↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された無能魔術師、実は全属性適性だったので辺境で最強になります  作者: 蒼月アルト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/121

第44話 放置された者たち

 記録は、埃をかぶっていた。ギルドの奥、普段は使われない資料棚。


「……こんな場所に、まだ残ってたんですね」


 リーファが、小さく息を吐く。


「残ってただけだ。読まれなかった」


 それが、正確な表現だった。


 発端は、ユイのことだった。“境界が見える子供”。珍しい。だが――前例が、ないはずがない。


「これだ」


 一冊の古い報告書を取り出す。年号は、今から二十年以上前。


件名:感覚異常を訴える少年について

所属:辺境第三教区

判定:魔力反応なし

結論:精神的要因の可能性が高い


「……精神的要因」


 リーファが、眉をひそめる。俺は、指先で埃を払いながらページをめくった。


補足:

少年は「音が消える」「道が重なる」と証言。

再現性なし。

周囲との意思疎通に問題が生じている。


 さらにめくる。最後の記述は、短かった。


経過:

周囲の理解を得られず、家族と衝突。

十六歳で家を出奔。

以降、消息不明。


 そこには、名前だけが残っていた。会ったこともない少年の名が、乾いた紙の上から、俺を見上げている気がした。


「……これ」


 リーファが、声を落とす。


「ユイと、同じ……」


「ああ」


 違うのは、時代だけだ。理解されなかった。説明できなかった。そして――放置された。


「他にも、あります」


 リーファが、別の冊子を取り出す。共通点は、同じだった。魔力反応なし。再現性なし。危険性不明。経過観察のすえ、打ち切り。


「……誰も、悪くない」


 俺はそう呟いた。当時の人間に、境界という概念はなかった。理解できないものを、扱えるはずもない。


「でも」


 リーファが言う。


「誰も、救われてない」


「そうだ」


 それが、事実だった。資料を閉じる。乾いた紙の音が、やけに大きく響いた。


「……ユイは」


 俺は言う。


「同じ道を、辿らせない」


 即答だった。だからといって、特別扱いもしない。守りすぎれば、彼は“世界”から切り離される。それもまた、別の形の放置だ。


 帰り道。夕暮れの街で、ユイが店番をしていた。


「あ」


 少年が、俺に気づく。


「お兄ちゃん」


「……元気か」


「うん」


 迷いのない返事。それが、何より救いだった。


「ね」


 ユイが、ぽつりと言う。


「昔も、見えた人いた?」


「いた」


 俺は、正直に答える。


「でも、誰も、気づかなかった」


 ユイは少し考え、それから、軽く肩をすくめた。


「じゃあ、ぼくは、運がいいね」


 その言葉に、胸の奥が、わずかに痛んだ。運がいい――それは、たまたま誰かが、彼の前で“線を踏まなかった”というだけの、細い偶然だ。


「……そうだな」


 俺は、それだけ返した。


 二十年前の少年は、独りで消えた。ユイは、店の灯の下で笑っている。その違いは、才能でも運命でもない。ただ、気づく者がいたかどうか、それだけだった。


 店の主が、勘定を受け取らなかった。あんたが街にいる日は、うちの子を暗くなっても外へ出せる――それだけ言って、奥へ引っ込んでしまう。


 だから俺は決める。踏み越えない。だが、目を逸らさない。見えないふりをする側には、二度と回らない。

見えてしまう者の話をしました。次は、見ないでいることを選んだ道の話を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。