第4話 目覚め
――静かすぎた。
つい先ほどまで、確かにこの洞窟には“死”が満ちていたはずなのに。
今は、耳鳴りがするほどの静寂だけが残っている。
俺は、呆然とその場に立ち尽くしていた。
「……俺が……?」
視線の先。
さっきまで魔物がいたはずの場所には、何もない。
血も、肉片も、残骸すら――ない。
消えた。
“消された”。
震える手を、ゆっくりと見つめる。
恐怖じゃない。
戸惑いでもない。
胸の奥で、何かが燃えている。
(……生きてる)
それが、はっきりと分かった。
さっきまで全身を支配していた痛みは消え、
呼吸は深く、身体は軽い。
――異常だ。
落下して、魔物に囲まれて、
生きているだけでも奇跡のはずなのに。
なのに、俺は今――
“完全な状態”だった。
「……ふざけるなよ」
喉の奥から、低い声が漏れる。
これまでの人生が、頭の中を駆け巡る。
測定のたびに笑われた。
努力しても、結果は変わらなかった。
無能と呼ばれ、切り捨てられた。
――全部、俺が弱かったからだと思ってた。
だが、違った。
俺は、そっと胸に手を当てる。
そこにあるのは、今まで感じたことのない“確かな力”。
(封印……されてた?)
次の瞬間、理解が“腑に落ちた”。
魔力がなかったんじゃない。
才能がなかったんじゃない。
最初から、閉じられていただけだ。
「……笑えないな」
怒りが、ゆっくりと湧き上がる。
奪われた時間。
踏みにじられた尊厳。
命すら、軽く扱われた現実。
だが――
今は、それ以上に強い感情があった。
試したい。
俺は、洞窟の壁に向かって手を伸ばす。
(――来い)
詠唱は、ない。
言葉も、ない。
ただ、意思だけ。
次の瞬間。
掌に、光が生まれた。
白く、柔らかく、温かい光。
触れた壁のひび割れが、音もなく塞がっていく。
「……治癒?」
息を呑む。
ありえない。
治癒魔法は高位属性。
学院で、俺は一度も成功したことがなかった。
なのに。
「……じゃあ」
今度は、熱を想像する。
光が、赤く染まった。
洞窟の空気が歪み、熱波が走る。
火。
風。
水。
土。
思考するたび、魔力は即座に応える。
拒否しない。
暴走しない。
迷いもない。
「……全部、だ」
声が、震えた。
「全属性……適性」
その言葉を口にした瞬間、
胸の奥で“何か”が完全に噛み合った。
――だから測定できなかった。
――だからE判定だった。
――だから、無能扱いされた。
笑えてくる。
いや、笑えない。
「……はは」
乾いた笑いが、洞窟に響く。
「俺の人生、測定器一つで決められてたってわけか」
だが、もういい。
今さら評価はいらない。
許しも、理解も、必要ない。
俺は、拳を握る。
(――生きる)
それだけでいい。
洞窟の出口へ向かう。
暗闇の中でも、足取りは迷わなかった。
魔力の流れが“見える”。
空気が“読める”。
外へ出た瞬間、朝日が差し込んだ。
眩しい。
だが、目を逸らさなかった。
冷たい風が、頬を打つ。
「……ああ」
思わず、声が漏れる。
「生きてるな、俺」
王都は遠い。
学院も、仲間も、もうどうでもいい。
ここから先は、誰のものでもない。
無能と呼ばれ、追放された魔術師は――
この瞬間、本当の意味で目を覚ました。
辺境で最強になる物語は、ここから始まる。
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