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第16話「食事中」

 一方こちらはダンジョン真っ最中。

 そして、「私」も食事の真っ最中!


  バキバキッ!

   ボリッッ!!


「うめ! うめ! うめ!」

『あーあーあーあーあー……二人も踊り食いしてるし』


 うるへー!

 新鮮な獲物はこうして食うのが一番うまいんだよ!


『しかも、Dランクかー』

「……それ、いっつも思うけど、どこで判別してるの?」


 くっちゃくっちゃ。


 今日捕まえたばかりの冒険者を頭から丸かじりしながら思うのは、先日もEランクを御馳走様したときに、見事にランクを言い当てたミユちゃんのこと。


 なんだろ?

 もしかして、そういう匂いがするのかな?


『……アンタが咥えてるお肉の胸元みなさいよー』

「胸元ー?」


 血の滴る肉の脚を舌で掴んで逆さ吊りにする。

 顔は……うん、おいしかった──。



  チャリン♪



「なにこれ?」

 なんか垂れてきた。

『ドックタグ』


 へー。

 認識票ってやつか。


 首から澄んだ音を立てて垂れ下がったそれを器用に舌でひっくりかえして見ると、なるほど──Dランクだ。


「カール・アンゲナス(17才)……やや硬いけど、おいしい」

『味は書いてないでしょ!……って、アンゲナス?──その子、地主の子よー』


 あー、だから家名持ちなのね。


 でも、そんなに無茶苦茶美味しい──ってほどでもないね。やっぱ魔法使いがいいわ。


 ちなみに、さっき踊り食いした子はまぁまぁ。

 ……ミユちゃんと同点くらい。


『やーな顔しないでよ。あと、さっきの子なんで吐いたの?』

「いや、一気に二匹も……ごほん、」


 おっとつい人間をお肉換算してしまった。

 ダメダメ。敬意をもって美味しく食べるのだ。


「ごほん、失礼……さすがの「私」も二人も食べれないし」


 さすがに一度に二人はきつかったわー。

 でも、あんまり新鮮なもんだから、ストレージにはまだ保存食の余裕があったので、ちょっと興味本位で味見してみたけど、うん駄目だわー。

 胃から出ちゃったわー……。


『じゃー、口にいれなきゃいいでしょ! そもそも逃がすとかさー!』


 ミユちゃんが怒るのも無理はない。

 地面には、最初に丸呑みしてから吐き出した子が溶けかかった状態で転がっている


 元は可愛かったんだろうなー。

 ……ゴメン、だけど名前は知らないや。


『あ! ほらぁ……。あーあーあー……こうなると思ったわよ』


 え?

 こうなるって……あー。



   「あう゛う゛ー」



 ズルリ。


 そうだった。

 なんか知らんが、ある程度の条件を満たすと、口から吐いた人間がモンスター化するのだ。


 以前はミユちゃんのお兄ちゃんを、ちゃ〜んと消化してから、まるのままのガイコツで吐きだしたらスケルトン化した。


 そいや、

 ……お兄ぃは今どこにいるんだろね?


「──そして、半分消化したままだとこう(・・)なるのかー」



   ずる……。


    ずる……。



 しめった音を立てて起き上がった死体。

 腐ってるというか溶解してるという。……総じて超グロイ──。


「え~っと、どれどれ?──はぁぁ! 『凝視』!」


 むん!


 視界に力をいれると、きたきたー。



    《ゾンビLv1》



「まんまやん」

『そりゃそうでしょ! あーもう、ほら、意志がないから彷徨(さまよ)って行っちゃった……』


 いいじゃん。


 そのまま元気にダンジョンで生息するって──あ、でも、食べときゃよかったかな? 半分しか消化してないからもったいなかったかも。


 入口を出て行く名前も知らない美味しかった女の子ゾンビが、フラフラとどこかに歩み去っていく。


 ……うん。

 チャンスがあるか知らんけど、腐ってるわけじゃないし、今度視界に入ったら食ーべよう。


『……なんか凄いこと考えてない?』

「ないない。普通のこと──それよりもさっき、口に入れなきゃ、逃がしてあげてーとか言ってた?」


『言った! 言ったわよ! だいたいアンタってば食べ過ぎだし、容赦なさすぎ!……か、可哀想とか思わないの?!』

 は?

「思わないよー?」


 えー、何言ってんのこの子?

 なんで可哀想って反応になるの?


「だいたい、逃がしたら次は「私」が狙われるじゃん」


 こっち、ミミックよ?

 一歩も動けないミミックよ?


「場所が分かって、正体もわかってたら、普通──大人しく食べられてくれると思うー?」

『……思わない』

「なら、そーいうことー」


 多分この子もわかっている。


 でも言うのだ。言わずにはいられないのだ──元人間で食べられた側としてはなるべく逃げてほしいし、なんなら「私」が討伐されることを望んでいる。


 今でこそ、なんとなく馴染んでいるが、元は捕食者と被捕食者の関係だ。

 そして死ぬほどの激痛を味わい、肉体を失い──兄を骨だけにされた身として、絶対に味方にはならないのだ。そんなことは誰しもわかっている。


 ただなんとなく、なぁなぁでこうして一緒にいるし、

 そもそもゴースト(?)の彼女に対し、有効な攻撃手段もないのだからどうしようもないのだ。……もちろん、向こうも同じようなものだろう。


「「私」も死にたくないしね。だから、見つかった以上、倒す。……そして絶対に息の根を止める。あ、食べるのは別の理由だよ」


 これはただの嗜好です。


 最初の冒険者を食べる前、あの耐えがたい空腹を感じていたのに死ななかったということは、おそらく、ミミックという魔物は空腹で死ぬことはない。


 ……あったとしても、相当な期間を要するだろう。

 だから、そう言う生物(?)なんだと理解はすでにしている。


「なので、なんで食べるかと言われると──まぁ、おいしいからかなー。……ミユちゃんは不動の3番だよ。いまんとこね」


『ふんっ。結構俗ねー』

「君に言われたくはないなー」


 ええから、はよ成仏せいや。


『ミミックのくせにー。……はぁ、それにしても、な~んで皆こんなに簡単に引っかかるかなー。このパーティで7人目?」

「そうだねー。今んとこ割と必勝パターン!」


 えっへん!

 なので、ポイントは引き続き貯めてます。


 いまはえっと……1200ポイントか。いいね!


『くっそー。アタシが話しかけられたらなー』

「無理無理。ゴーストは現世の人に関われないよ」


 知らんけど。


『むー! いっそスケルトンがよかったかも』


 それだと喋れんぞー。

 

『だいたい、皆バカよ、ばーか! ダンジョン内に錬金工房って怪しすぎるでしょ! それなのに、アイテム捜したり、あげくのはてに、ノーモーションで宝箱あけにいくとかさー!』

「あっはっは! 人間の注意力は長くは続かないからねー。それに、怪しいものだらけだと逆に怪しくなく感じるものだよ」


 だから、無防備に近づいてくるのを、パクーっとできるのだ。


 それ以前に、アイテムに釣られて入った時点も、もうアウト。

 そして、最近はソロなら奇襲しなくても負ける気はしないなー。


 背中さえ見せてもらえば、あとはサクッ! と征くだけだもん。


 コンビの相手も、反撃のタイミングを()らせさえすれば一瞬だ。誰しも、ジナちゃんのようにドライに反撃はできなものだ。

 むしろコンビは絆が強いだけに、相方を失った瞬間フリーズするから狙い目だったりする。さっきのEランクの……なんとか君も、


『アンゲナス君ね』


 うん、アンゲナス君も、相方の可愛い女の子が即死した瞬間、完全にフリーズしてたからねー。


 なんか二人して部屋に入ったとき、飾ってある剣を構えて、「うわー綺麗な剣」「なに、君ほどじゃ──……え?」って感じだったからねー。


 ──うんうん。初々しくて可愛いかったねー。

 

『はぁ……まいったわ。思ったよりもコイツ強敵。──このままだと被害者がさらに増えていくわ』

「被害者じゃないよ」


 お肉だよー


『そういうとこよ。……絶対相いれないわ』

「こっちのセリフだなー」




 そうして、こうして食事を楽しみつつ、部屋の復旧を終えたのだが、それ(・・)はすぐそばにまで迫っていた──。

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