第97話 同行者として
帰路は、静かだった。
空白地帯を抜け、
管理網の内側へと戻る。
装置が、遠くで光っているのが見える。
「……安心しますね」
若い技師が、ぽつりと呟く。
規則的な光。
一定の間隔。
干渉可能な波長。
管理は、ここでは正常に機能している。
「戻ってきたな」
ミレナが、小さく息を吐く。
だが、
どこか落ち着かない。
空白地帯での数日間が、
身体に残っている。
「報告は、どうする」
リーファが、アレンに聞く。
「そのままだ」
「装置無効」
「干渉不能型」
「杭による傾向記録」
「……感情は?」
「書かない」
リーファが、少し笑う。
「書けませんしね」
恐怖も、
迷いも、
後悔も。
制度には、記録しきれない。
街の門が見える。
若い冒険者が、足を止める。
「……俺」
視線は、アレンに向かない。
「戻ったら、どうなりますかね」
「どうなると思う」
「分からない」
正直な答えだ。
アレンは、少しだけ考えて言う。
「変わらない」
「え?」
「世界は、急には変わらない」
「空白地帯も」
「管理世界も」
「少しずつだ」
若い冒険者は、息を吐く。
「じゃあ、俺たちの意味は」
「ある」
即答だった。
「意味は」
「その場で決まらない」
「後から、繋がる」
空白地帯での判断。
代償。
杭の記録。
それらは、
すぐに形にならない。
だが、
消えもしない。
門をくぐる。
装置の光が、一定のリズムで瞬く。
安心と、
わずかな違和感。
ミレナが、アレンを見る。
「……ありがとうございました」
「何がだ」
「決めなかったこと」
アレンは、少し目を細める。
「決めなかったんじゃない」
「横にいただけだ」
同行者。
裁定者ではない。
指導者でもない。
間違いを止めない。
だが、孤立させない。
「次は」
ミレナが言う。
「もう少し、自分で迷います」
「それでいい」
街の喧騒が戻る。
空白地帯は、背後にある。
だが、
切り離されたわけではない。
第四章の終盤。
アレンは、
英雄ではなく、
管理者でもなく、
**同行者として、立ち位置を確定させた。**
それが、
今の彼の答えだった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




