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第27話「魔法学校ダンジョン実習(※)」

 ガヤガヤ!

  ワイワイワイ!


「おーい! はぐれるなよー! 村はこっちだ!」

「クレインせんせー! 何人か、馬車酔いでーす!」

「なにー! 僧侶候補! 支援しろー」


「「「はーい♪」」」


 黄色い黄色い、若い声。

 その中には気分の悪そうな声も交じっているが、大半は楽し気で陽気でテンション高め!


 それもそのはず、彼ら彼女らは、王都にあるこの国随一(ずいいち)のマンモス校──魔法学校の生徒たちで、

 今日は待ちに待った校外学習の日。それも数日間の宿泊を伴った一種の修学旅行なのだから!


「よーし! 集まったな? じゃー、まずは委員長の指示で全員、天幕に入れー。ちゃんと名前を確認するんだぞー!」

「「「はーい♪」」」


 うんうん。

 可愛い可愛い。


 お揃いの制服にお揃いの帽子。学年の違いを示すのはリボンだけ。

 そして、彼らなりに校則と誓約の中で精一杯のオシャレをして、それぞれの属性や特性に応じた少しだけオリジナルを加えた魔法杖を腰に差している。


 うむ。

 これぞまさに伝統的な魔法学校の生徒といった出立ち(いでたち)だ。


 しかも、全員の魔力は遠目に見てもわかるほど輝いており、非常に優秀な少年少女であることがわかる。


 それもそのはず──。

 彼らは魔法学校の中でも生え抜きの生徒達!


 彼らは優秀がゆえに、初めての試みである『新月のダンジョン』を使った実習の先行試用として参加しているのだ。

 ようするに、本格な実習の前にまずはお試し期間を設けたというわけ。


 そして、そんなお試し期間に選ばれたのが、ただの凡夫や素行不良のはずがない。

 ここに集うは学校でも特に優秀と評された生徒たちが集まっているのだー。


 みよ!

 この優秀な生徒たちを!


 王族、公爵令嬢、伯爵令息に騎士団長の娘!

 それに、大商人の子供はもちろんのこと、教会関係者や他国の留学生もいるという。


 彼らは10才くらいから入学できる魔法学校のうち、1~6学年の全学園から選抜された10~16歳の若く優秀な子弟たちなのだ。


 当然、高貴な生まれからは高等な血が生まれる。

 彼ら彼女らは、その出自と相まって生まれつきの魔力素養の高い者が多く、その血筋と才能だけで、すでに将来が決まっているという前途有望な若者たちなのであーる。


 しかーし、そんな彼らもまだまだ子供。


 学校開設以来、初めての長期遠征。

 そして、長期の修学旅行とくれば、そうはもう心が躍らないはずもない。


 オマケに冒険心がくすぐられる『ダンジョン』とくれば誰でも笑顔になるというものだ。

 しかも、ゴミゴミとした王都と違ってこの田舎は空気も美味しいし水も綺麗。飯も新鮮そのもの!


 こんな、

 こんな楽しいイベントまずないだろう────……。


「じゃー、先生は村長に挨拶してくる。そのあとで護衛と案内のギルドの人を紹介するから、全員、正装で待機すること!」

「「「はーい!」」」


 うんうん。

 正装ともなれば、表情も引き締まる。


 さっきまでの浮かれた雰囲気はどこへやら。キリリと引き締まった表情は、少し大人びて見えた。

 こう見えても、彼らは栄えある魔法学校の生徒で、なかでも最優秀とされる各学年のトップオブトップ、エリート中のエリートなのだ。


 だから、無様な格好は見せられないし、今後の行事の恥となるような行動もできない。


 そして、この実習が試用期間も含めているのだからなおさらだ。

 失敗をすれば、次を楽しみにしている生徒たちの迷惑になるので、とくに彼らに課せられた責任は地味に重い──。

 


 ──重い。



 そう、重いのだ……この一大イベントと化した実習は、じつはめちゃくちゃに重いのだ。


 すさまじい金が動いているし、人脈も地ならしも過去最大級の調整で成り立っている。

 そして、村は村で、ギルドはギルドで、この地域の評判と今後の経済にも大きく関わるとして大きく力をいれている。


 オマケに参加している人員の親の大半は貴族や大商人だし。

 なんなら、参加生徒には王家の血をひくものもいるというのだから……と、とにかく、絶対に失敗できないイベントなので──、


「どーーーーーーーしよっかなー!!」

「どーするんですかー」


 ……その生徒たちが集まった村近郊の野営地を眺めていたギルドマスターは、がっくりと肩を落とすしかなかった。


 それもそのはず……。


 期待していたBランクパーティの『鉄の拳』と『月下の花』は結局未帰還で、

 その増援として到着するはずの、ダンジョン都市発の高ランクパーティも未だ未着とくればそうなるのも仕方なし。


 というか。

 まさに最悪の事態だ。よりにもよって、懸念されていたように、先に魔法学校実習生が到着してしまったのだ。


 できることなら、遅れるとかさー。

 何らかの事情で、中止になるとかさー……と、そういうのをギルドは望んでいた。というか、それをギルドマスター個人は望んでいた。


 いや、百歩譲ってそれ無理だとしても、それまでに高ランクパーティが到着していれば、実習開始寸前で解決するという手もあったのだ。

 だが、どれもこれもことごとくハズレ──ついに今日を迎えてしまった。


「──で、どーするんですか?……今からでも、事情を話します?」

「バ、バカやろう! な、ななななな、なんて言うつもりだ!」

「そりゃ、ありのままに──」


 新月のダンジョンは、行方不明者多数。

 内部の状況はほぼ不明です。中に入ったら生きて戻れる保証はありません。つまり、実習候補地としては不適でーす。


「──みたいな感じで」

「ばっかやろー!! そんなこと今更言えるか! み、みみ、見ろ! あの野営地! そんでもってアイツ等の乗ってきた馬車を!」

「は、はぁ……」


 広い、

 広い野営地。


 今後の使用も考えて伐採し、整地し、道を整備し、そして多額の借地料を払っている。


 (ひるがえ)って馬車。


 数頭仕立ての馬車が、ひーふーみー……うわ、一杯だ。しかも、超~豪華なやつ。


「……お金かかってそうですねー」

「かかってるなんてもんじゃない!!」


 野営地を作る金も、

 馬車を仕立てる金も移動費も宿泊費も、


「はっきり言って、そこらの中小貴族の年間の税収よりかかってるッつーの!」


 えー。

 まじー?


「わからんのか?! 魔法学校だぞ、魔法学校!! 幾人もの英雄を輩出し、平時にあってはほとんどが魔法兵団のトップか王宮魔術師になる子供たちだぞ? 落ちこぼれでさえ、田舎に帰ればそのネームバリューだけで、役場で即重役だし! 民間に行けば引く手あまた、若輩でも魔道具の工房が持てるんだぞ!」

「は、はぁ……それはすごい──」


 田舎のギルド職員には目もくらむ待遇だ。


「つまり、エリート中のエリート!! その中でも、さらに上澄み中の上澄みがあいつらだ! みてみろ、あの委員長とかいう、女ぁ」

「あー、あの眼鏡の」


 14、5才くらいの黒髪の美しい少女はまめまめしく動き、天幕に入る生徒たちをまとめている。

 よく通る声、そして、子供にしては豊満な体。さぞ、大切に育てられてきたのだろう。


「──ありゃ、エーベルト公爵家の公女さまだよ。リーデル・エーベルト!! 本物の大貴族だ!」

「えー!」

「そんで、その補佐してる目つきの悪いガキ二人!」

「あー、あのわりとイケメンの少年と少女……?」


 公女様につかず離れず、

 かつ的確に指示を出して補佐してる同じ顔をした二人の少年少女がなんだというのか?


「知らんのか?! ありゃ、王子様だよ、おーじさま! グラハム第14皇子! で、隣の同じ顔のが双子のバハナ王女様」

「へ?」


 お、王族……?


「あぁ、それも本物のな! まぁ、その名の通り皇位継承権は14位とかで、えらく低いんで、魔法学校に入れられてるらしいが──才能があるとかで、のちのちの兵団長候補と噂されてるガキだよ」


 ひえー。

 王子さまで、魔法兵団のトップ候補?!


「そ、そんなのがなんで……」

「それが魔法学校ってモンなの! だから、すっごい金が動いたし、ウチのギルドも万々歳だったんだよー!」


 だのに、

 だのに────……がぁぁあああああ!!


「ド畜生!! クソ雑魚冒険者どもがー!!」

「あ、あ、あー……。それは、あんまし言わない方が……」


 一応ギルドマスターでしょうが、アンタ。


「くそ! わかったか? だから、今更中断なんて言えないんだよ! 言うなら言うでもっともっともっっっっっと早く言わにゃならんのだ!!」

「あー……。やー……。でも、言わないとー」


 でないと、このまま実習始まっちゃうよ?

 そんで大参事起こっちゃうかもしれませんよー?


「ぐぬ! わ、わかってる、わかってるんだ、こっちだってなー」

「なら、はやく──あ、ほら、どっちみち、引率の先生が来ますし、その時にでも──」

「馬鹿野郎! だから、言えねーつってんの!」


 えー。

 じゃーどうすんの?


「くっ。……ギ、ギリギリまで待つ」

 はぁ?

「ま、待つって、なにを?」

「そりゃお前……──増援だよ。そろそろ到着するんだろ?」

「あー。ダンジョン都市からの高ランク派遣のことですか……。や、でも、あれは全然予定立ってないですよ?! そも、『そろそろ』っていうのは明日かもしれないし一週間後かも。──それくらいのスパンですよ」


 下手すりゃもっとかかるかも。

 冒険者は騎馬兵じゃないからなー。基本は徒歩か鈍足の馬車を使うんだし、こればっかりはしょうがない。


「くっ! と、とにかく時間稼ぎだ! それまでにお前は準備を整えておけ!」

「いや、準備って……。ええ、まさかマジで実習をするんですか?!…………その前提で動けと?!」


 正気の沙汰とは思えない。

 自殺行為だ。だいたい、冒険者だって行くの嫌がるぞ? ウチのギルドで今最高ランクでCが少数と、あとはDとEばっかり。


 そして、実習のフォローなんて、Eランクに任せられるような仕事でもないので、必然的にCとDになるのだが、

 こんな田舎ギルドに残ってる『C』なんて基本、一癖も二癖もあるか、事情持ちだ──。


「──む、無理ですよ。Dランクで受けてくれる奴なんて……」

「あほっ! 何人かいるだろ、何人かー! それに、生徒全員に一人一人つけるわけじゃない! どうせグループに分かれるんだから、10人くらいをなんとか見繕っておけって言ってんの!」


 えー。

 10人て、アンタ……。


「無茶ですって。この前だって、無理やりダンジョンを開放して突っ込ませたせいで、新人とかが数名行方不明になってるんですよ?」

「その代わり、何人かは帰って来ただろうが!」


 そりゃそうでしょうとも。

 誰かさんが、ダンジョンの偵察にうちのギルドの冒険者を行かせたもんだから、マジで何人か潜っていった。


 おかげで還ってきたのはそのうちの半分……。

 

「そうだ! その帰ってきた奴等だよ──そいつら使え!」

「や。ちょっと待ってくださいよ。そいつらったって──……」


 絶対無理だ。


 なぜなら、連中ビビりまくって、ちょこっと入っただけですぐに帰ってきたのだ。そりゃ、怖くて奥まで行けんわな──たとえ低ランクダンジョンだとしてもだ。


 そして、もちろんそのことはこのギルドマスターも知っている。


「あぁ、わかってる! だが逆に考えてみろ!」

「は? 逆?」

「つまり、ちょこっとだけなら(・・・・・・・・・)入れる(・・・)ってことだよ! そんでそいつらが入った所までなら安全ってことだ。……どうだ?」

「ま、まぁそうとも言えますが──……」


 いや、マジでちょこっとやで?

 先っちょだけ先っちょだけ。


 そんなんであの人数の実習のフォローなんてできるわけないやん?


「──あくまでも最悪の場合だ。こっちでなんとか時間を稼いで高ランクの到着を待つ。……それも間に合わなければ、少しでもダンジョンに入った連中に案内と護衛をさせろ。……ようは、そのちょこっとからそれ以上先に行かなければ安全なんだからな」


 いや、それ本末転倒じゃね?


 ……なんのためのダンジョン実習で、なんのためにここが実習先に選ばれたと思ってるんだか──。


「はぁ、まぁ、手配は致しますが……。報酬は通常の5倍は出さないと動かないんじゃないですかね」

「それくらいは出す! いや、10倍だしてやれ」

「それは──……はい、わかりました」


 まぁ、最悪の事態だしね。

 高ランクがいつ到着するかわからないけど、それで解決するならそれに越したことはない。


 何より、所詮職員は下っ端なのだ。

 上司にやれと言われたらやるのみ──。








「…………転職しよ」

「なんか言ったか?」






 この選択が、この国を根幹から揺るがす事態になるとは──この時は、まだ誰も知らない……。

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