第13話「冒険者ギルド(※)」
『新月のダンジョン』の近郊に位置する名もなき寒村にて──。
……いや、名もなき寒村であったのは今も昔──その村は、最近は発見されたダンジョンのおかげで突然の好景気に沸きに沸き返っていた。
おかげでかつては寒村であったなど誰も思わないほどに発展し、村長のベルントの名を冠し、「ベルント村」を呼称。
すでに外観だけで言えばちょっとした街と言っていいほどに発展していた。
そんなバブリーな村の「中央」には村の集会所やマダム集まる大型井戸やらがあり──そのほかにも行政機関に、駐屯衛兵の屯所やらと結構な行政機関が集中しているのだが、
その行政(?)機関のなかでももっとも、巨大で一番の富を生み出しているのが、ここ冒険者ギルドであった。
そんな村一番の稼ぎ頭の冒険者ギルドに、怒声が響き渡る──!
「──なんだとぉぉぉおおおお!」
「ひぃ!」
……怒声響き渡るギルドであるが、そこの形式は大都市と同じタイプで、酒場と宿屋を併設した形の一般タイプ。
いわゆるカウンターがあって、商人用の窓口があって──クエストが張り出されるボードがあるというそれ。
しかし、今の舞台はそこではなくギルドの最奥、ギルドマスターの部屋。そこが今、大音声によって崩れんばかりに震えているのだ。
「も、もう一度言ってみろ!」
「……そ、そんなぁ。一回も二回も同じ報告ですよぅ」
ぶるぶる震えるギルド職員の目の前には、ソファーに座した巨漢が一人。
当然この人がここのマスターなわけだが、はっきり言って山賊の親分と言ったほうがぴったりと来る風貌だ。
そんな奴が、ひょろひょろのギルド職員に怒鳴り散らしているのだから、世が世なら一発パワハラコースである。
「いいから言え!」
「ひぅぅ……う、う、わかりました。え~っと、」
結局言うのかよ、と嘆きつつ、言葉を選ぶギルド職員。
だが内容は極めてシンプルだ。
正直、他に言いようがないのだが──……ええぃままよ!
「C、Cランクパーティ『砂塵の鎖』が未帰還!──三日間の判断規定により、遭難判定となりましたー!!」
「なんだとぉぉぉぉぉおおおおおお!」
いや、だーかーらー!
「さ、さっきらそう言ってるじゃないですか! 他にどう言えと!」
「もっとオブラートに!」
え、ええー。
そういう感じぃ?
「な、なら、そのぉ……我がギルドが期待していた高ランクパーティであり、稼ぎ頭のCランクパーティが、そのー……何らかの事情でダンジョン内で消息を絶つか。何かどうにかして、三日たち、ギルドの規定により、そ、遭難と認定されましたー」
「さっきと変わっておらんではないかぁぁぁああああ!」
いや、だってー!
「だ、だいぶオブラートに包みましたよ?! さ、さすがに虚偽の報告はできませんし……」
「遭難がありえん!」
いや、そこかよー。
「……しかしですねぇ。ダンジョン前の管理人が、彼らが突入したのは目撃しておりますし、書類にもほら──こう、三日前に捜索隊としてダンジョンに入る旨が記載されてますし、」
ここねここ。
バイナルさんとジナさんの合同名義。
「その三人が、一度もダンジョンから出てくるところは目撃されておりません……これはもう、遭難したとしか──」
「なんかあるだろ!!」
なんかってなんだよ……。
「管理人の交代の隙を狙って出て来たーとかあるだろ?!」
「何のためにそんなことするんですか……。それに管理人は完全交代制ですし、衛兵もいますよ?」
そして、その体制をつくったのアンタやん……ギルドマスターどのぉ。
「──だとしても、こう、サッ! と行っちゃったみたいな、」
「いや、だから何のために? あと言っときますけど、宿に荷物は置きっぱなしですよ」
「むぅ! それもこう、サッ! とさー」
いい加減にしろーい。
「現実逃避しても仕方ありませんよ。それよりも対策をお考えになったほうがいいのでは?」
「ちっ。……めんどくせー」
コイツ、めんどくさい言いやがったよ。
つーかそれが本音か。
「……だいたい、おかしいじゃないか? 新しく発見されたダンジョンで、さほど脅威もないし──魔物も凶暴なのはいないという話だったろーが」
「それはそうですが……。まだまだ調査中ですし、もしかして未発見のエリアでもあったのでは? 新しく発見されたダンジョンなだけあって、今も地図は逐次更新されておりますし──」
実際、探索中のダンジョンでは新らしく発見されるエリアがあるのは珍しくない。
そして、その新発見エリアで思いもよらぬ化け物に遭遇することも、ままあると言えば……ある。
つまり、今回はそう言ったケースなのだろう。
「くそっ! アイツ等帰ってきたらただじゃ済まんぞ」
「だから帰ってきてないんですってー」
そう。
帰ってこないのだ。
このあたりではいくつかのダンジョンが発見されていたのだが、とくに『新月のダンジョン』は比較的探索が容易で魔物もさほど脅威ではないということが分かり、今では初心者から中級への冒険者の修練の場として活用されていた。
こういったダンジョンは高レベル帯のダンジョンほど実入りはないものの、
冒険者がダンジョンを学び、素人から徐々に腕を上げていくにはもってこいなのだ。
そして、そうしたダンジョンは実は貴重で数が少ない。
なぜなら、多かれ少なかれダンジョンというものは危険なため、初心者が挑戦するにはハードルが高いとされているからだ。
その点、この「新月のダンジョン」は、内部が暗いという一点だけ目をつぶれば、実に簡単で様々な冒険者が登竜門として訪れているというわけ。
……実際ここベルント村の冒険者ギルドでも、その『新月のダンジョン』は、まさに腕試しとお試しにぴったりのダンジョンとして紹介しているくらいである。
なのに、
なのになぜかここ数日──冒険者が帰ってこないという、異常事態が発生していた。
……そりゃあ、あるよ? 腐ってもダンジョンだ。
魔物だっているし、トラップだってある。だけど、どれもそこまで強力じゃないし、ましてやCランクのパーティが万全の体制で挑んで帰ってこないようなダンジョンではないはずなのだ。
それが蓋をあければ、これだ──。
「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……! も、もうじき、魔法学校やら騎士団見習い連中が大勢ここに来る。その実習の場として使うことを正式に認可しようというタイミングだぞ──そ、それがこのままではぁぁ」
「そう言われましても……」
……そう。
それがこのギルドが抱える目下の課題であった。
実は、ギルドマスターが言うように、王都にある魔法学園や騎士団からの打診があったのだ。
それも、大量の生徒や見習いが訪れ、ぜひ実習に使わせてほしいというもの。
わざわざ王都からここと思わなくもないが、
実は、交通のアクセスが良く、適度な広さと難易度があり、周辺住民に迷惑が掛からない場所としてこのベルント村と新月のダンジョンは、ダンジョンの体験にはうってつけなのだ。
むしろ、王都やその近郊にあるダンジョンは危険だし、なにより数多の冒険者が競合するからトラブルが絶えないとして、基本的には避けられる傾向にあった。
だから、こうして郊外のダンジョンに目が向けられるのは十分にありえるのだ。
そして、そして──……そうなれば、当然村は儲かる!
ギルドも儲かるし、なにより箔がつく。
魔法学校も騎士団見習いたちも安全安心、
快適な環境でダンジョン実習ができて、誰もがウィンウィンに慣れるというのに──そ、それがぁぁあ!
「ちっくしょー! このままじゃ、俺の快適ライフにケチがつくじゃねーかぁぁあ!」
「はー……これだよ」
「なんか言ったか!?」
「いーえー。……それよりどうなさいます? ギルドの規定で言うなら再度捜索を出すか……これ以上の被害を防ぐために捜索を諦めたり、ダンジョンそのものを封鎖する方法もありますが、」
言ってて職員は口を皮肉下にゆがめる。
まぁ、しないだろうけどな──と。
「封鎖だぁぁあ!? 馬鹿を言うな! いま、ダンジョンに問題ありと上層部に報告してみろ! せっかくの実習場所の話がパーだぞ!」
ほーらね。
「……それはそうですが──では、問題なしとして、このままダンジョンを運営して……その後も学生たちを受け入れるんですか?」
冒険者は今日も普通に探索に行ってるわけだし、
なんなら、その件の実習の話はもう喫緊の話なのだ。
近いうちに魔法学校の生徒たち──そして、次に騎士団見習いだ。しかも、近衛騎士……。どっちも貴族の子息ばっかです。
「ふんっ! それまでに解決すればいいことだ! とりあえず、上層部──……ギルド本部には問題なしと言っておけ」
「はーい……」
いいのかなーと思いつつも、それを考えるのは職員の仕事ではない。
最悪、こんな職場辞めちゃえばいいんだしねー。
「それと、あれだ! あれ」
「あれ?」
あれで分かるかよ……。
熟年夫婦じゃねーんだぞ。
「あれと言えば、あれだ! ほら、Cランクが遭難したんだから、次はBランクだ! この辺の冒険者か──いなければ、近隣のギルドに掛け合って派遣してもらえ!」
「この辺にはいませんよー。ジナさんの所が一番だったんですからー」
新月のダンジョンを卒業して他にいくんだから、それ以上がいるわけない。
「なら、ほら──隣のあれだ! ダンジョン都市から派遣してもらえ!」
「えー……なんて言うんです? 正直に伝えるんですかぁ?」
「そんなわけあるか! うまく考えろ、馬鹿め!」
「はいはい。わかりましたよー」
そんな都合よく行くわけないだろうと思いつつも、近隣の都市に高ランクの派遣要請をするための文言を考え出すギルド職員なのであった。
しかし、それはともかくとして。
「Cランクが行方不明だからって、Bランクでどうにかなるのかなー?」
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