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追放された無能魔術師、実は全属性適性だったので辺境で最強になります  作者: 蒼月アルト


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43/121

第43話 見える者

 その依頼は、掲示板の一番下に貼られていた。紙は古く、文字も薄い。だが、なぜか目に留まる。


件名:子供の話を、聞いてほしい

依頼主:東街区・雑貨屋

備考:危険はないと思うが、放っておけない


「……これ」


 リーファが、小さく言う。


「討伐でも、調査でもないですね」


「ああ」


 だが、“人が取り残されている”。対応基準の一つ目に、合致する。


「行こう」


 雑貨屋は、小さな店だった。依頼主は初老の女性で、困ったような、不安なような顔で頭を下げる。


「すみませんね。冒険者さんに、こんなこと……」


「話を、聞くだけでいい」


 奥から、子供が出てきた。十歳前後の少年。怯えた様子はない。ただ――落ち着きすぎている。


「……君が?」


 少年は俺を見るなり、首を傾げた。


「お兄ちゃん。さっき、いなかったよね」


 その一言で、空気が変わった。


「……どういう意味だ?」


「今」


 少年は、指で空をなぞる。


「ここ、二重になってる」


 リーファが、息を呑む。


「……見えてる?」


「うん」


 少年は、あっさり頷いた。


「みんな、気づかないけど。道が、ずれてる」


 俺は静かに周囲を見た。魔力は正常。地脈も安定。だが、確かに薄い。境界が、店の中だけわずかに揺れている。


「……いつからだ」


「ずっと」


 少年は平然と言う。


「小さい頃から。世界、たまにズレる」


 息が、一瞬止まった。俺だけじゃなかったのか、と、指先が冷たくなる。俺はしゃがみ、目線を合わせた。


「怖くないか?」


「うん。でも、分からない人が困る」


 その言葉が、妙に重い。


「だから」


 少年は続ける。


「お兄ちゃんが来るの、分かった」


「……なぜ?」


「線を、踏まないから」


 リーファが、息を詰める。


「線……」


「踏む人は」


 少年は言う。


「世界、壊す」


 俺はゆっくり立ち上がった。これは、偶然じゃない。


「……名前は?」


「ユイ」


 短い名前だ。


「ユイ」


 俺は静かに言う。


「ここは、少し危ない」


「分かってる。でも、逃げると、もっとズレる」


 その感覚は、正しい。


「……しばらく、俺たちが、見る」


 母親代わりの女性が、慌てて言う。


「そんな……この子、普通の子で……」


「普通です」


 俺は即答した。


「ただ、見えるだけだ」


 それが一番厄介で、一番、救われない違いだった。


 店を出る時、ユイがぽつりと言った。


「お兄ちゃん。境界、広がってるよ」


「知ってる」


「でも」


 少年は少しだけ笑う。


「まだ、戻れる」


 その言葉に、理由のない確信が宿った。


 ギルドへ戻る途中、リーファが静かに言った。


「……アレンさん。今まで、“特別”だったのは」


「俺だけじゃ、なかった」


「ああ」


 それが分かっただけでも、今日の依頼には価値があった。ずっと一人だと思っていた感覚に、初めて他人の輪郭が重なる。


 隣を歩くリーファが、その言葉に何か返しかけて、やめた。代わりに、俺の右側から左側へ、風上になるほうへ回り込む。それだけだった。


 だが同時に、俺は嫌なことにも気づいていた。世界は、こういう“見える者”を、これまでずっと見えないふりで通り過ぎてきたはずだ。ユイの前にも、独りで“ズレる世界”に立っていた誰かが、きっといた。その名前を、俺は無性に知りたくなっていた。

珍しい、と誰かが言うとき、たいていは前例が読まれていないだけです。

ユイの「見える」を頭ごなしに否定しなかった大人がいたことに救われた方は、★をひとつ、置いていってください。

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