第49話 相談という名の依頼
その依頼は、最初から妙だった。
掲示板ではなく、
ギルドのカウンター奥。
封はされていないが、
誰にでも見せる気もない書式。
「……正式な相談、ですか」
受付嬢が、困ったように言う。
「依頼、ではないそうで」
「ただ……話を聞いてほしいと」
ロイドが、俺を見る。
「どうする?」
俺は、紙に目を落とす。
件名:境界現象に関する意見交換
発行元:非公開
備考:決定権は、あくまで依頼主側にある
嫌な予感しかしない。
「……行くだけ、行く」
「引き受けるんですか?」
リーファが、少し警戒した声で言う。
「引き受けない」
「話を聞くだけだ」
それを、はっきりさせておく。
場所は、街の外れにある小さな会館だった。
中にいたのは、三人。
商人風の男。
学者風の女。
そして――冒険者。
全員、どこか距離を測る目をしている。
「お時間をいただき、感謝します」
学者風の女が言った。
「アレン・フェルド殿」
「要件を」
俺は、椅子に座らず答える。
女は、少しだけ息を整えた。
「近頃、境界現象と呼ばれる事例が増えています」
「我々としては――」
「対処法を、知りたい」
商人が、言葉を継いだ。
「……対処?」
「ええ」
「被害が出る前に」
「どうすればいいのか」
俺は、静かに言う。
「それは、相談じゃない」
空気が、止まる。
「……どういう意味ですか」
冒険者が、眉をひそめる。
「相談は」
俺は、視線を一人ずつに向ける。
「決断を、共有する行為だ」
「だが、これは違う」
「判断を、俺に預けて」
「結果は、自分たちで決めるつもりだろう」
沈黙。
否定は、なかった。
女が、言葉を選ぶ。
「……あなたは」
「境界に詳しいと聞いています」
「詳しくない」
即答だった。
「ただ」
「踏まないことを、選んできただけだ」
商人が、苛立ちを隠せない様子で言う。
「では、どうすればいい」
「何もしないで、被害が出たら――」
「それは」
俺は、遮る。
「あなたたちの判断だ」
冷たい言い方に聞こえたかもしれない。
だが、事実だ。
「俺は」
「相談には乗る」
「だが」
「決断を代わりに下す気はない」
学者風の女が、目を伏せた。
「……責任、ですか」
「そうだ」
立ち上がる。
「境界は」
「触ると、戻れないことがある」
「だから」
「誰が踏むのかを、はっきりさせない限り
話は、できない」
冒険者が、拳を握る。
「……あなたは」
「冷たい人だ」
「そうかもしれない」
否定はしない。
「でも」
「それで、壊れなかった場所を、俺は知っている」
会館を出ると、
夕方の風が、少し強かった。
リーファが、静かに言う。
「……断ったんですね」
「ああ」
「後悔は?」
「ない」
相談という形で、
責任を薄めるのは――
一番、境界を壊す。
ギルドへ戻ると、
ロイドが、肩をすくめた。
「噂になるぞ」
「“相談にも厳しい冒険者”だってな」
「結構だ」
むしろ、
その方がいい。
追放された無能魔術師は、
この日――
“相談される側”になることと、
“責任を背負うこと”は、
別物だと明確に線を引いた。
境界は、
踏まなければ、壊れない。
だが。
踏みたい者は、
必ず――別の道を探す。
それを、
彼は、もう分かっていた。
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