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追放された無能魔術師、実は全属性適性だったので辺境で最強になります  作者: 蒼月アルト


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第3話 死の淵

 どれほどの時間、落ち続けたのか分からない。


 風を切る音も、恐怖も、途中で消えた。

 次に意識を取り戻した時、俺は冷たい岩の上に横たわっていた。


「……っ」


 喉から、かすれた声が漏れる。

 全身が軋むように痛い。指先ひとつ動かすだけで、激痛が走った。


(……生きてる?)


 ぼんやりとした視界の端で、淡い光が揺れている。

 どうやら、ここは崖下の洞窟らしい。上から差し込む月明かりが、床の岩を照らしていた。


 落下の衝撃で、身体のあちこちを打ったのだろう。

 息をするたび、胸が痛む。


(これで……終わりか)


 王都を追われ、護送の途中で囮にされ、崖から突き落とされた。

 誰も助けに来ない。

 ここで死んでも、きっと誰も気にも留めない。


 そう思った瞬間、胸の奥に、ぽっかりと穴が開いた。


 ――悔しい。


 怒りよりも、悲しみよりも、先にその感情が湧いてきた。


(俺は……何も悪いことをしていない)


 努力が足りなかったのかもしれない。

 才能がなかったのかもしれない。


 それでも――

 命を切り捨てられる理由には、ならないはずだ。


「……っ」


 身体を起こそうとした、その時。


 洞窟の奥から、低い唸り声が響いた。


 ぞくり、と背筋が凍る。


 暗闇の向こうで、赤い光が二つ、こちらを見つめていた。

 魔物だ。


 しかも、ただの一体ではない。

 気配が重い。空気が、張り詰めている。


(……ここまでか)


 逃げ場はない。

 戦う力も、武器もない。


 それでも、不思議と心は静かだった。


(せめて……最期くらい、自分で選びたかったな)


 その瞬間。


 胸の奥で、何かが“ひび割れる”感覚がした。


 痛みではない。

 熱でもない。


 もっと深い――

 存在そのものが、揺さぶられるような感覚。


「……?」


 息が、楽になっている。


 さっきまで身体を締め付けていた痛みが、少しずつ引いていく。

 代わりに、胸の中心がじんわりと温かくなっていった。


 視界が、淡く光る。


 俺の身体から、微かな光粒が立ち上っていた。


(……なんだ、これ)


 次の瞬間、頭の奥に“声”が響いた。


『――条件、達成』


 無機質で、感情のない声。


『生存率、零に近似』

『封印解除、実行』


「……封印?」


 言葉を発した途端、光が強まる。


 洞窟全体が震え、奥にいた魔物が怯えたように後ずさった。


 身体の奥から、今まで感じたことのない“何か”が溢れ出してくる。

 息をするだけで、世界が鮮明になる。


 音が、匂いが、魔力の流れが――分かる。


(……これ、は)


 俺は、無意識のうちに手を伸ばしていた。


 詠唱は、していない。


 それでも――


 空間が、歪んだ。


 次の瞬間、洞窟を満たす眩い光が、魔物たちを飲み込んだ。


 轟音。


 そして、静寂。


 光が収まった時、そこに立っていたのは――

 震える足で、呆然と前を見つめる俺だけだった。


「……生きてる?」


 誰にともなく、そう呟く。


 胸の奥では、まだ温もりが脈打っている。


 何かが、確実に変わった。

 戻れないところまで、来てしまったのだと――直感した。


 だが、不思議と怖くはなかった。


 むしろ。


(……やっと、だ)


 長い間、閉じ込められていた何かが、

 ようやく目を覚ましたような気がした。


 洞窟の奥で、何かが静かに、崩れ落ちる音がした。


 ――物語は、ここから本当に動き出す。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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