第32話 選択
王都の使者が去ったあと、
辺境の街は、奇妙な静けさに包まれていた。
誰もが、状況を理解している。
――王都が頭を下げた。
――異変は、深刻だ。
――そして、それを止められるのは、俺しかいない。
ギルドの前に、自然と人が集まってきた。
誰かが叫ぶわけでもない。
責める声も、命令もない。
ただ、待っている。
「……アレンさん」
最初に口を開いたのは、
街道沿いの小さな村の代表だった。
「王都のことは、正直どうでもいい」
「でも……この辺りで、暮らしている人間がいます」
続いて、商人が一歩前に出る。
「街道が止まれば」
「村も、街も、終わります」
老人が、静かに言った。
「わしらは」
「あんたに、命令できる立場じゃない」
そして。
「……それでも」
「助けてほしい」
その言葉は、重かった。
俺は、何も言わず、彼らを見る。
追放された時。
誰も、こんなふうに声をかけてはくれなかった。
リーファが、そっと俺の隣に立つ。
「……どうしますか」
答えは、もう決まっていた。
だが、口に出す前に――
自分の中で、整理する必要があった。
(俺は、王都のために動くんじゃない)
(復讐のためでも、評価のためでもない)
俺は、一歩前に出る。
「……分かりました」
小さな声だったが、
空気が変わる。
「王都のためじゃない」
「あなたたちのために、動きます」
ざわめきが、安堵に変わる。
「ただし」
俺は、続ける。
「俺がやるのは」
「“直す”ことだけです」
首を振る。
「統治もしない」
「権力も、名誉もいらない」
「異変を止めたら」
「俺は、また冒険者に戻ります」
一瞬の沈黙。
次の瞬間。
「……それで、いい」
「それが、あんたらしい」
誰かが笑った。
ロイドが、腕を組んで頷く。
「聞いたな」
「こいつは、英雄になりたいわけじゃない」
「……ただの」
「腕のいい冒険者だ」
俺は、苦笑した。
その夜。
街外れの丘で、
俺は地脈の流れを感じていた。
(……やっぱり、根は深い)
だが。
恐怖は、なかった。
やる理由が、はっきりしたからだ。
追放された無能魔術師は、
この日――
立場でも、命令でもなく、
“自分の意思”で戦うことを選んだ。
それが、
最後の戦いになるとしても。
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