第5話 本当の力
洞窟を出て、しばらく歩いた。
足取りは軽い。
空腹も、疲労も、不思議と感じない。
(……おかしいな)
崖から落ちて、魔物と戦って、覚醒して。
本来なら、立っているのがやっとのはずだ。
だが俺は今、平地を散歩している感覚だった。
辺境の森は静かだった。
小鳥の鳴き声、風で揺れる木々。
そのすべてが、妙に“はっきり”感じられる。
(魔力……か)
胸の奥を意識する。
そこには、尽きる気配のない何かがあった。
水瓶どころか、泉――いや、もっと大きい。
(……減らない?)
試してみたくなった。
俺は立ち止まり、周囲に人の気配がないことを確認する。
「……火」
呟いたわけじゃない。
ただ、そう思った。
次の瞬間、指先に炎が灯る。
小さな火球。
だが、込めた魔力は“意識的に多め”だ。
そのまま、前方の岩へ。
――轟音。
爆風とともに、岩が粉砕された。
「……」
思わず、言葉を失う。
今のは、学院で習う中級魔法を、
詠唱なしで、即座に撃ったようなものだ。
しかも。
(……まだ、全然余裕がある)
胸の奥を探るが、魔力はほとんど減っていない。
「……冗談だろ」
次は、風。
周囲の空気が唸りを上げ、木々が大きくしなる。
水を呼べば、地面に清水が湧き出た。
土を操れば、即席の防壁。
光を使えば、傷ひとつない回復。
闇を意識すると、影が俺の動きに合わせて揺れた。
「……全部、普通に使える」
いや、“普通”じゃない。
制御が、簡単すぎる。
魔法というより、
手足を動かしている感覚に近い。
俺は、深く息を吐いた。
(もし……)
もし、これを学院で見せていたら?
もし、追放されていなかったら?
――いや。
その考えは、すぐに切り捨てた。
「……どうでもいいな」
今さらだ。
あの場所に、俺の居場所はなかった。
力があろうとなかろうと、結果は同じだっただろう。
大事なのは、これからだ。
森の奥で、何かが動く気配がした。
魔物だ。
先ほどよりも、はっきりと分かる。
数は――三。
(……試しに)
俺は、逃げるでも隠れるでもなく、
普通に、そちらへ歩いた。
茂みを抜けると、牙を剥いた魔物たちがこちらを見ていた。
中型。単体でも危険な部類だ。
だが。
「……悪いけど」
俺は、立ち止まる。
「今の俺、ちょっと確認中なんだ」
次の瞬間。
一歩も動かず、魔法だけで殲滅した。
炎と風が交錯し、魔物は抵抗する間もなく倒れる。
静寂。
俺は、自分の手を見つめた。
「……強すぎないか、これ」
正直な感想だった。
努力も、修行も、いらない。
思っただけで、全部できる。
(……そりゃ、測定できないわけだ)
E判定で当然だ。
こんな魔力、普通の基準に当てはまるはずがない。
俺は、ゆっくりと歩き出す。
辺境の街は、もうすぐだ。
「……冒険者、か」
王都で否定された道。
だが、今なら分かる。
ここなら、誰にも奪われない。
力が、そのまま“評価”になる。
無能と呼ばれた魔術師は、
自分の力に、ようやく確信を持った。
――これは、間違いなく。
最強の力だ。
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