第7話 信頼
リーファの村は、森を抜けた先にあった。
柵はあるが低く、ところどころ壊れている。
家々も古く、修繕が追いついていないのが一目で分かった。
(……魔物被害、相当だな)
村の入り口に近づくと、数人の村人がこちらに気づいた。
「リーファ!?」
「無事だったのか!」
駆け寄ってくる大人たち。
その中に、白髪混じりの壮年の男がいた。
「……この方は?」
警戒する視線が、俺に向けられる。
当然だ。
辺境では、知らない人間はそれだけで危険になる。
リーファが一歩前に出た。
「村長、この方が……私を助けてくれました」
「魔物に囲まれていたところを……」
村長と呼ばれた男――バルドが、目を見開く。
「……一人で、ですか?」
「はい」
短い返答だったが、はっきりしていた。
村人たちの空気が、ざわりと変わる。
「そ、そんな……」
「冒険者でも数人がかりなのに……」
視線が集まるのが分かる。
だが、王都のそれとは違った。
値踏みじゃない。
恐れと、驚きと、わずかな希望。
バルドは、俺の前に立ち、深く頭を下げた。
「村を代表して、礼を言わせてください」
「娘を助けてくださり、ありがとうございます」
「……頭を上げてください」
「俺は、当たり前のことをしただけです」
本心だった。
放っておけなかった。
それだけだ。
村に案内され、簡単な手当を受ける。
リーファの怪我は軽く、治癒魔法で完全に塞いだ。
その様子を見ていた村人たちが、息を呑む。
「……治癒魔法まで」
「しかも、あの精度……」
ひそひそと声が上がる。
だが、誰も俺を責めない。
見下しもしない。
それだけで、胸の奥が少し痛んだ。
(……こういうの、久しぶりだ)
粗末だが温かい食事が振る舞われた。
パンとスープ、干し肉。
王都の豪華さには遠く及ばない。
それでも、不思議と満たされる。
「……美味しいです」
そう言うと、村人たちが一斉に笑った。
「よかった」
「それしか出せなくてな」
夜になり、焚き火を囲む。
バルドが、ゆっくりと話し始めた。
「この村は、王国から見捨てられています」
「魔物が増えても、冒険者は来ない」
「税だけは、きっちり持っていかれるがな」
苦笑混じりの声。
リーファが唇を噛む。
「……だから、私が」
「少しでも役に立てればって……」
無茶をした理由が、分かった。
俺は、焚き火を見つめながら言った。
「……しばらく、ここに滞在してもいいですか」
その言葉に、全員が顔を上げる。
「魔物の数、減らせると思います」
「少なくとも、今よりは」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、バルドが立ち上がった。
「ぜひ、お願いしたい」
「……いや、お願いさせてください」
村人たちも、次々に頭を下げる。
俺は、慌てて手を振った。
「そ、そんな」
「対価は、いりませんから」
バルドは、真っ直ぐに俺を見た。
「それでも、です」
「あなたは……この村の希望だ」
その言葉を聞いた時。
胸の奥で、何かが静かにほどけた。
無能。
不要。
足手まとい。
そう言われ続けてきた俺が――
初めて、“必要とされている”。
夜空には、星が瞬いていた。
追放された無能魔術師は、
この小さな村で、確かな信頼を得た。
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