第58話 違う救い方
境界を踏んだ話は、すぐに広まった。
ハインツの名も。
救われた二人の話も。
そして――
失われた“代償”の噂も。
「……使えば、助かる」
「でも、何かを失う」
街の空気は、揺れていた。
正解を探している。
だが、正解は一つじゃない。
「……依頼です」
ロイドが、紙を差し出す。
件名:避難誘導と地形整備
発行元:北部共同体
備考:境界使用は禁止
「珍しいな」
「踏まないと、明記してある」
ロイドが言う。
「お前の噂を、聞いた連中だ」
現地は、山裾の集落だった。
地形は複雑。
崩れやすい。
境界が発生すれば、
一気に被害が広がる。
「……時間は?」
「三日」
村長が答える。
「それまでに、できることを」
三日。
境界を踏めば、数時間で終わる。
だが――
踏まない。
「リーファ」
「地脈の流れを、見てくれ」
「はい」
「俺は」
「避難路を、引く」
派手な魔法は、使わない。
地形を削り、
柵を立て、
人が迷わない道を作る。
冒険者も、村人も、
全員で動く。
時間はかかる。
だが――
「……できた」
三日目の夜、
避難路は完成した。
その翌日。
境界は、発生した。
だが――
人はいなかった。
被害は、建物だけ。
村人たちは、
静かに空を見上げている。
「……助かりました」
村長が、深く頭を下げる。
「踏まなくても」
「救えたんですね」
「ああ」
即効性はない。
効率も悪い。
だが、失われるものはない。
帰り道。
リーファが、ぽつりと言う。
「……地味ですね」
「地味だ」
「でも」
「私は、好きです」
「俺もだ」
丘の上で、
風に当たっていると――
「面倒な道を選んだな」
旅装の男が、現れる。
「……いつもだ」
「だが」
男は、遠くを見る。
「その道は、壊れにくい」
「時間はかかる」
「誰も称賛しない」
「それでも」
「残る」
俺は、空を見上げる。
「それで、十分だ」
追放された無能魔術師は、
この日――
踏まない選択にも、
確かな“救い方”があることを、
世界に示した。
派手ではない。
効率も悪い。
だが。
壊れない。
それが、
彼が選び続ける道だった。
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