第76話 踏まなかった街
その街は、地図の端にある。
交易路から外れ、
豊かな資源もなく、
人口も多くはない。
だからこそ――
境界管理の「優先順位」は低かった。
「装置は、一基だけです」
街の代表が、淡々と説明する。
「全域をカバーできません」
「技師の常駐も、ありません」
「……不安は?」
俺が聞くと、
代表は少し考えてから首を振った。
「不安は、あります」
「でも」
「任せきりには、できません」
この街は、境界管理を拒否したわけではない。
ただ、“全面導入”を選ばなかった。
装置は使う。
だが、判断は手放さない。
境界が出た時。
鐘が鳴り、
人が動き、
子供が走る。
誰かが叫ぶ。
「西側は使うな!」
「南門へ回れ!」
完璧ではない。
混乱もある。
避難は、遅い。
境界は拡大し、
倉庫が一つ、崩れた。
負傷者が出た。
軽傷だが、ゼロではない。
「……管理していれば」
同行していた技師補佐が、思わず口にする。
街の代表は、否定しなかった。
「そうでしょうね」
「被害は、もっと減った」
「でも」
彼は、境界を見つめて言う。
「これは、私たちの判断です」
境界は、やがて消えた。
街は、傷を負ったままだ。
だが、人々は集まり、片付けを始める。
誰も、責任の所在を探さない。
誰かを責めない。
「……後悔は?」
俺が、代表に聞く。
「あります」
彼は、はっきり答えた。
「でも」
「次は、もう少し早く動ける」
失敗を、
次の判断に使う。
それが、この街のやり方だ。
丘の上。
風に当たっていると――
「不器用だな」
旅装の男が、静かに言う。
「……ああ」
「被害も出た」
「効率も悪い」
「それでも」
男は続ける。
「ここは、折れない」
俺は、頷いた。
管理を選ばなかったのではない。
管理に、委ねきらなかった。
それだけで、
人は――考え続ける。
追放された無能魔術師は、この日――
**踏まなかった街が、
完全ではなくとも、
自分の足で立っていることを見届けた。**
便利ではない。
安全でもない。
それでも。
選択が、
ここには残っていた。
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