだ。

 まぁいいか。そう思ってリーデルも続いて中に入る。


「これ、飲めるでしょうかー?」


 リーンが、給水所のそれを指でつつく。

 すると、わずかに水がしたたるライオン型の水盆に、小さな波紋が立ちリーンの可愛らしい容姿が浮かび上がっては、揺れていた。


「やめておきなさい。……問題はないと思うけど、危険を冒す必要はないわ」


 別に喉が渇いているわけでもないし、

 水も足りている。……そも、ダンジョン内に沸く水など飲むなど正気の沙汰ではない。


「それよりも、せっかくだし少し休みますこと?」


「さんせー!」

「僕、探検する!」

「これ持って帰っていいかなー」


 わいわいわい♪


 年下の少年少女は、リーデルの案に諸手を挙げて賛成する。


 もちろん、リーデルも疲れていたわけではないが、せっかくの発見に心が躍ったというのが大きい。

 なにせ、低ランク帯のダンジョンでセーフポイントがあるなどという話は聞いたこともなかったからだ。


 ……つまりは、大発見というやつだ。


「ふふふ。案外、面白いわね」


 ひとり、小さく呟くリーン。

 これでただのお遊び(修学旅行)だと思っていたダンジョン実習で未発見のセーフポイントを発見したのだ。これは中々すごいことではないだろうか?

 しかも、Dランク冒険者がビビりまくっている中、勇敢に進んでの発見だ。


(くすっ。……みてよ、あの冒険者ってば。まーだ、ビビってる)


 ここは安心安全セーフポイントだというのに。

 





 ──ゾクリ。






「……………………セーフポイントよね? ここ」







 ふと、少し冷静になった自分の脳裏に警鐘がはしる。


 だから、聞く。

 念のために──。


「……ね、ねぇアナタ。ここって、来るのは初めて?」

「へ? あ、いえ。そ、その──」


 相変わらず怯え切った冒険者の煮え切らない回答。

 来たことがあるのかないのか──……いや、でも、この反応はどうみても、初めて見た感じよね?


「どっちなのよ!」

「あ、そ、その。……じ、じつはこのあたりは──随分前に来たことがある。……あります」



 ………………は?

 な、なんですって?



「ど、どういうこと?……ち、地図は?」


 それだけ言えば、この男も察したらしい。

 冒険者ギルドの雑な地図とはいえ、ある程度調査されたダンジョンなら参考程度にはなる。

 そして、新月のダンジョンも完ぺきではないとはいえ、それなりに整った地図がある。

 縮尺はいい加減なものだが。今回でいえば、実習費用で一番いいものを買い──この冒険者に支給されているはず……。


 なのに──。


「お、おそらく、このあたりです……」

「……は?」


 冒険者が震える手で指す地点は、このダンジョンでいえば中間くらい。

 割に浅い部分だった。


「え? でも、ここって──」


 そこで首をかしげるリーデル。

 なぜなら、冒険者がいうそこ(・・)は、何もない小部屋だったから。


 それも、何の変哲もない──ただの空き部屋。


 調査済みで、

 大きさも縮尺もだいたいあってる。


 そして、距離感的には確かにこのあたりだ──…………だのに、この部屋?


「え?……ど、どういうことよ? ここってセーフポイントじゃないの?」

「い、いえ……。こんなところ、初めて見ました。そもそも、このダンジョンにセーフポイントなんてないはず、です」


  どくんっ。


「な、なにを言っているのよ……」


 げ、現にあるじゃない。

 ……ここ(・・)にあるじゃない!


「じゃ、じゃあ、なんなのよここは?! こ、この場所……この部屋はいったい、なん──」


 そう言った瞬間、

 ふいに何かおぞましい気配を感じた気がして、リーデルはゾワリと背筋を震わせる。



「……ッ!」



 か、貸して!


「その地図をもう一度貸して!」

「え? あ、はい……」


 なにか強烈な違和感を感じたリーデルは、部屋を一度見てから地図を改めて見返してみる──。


 もちろん、その地図にはそっけない空き部屋があるだけだ。

 そう──何もない空き部屋(・・・・・・・・)があるだけ……。


 だのに……。


「──な、なによ、ここ……」


 セ、セーフポイント?

 …………セーフポイントぉ?!


「こ、このおぞましい場所(・・・・・・・・・)が……?」


 なぜそう感じたのかわからない。

 ただ、ふいに──なんというか……そう、背筋が──。



 無造作に置かれたポーション。

  いつからおかれたかもわからない薬草……。

   ボロボロの血の跡が残る──綺麗に(・・・)

    そう、綺麗に折りたたまれた(・・・・・・・・・・)

     血で汚れた(・・・・・)誰かの服(・・・・)が──……。



 

「あー!!」



 ビクッ!



「な、なに!?」


 思わず背筋を震わせたリーデルは杖を構えて振り仰ぐ。

 何事かと思えば、リーン達が壁の方を向いて指をさしているではないか。


 一体どうしたのだろうか?


「リーデル様! リーデル様! みてみて! これこれー!」

 ッ!

「こ、これは」


 え?

 ……通路?


 タペストリーの裏に、隠し通路?


「す、すごいじゃん! リーンやるぅ!」


 手をつなぎっぱなしの少年も感激したのか興奮して顔を赤くしている。

 それもそうだろう。


 ──大発見だ。


 地図にも載っていないセーフポイントで隠し通路を見つけたのだ。


 まさに快挙といってもいい発見だろう。

 だけど、なにかおかしい──。


「アナタ──」

 冒険者を振り向くと、ぶんぶん首を振っている。


 どっちの意味変わらないけど、どのみち否定だ。


 知ってるわけでもなく、

 ましてや行きたくないという意思の表示────……そこだけは、同感。


「み、みんな聞いてちょうだい。そろそろ実習の時間も──って、ちょっと!!」


「中に何があるのかなー」

「きっとお宝だよー」


  わーい♪


 そう言ったきり、止める間もなくその通路に入ってしまうリーンと少年。


「あ、アナタたち!!」


 そのまま奥の方に響いていく足音が二組!

 ま、まずい!


「ちょ、ちょっと! 何してるの、今すぐ戻ってきなさい!」


 リーデルがタペストトリーをめくりあげ、通路の奥に叫べば、その先で屈託なく手を振り返るリーンたちがいた。

 その様子からして危険はなさそうだが、驚かせないで欲しい。


「はぁぁ……ビックリしたわ。奥行きはなさそうね──皆はどうする?」


 残る後輩に振り返れば、なんてことはない残る二人も目を輝かせているではないか。


(……ま、まぁ、隠し通路だもんね)


 リーデルだって気にならないと言えば嘘になる。

 そ、そりゃ女の子ですもの。……こういったモノが大好きな年頃だ。


 ──だから、一度小さくため息をついて、奥に向かって声をかける。


「リーン! そっちはどう?! 大丈夫ー?!」


 ……通路はそれほど長くはない。

 せいぜいが10m(10マス)程度。


 そして、何事もなく元気な声が還ってくる。


「大丈夫──! それより、早く早く!!」

「宝箱、宝箱ー!!」


 え?


「……た、宝箱?」


 チラリ。


 ぶんぶんぶん……!


「あーはいはい」


 相変わらずビビりっぱなしの冒険者。

 知らないし、行かないってことね──ったく、なにが案内兼護衛だ。


 これじゃ置物のほうがマシね。


「──すぐ行くわ。動かないで!」


 見た感じ大丈夫だとは思うが、トラップの危険もある。

 もっとも、このダンジョンでトラップがあるという報告は、ほとんど(・・・・)聞かない。


 あっても、せいぜいがゴブリンが仕掛けた落とし穴か、クロスボウ程度。

 それなら地面をよく見ればわかる。


 ゴブリンの偽装は雑だし、

 ダンジョン由来ものは、基本──通路にはない。


 なので、その点で行くと一番奥のリーンたちがいる場所がもっとも危ないのだが、結果論とはいえ二人は無事なので奥にもトラップはなさそうだ。


「じゃあ、二人が先にいきなさい──私は殿(しんがり)を務めるわ。……アナタも来るのよ」

「ひっ! お、俺もっすか?!」

「当たり前でしょ!」


 何のための護衛だ!


 怯えっぱなしの冒険者にため息をつきつつ、まずは後輩二人を先に入らせる。

 そして、次に自分──しょうがないので、一番最後にあのアホ冒険者を続かせる。


 ……でないと、コイツ逃げ出しそうだ。


 さすがに帰り道が分からなくなるのは勘弁してほしい所──っと、狭いわね。


「ほら! これが宝箱です──まだ開けてないですよ! リーデル様待ちです」

「それに、こっちもみてー。剣とか一杯!」


「「盾に鎧もあるー!」」


 ほんとだ。


 はしゃぐリーンと少年の頭を撫でつつ、

 彼女達がわざわざリーデルを待ってくれていたことに感謝と可愛らしさを感じつつ、ゆっくりと室内を観察する。


 そこは、3メートル四方(3×3マス)程度の部屋で、壁際に宝箱が鎮座し、壁には剣にナイフに斧やら色々飾られている。

 もっとも、それらはさほど高価な物には見えない。


 宝箱はさておき、飾られている品々は、一部は「おっ!」と思うような品もあるが──どれも貴族家で見れるような豪華な品ではない。

 ……せいぜいが、下賤な冒険者が使う実用一辺倒の品だ。


 ランクは──まぁ、Bがいいところかしら。

 あとは宝箱の中身よね。


「……武器に宝箱。ここってもしかして宝物庫かしら?」


 たしか文献でみた内容によれば、ダンジョンにはセーフポイントの他、財宝が安置された宝物庫があるという。 

 そこには、様々な魔力を帯びた武器や魔道具──それに金銀財宝や、古代の魔導書などなどが安置されているという噂だ。


 もちろん見たことがないので、実際のところは知らないが──ダンジョンでは、どこからともなく湧き出すという宝箱や魔道具のほかに、こうした部屋(・・・・・・)があると聞くのだが……。




「──とすると、本当に大発見?」




 たかがお遊びの実習で、まさかの発見。

 ギルドも知らない隠し部屋をみつけ、ましてや宝物庫の発見だ。


 そして、そんな場所にある隠された宝箱には一体何が入っているというのか。



  ゴクリ……。



 その全員が見守る中、そっと宝箱に指を触れる。


 ……つつと、触る感触は、木と鉄枠の普通のそれ。

 間違いなく宝箱だ。


 その瞬間、リーデルの心にいいようのない歓喜が沸きあがる。


 なるほど。

 これが未知なる宝に触れた感情か。


 しかも、楽しみにしていたダンジョン実習でまさかの宝物庫を発見だ。


 子供心がこれに沸き立たないはずがない!

 しかも、皆がわざわざ開けずに待ってくれている宝箱が目の前にあるのだ。



 リーンや最年少の少年でさえ、リーダーである彼女に最初に栄誉を与えてくれようというのだ──嬉しくないわけがない。





 そのおかげで、さっきまで感じた不気味で、おぞましい感覚(・・・・・・・)は一瞬で消えたのだが、




  ドシュ──…………。




「え?」


 その代わり、

 ──……リーデルのそれは激痛に代わった(・・・・・・・)

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