↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された無能魔術師、実は全属性適性だったので辺境で最強になります  作者: 蒼月アルト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
97/121

第97話 同行者として

 帰路は、静かだった。


 空白地帯を抜けて管理網の内側へ戻ると、遠くの丘の上で装置が光っているのが見えた。規則的な明滅。一定の間隔。干渉可能な波長。ここでは、管理が正常に機能している。


「……安心しますね」


 若い技師が、その光を目で追いながらぽつりと呟いた。


「戻ってきたな」


 ミレナが小さく息を吐く。だが、その横顔はどこか落ち着かない。空白地帯で過ごした数日が、まだ身体のどこかに張りついたまま抜けていかないのだろう。


「報告は、どうする」


 リーファが、荷を背負い直しながらアレンに聞く。


「そのままだ」アレンは短く答えた。「装置無効、干渉不能型、杭による傾向記録。それだけでいい」


「……感情は?」


「書かない」


 リーファが、少し笑った。


「書けませんしね」


 空白地帯で覚えた恐怖も、幾度もよぎった迷いも、置いてきたはずの後悔も――制度の報告書には、どうやっても収まりきらない。書式のない欄に、それらは残る。


 やがて街の門が見えてきた。そこで、若い冒険者がふと足を止める。


「……俺」


 視線は、アレンに向かない。地面のあたりをさまよっている。


「戻ったら、どうなりますかね」


「どうなると思う」


「分からない」


 正直な答えだった。アレンは少しだけ考えて、口を開く。


「変わらない」


「え?」


「世界は、急には変わらない。空白地帯も、この管理世界も。……少しずつだ」


 若い冒険者は、詰めていた息を吐いた。


「じゃあ、俺たちのやったことに、意味は」


「ある」


 即答だった。若者が顔を上げる。


「意味は、その場では決まらない。後から、繋がる」


 空白地帯で下した判断。払った代償。打ち込んできた杭の記録。それらはすぐに形にはならない。だが、消えもしない。


 門をくぐる。頭上を、装置の光が一定のリズムで撫でていった。安心と、それに混じるわずかな違和感。


 ミレナが、隣を歩くアレンを見た。


「……ありがとうございました」


「何がだ」


「決めなかったこと」


 アレンは、少し目を細める。


「決めなかったんじゃない。横にいただけだ」


 同行者。裁定者ではないし、指導者でもない。相手の間違いを止めはしない。ただ、一人にはさせない。それだけの場所に、自分を置いている。


「次は」ミレナが、前を向いたまま言う。「もう少し、自分で迷います」


「それでいい」


 街の喧騒が、耳に戻ってきた。物売りの声。荷車の軋み。子どもの笑い声。空白地帯は背後にある。だが、切り離されたわけではない。門の内と外は、同じ一続きの地面で繋がっている。


 英雄でもなく、管理者でもなく。アレンは、そのどちらでもない立ち位置を、今ようやく自分の重心にした。


 技師が、思い出したように口を開く。


「そういえば、ロイドさんが……戻り次第、会議室へ来いと」


 荷を担ぎ直すとき、紐の締め方が変わっているのに気づいた。肩に食い込まない結び方だ。誰の手かは分かる。分かるが、礼を言う機会は、今日も来なかった。


 アレンは軽く頷いた。持ち帰るべきものは、まだ荷の中で重い。

持ち帰った杭の記録は、数値にならない“傾向”です。次話、それを制度がどう扱うのかが問われます。

荷の中で重いままの記録がどう扱われるのか気になった方は、一押しを、どうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。