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第15話「増援(※)」

 ガヤガヤガヤ!

  わいわいわい!



 新月のダンジョンの近郊に大量の天幕が設置されていた。

 そのどれもが新品で、王都から急遽輸送されたものだという。その設置には村人総出で駆り出され、結構な手間暇がかかっていた。


 だが、村人の顔は明るい。

 なぜなら強制労働ではなく、かなりの賃金が支払われているのだ。


 日当でいくら!

 しかも、飯付き、持ち出しなし……とくればやるしかあるまい。


 結局、本来の予定を繰り上げての完成に、王都側でも村の協力に感謝しているとかで、先んじていくつかの学年の生徒たちがいくことになったらしい。


 まぁ、いきなり学校全部というわけにはいかないからね。

 選抜された優秀な学生が数十名と言った感じだ。


 いわゆる、お試し期間ってとこかな。


 そしてその結果如何(いかん)で、さらに拡充し、その規模はゆくゆく100名以上を見込んでいるとかなんとか。

 同時に、その跡地を利用して今度は騎士団見習いがくるというのだから、かなりの大盤振る舞いだ。


 魔法学校のこの行事は、これらの資金石も兼ねているのかもしれない。


 そして、そんな大規模な演習地候補に選ばれた期待感も相まって、村人は「村」を上げての大歓迎ムードだ。


 実際、気の早いものは、賃金を前借して新築まで建てちゃったりしているし──。結婚までした奴もいる。

 しかし、そんな陽気な空気とは打って変わって張り詰めた空気が立ち込めている場所がある。

 

 ──そう。


 言わずと知れたダンジョン最前線、冒険者ギルドだ。


 この村でのギルドの仕事は、主にダンジョンに挑む冒険者の管理で成り立っている。

 一応、外の仕事もあるにはあるがダンジョンの実入りに比べれば微々たる量で、その仕事の大半がダンジョンのそれに注がれているという(かたよ)りっぷり。


 なので、そのダンジョンに問題ありとなれば、空気も張り詰めようというもの。


 そして、今日も今日とて、不機嫌なギルドマスターは職員の報告に今にも怒鳴り散らさんばかりの表情だ。

 しかしさすがに毎度毎度しかりつけるのにも疲れたのか最近は大人しいもの。


 もっとも、報告するギルド職員は気が気ではないけども──。



「──で、」



 短く一言。

 さっさと話せというオーラ。


「え、ええ~っと、その、イイ報告と悪い報告がありますぅ」

「悪い方」


 まぁそうですよねー。


「ご、ごほんッ。そ、それでは悪い方ですが──その……また、複数のパーティが未帰還です。ソロが3名。あとEランクと、Dランクのコンビのパーティが2個で計7名です。Dランクのほうは本日の帰還予定時刻を過ぎてもまだ未帰還なので、推定ですが」

「──7名だぁ?! な、なんで増えてるんだよ! 管理人はなにをしていた。なぜ通した?!」

「え? そ、そりゃもう、普通に通してますよ?」


 誰かさんが、封鎖しないって決定したやん?

 むしろ、アンタがそう言ったんやん──という目の職員。


「ぬー! それだけか?!」

「は、はい。 あ、あと、未だに原因は不明ですが、それらもあってビビったんでしょうかね? 悪い噂が立ったこともあり最近は『新月のダンジョン』を避ける冒険者が多数です」

「チッ!」


 盛大な舌うち。

 しかし、それを職員に向けるのはやめて欲しいものだ。


「──で、いいほうは?」

「え? あ、はい。例の実習に参加する魔法学校の生徒達ですが、予定より早く到着するそうです。みんな各学年の優等生グループとのこと。計……え~っと35名ですね」


 みーんなお金持ちで貴族の子もいる超VIPボーイたちだ。

 あ、ガールもいるね。ピッチピチのティ~ンエイジャーです。


「は!? そ、それのどこがいいことだ!」

「へ? しかし、村は活気づいておりますし、補助金も我がギルドに入りましたよ? あと、マスターも期待してたじゃないですかー」

「馬っ鹿モーン! いつの話だ、いつの!」

「一か月前です」


 そう一か月前くらいはなー。

 よかったんだよなー。


「つまり、状況が変わっとーる!」

「いや、そんなこと言われましても──……今からでも、断りますか?」

「そ、そういうわけにはいかん! か、金も受け取っておる!」


 ですよねー。

 ギルドの酒場拡張しましたもんねー、マスターの私室も……。


「では、引き続き受け入れ態勢を整えるということで」

「う、うむ。それでいい──……ん? いいことってのはそれだけか?!」


 なわけない。


「──いえ、もう一点」

「ふむ!」


 鼻息を荒くしたギルドマスターが、ぐぐぐと前のめりになる。


「え、ええ~っとその、かねてより要望しておりました高ランクパーティの要請ですが、いくつか通ったようで、同時に何パーティかがこちらに向かっております」


「ほう! 何パーティもとな! いいぞいいぞ!」


 そりゃね。

 こっちは苦労したんだよ、とギルド職員が息をつく。


「──で、到着はいつだ?」

「各パーティごとまちまちですが、さっそく近くにいたBランクパーティが到着。3名編成の『鉄の拳』が今朝、村に宿を取ったとのことです」

「おぉ! 『鉄の拳』か!」


 どうやら知己の様子。

 まぁ似たようなスタイルの冒険者だし、知っているものだろう。


 あ、ギルドマスターも、元冒険者です。ひざの矢を受けたとかで引退したらしいけど、Aランクのそこそこ有名な冒険者だったらしい。

 もっともギルド職員は誰もしらないらしいけど──っと、それはさておき。


「どうします? 面会なさいます? 説明自体は私のほうでしておきましたが……」

「むぅ? なんという説明だ?……いや、そもそも、どうやって複数のパーティを呼んだ?」


 えーそこからぁ。

 すっごい嫌そうな顔のギルド職員だ。


 丸投げしておいたくせに、こういう時だけ首をつっこみたがるんだよなー。

 どう転んでもギルド職員が被害を被る図しか見えない。


「はぁ、まぁ……その──し、新エリアの発見に伴う調査と……」

「し、新エリア?」


 そう。

 新エリアだ。


 探索中のダンジョンでありがちのそれだ。

 中は未知の領域で、得体のしれない化け物がいるかもしれないので、高ランクの調査を依頼するのはよくある話である。


「……新月のダンジョンにそんなのあったか?」

「知りませんよ……。あるかもしれませんし、ないかもしれません」


 そもそも、まだ探索中なのだ。

 稼ぎがあまりおいしくない練習みたいなダンジョンなので、誰も奥まで調査してないだけで、未知といえば未知のダンジョンなのだ。


「──いや、それまずくないか?」

「だから知りませんよ……。説明が気に食わないというのなら、あとはマスターがお願いしますよ?」

「むぐぐぐ……」


 そりゃそうなるわな。

 この人はなんだかんだで保身が第一。


 自分の口から、出まかせをいって違ったら責任問題になるからだ。


「ほ、保留だ! 保留! 少し考える!」

「はいはい──では、いつのも定例報告にもはいりますねー」


「うむ。頼む」


 そうして、こうして、新月のダンジョンを管理する冒険者ギルドでは、どうやら何やら事態が進行中なようで──。

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