第33話 解決
地脈の中心は、街道から外れた古い制御跡にあった。苔むした石柱がいくつも立ち並び、その足元で魔法陣が崩れかけている。そこから、歪んだ魔力が糸を引くように滲み出していた。
「……これが」リーファが、息を呑む。「王都が昔使った、制御術式ですか」
「ええ」俺は、静かに頷いた。「単属性で無理やり押さえ込んだ。そのツケが、今になって噴き出しているんです」
王都式の魔術は効率的だ。だがそれは、世界を単純な一枚岩として扱うことで成り立っている。実際の世界は、そんなに割り切れるものではない。
俺は、ゆっくりと地面に手を置いた。魔力を、流す――いや、流さない。
火、水、風、土。そこに光と闇を加えた六つの属性を、同時に“感じる”。どれか一つを強く押し出せば、必ず別のどれかが歪む。だから、しなければならないのは、ただ一つ。均すことだ。
全属性を同じ重さで扱う。主張せず、押し付けず、ただ元の流れへと戻していく。
地面が低く鳴った。
「……来ます」リーファが、身構える。
だが暴走は起きなかった。荒れ狂っていた魔力が、なだめられた獣のように、ゆっくりと静まっていく。
「……安定、していく」ロイドが、呆然と呟いた。「嘘だろ……魔力嵐が、消えていく……」
石柱を走っていたひびが、音もなく閉じる。歪んでいた魔法陣が、ただの古い石へと戻っていった。
――終わった。俺は深く息を吐いた。
「……これで、もう暴走しません」
立ち会っていた王都の魔術師たちが、震える声を漏らす。「……なぜだ。我々には、できなかったのに」
俺は振り返らずに答えた。「やり方が、違うだけです」
それは、負け惜しみでも慰めでもなく、ただの事実だった。「全属性適性は、強さじゃない。干渉しすぎないための資質です。だから、測定では数値が出なかった。互いに相殺し合って、ゼロに見えていただけだ」
無能だったわけではない。ただ、あの物差しに、載らなかっただけのことだ。
地脈は静かだった。見上げれば、澱んでいた空気も澄み、遠くの空まで見通せる。長く辺境を蝕んできた異変は、この一手で、確かに息を止めた。息を止めただけだ、と胸のどこかが言った。
あとは、静けさが戻った街へ帰るだけだ。だが――王都が、この結末をどう受け止めるのか。その答えは、まだ出ていなかった。
長い異変が息を止めた、その五日後。王都から一通の封書が届きます。次話、その中身と、彼の答えを。
「無能だったわけではない。あの物差しに、載らなかっただけ」が刺さった方は、一押しを、どうぞ。




