第21話 再会
王都魔術学院の中庭は、以前と少しも変わっていなかった。刈り揃えられた芝生。白い石畳。空気にまで、選ばれた者だけがここに立てるのだという傲慢さが染みついている。懐かしくはあった。だが、郷愁と呼べるほど甘い感情は、もうどこにも残っていない。
「これより、王都特別調査任務の編成を発表する!」
魔術局の役人が、名簿を広げる。参加者たちが、ざわめきながら耳を傾けた。
「――カイル・ローデン」
「――セシリア・ヴァイス」
二人は、当然のように前へ出た。自信に満ちた表情。呼ばれるのを、はなから疑ってもいない足取り。
そして。
「――アレン・フェルド」
名を呼ばれた瞬間、その場の空気が、一拍だけ止まった。
カイルが、怪訝そうにこちらへ首を巡らせる。
「……フェルド?」
数秒の沈黙。やがて、彼の顔に嘲るような笑みが広がった。
「……ああ、思い出したぞ。無能で追放された、あのアレンか」
周囲が、ざわつく。
「追放?」
「本当に、あの?」
セシリアが、扇でも隠すように上品に口元を押さえた。
「まあ……まさか、こんな場所に呼ばれるなんて」
俺は、何も言わなかった。反論も、訂正もしない。事実は、これから勝手に語り出す。俺が口を挟むまでもない。
その静けさが、かえって二人の優越感を刺激したらしい。
「運が良かっただけだろ」
カイルが、肩をすくめる。
「辺境は人手不足だ。雑魚でも、頭数に呼ばれる」
リーファが、隣で息を詰めるのが分かった。何か言い返そうと、唇が動きかけている。だが、俺は軽く手のひらを向けて、それを止めた。まだだ。ここで熱くなるのは、こちらの負けだ。
役人が、咳払いをした。
「静粛に。続ける」
名簿を見下ろし、淡々と告げる。
「今回の任務では、現地判断権限を――アレン・フェルドに付与する」
一拍、置いて。
「……は?」
カイルの声が、素で裏返った。
「な、何を言っているんですか。彼は、E判定の――」
「異論は受け付けない」
役人の声は、氷のように平坦だった。
「北部街道異変の解決は、アレン・フェルド単独の成果と認定されている」
ざわめきが、一気に膨れ上がる。
「単独……?」
「嘘だろ……」
セシリアの笑みが、貼りついたまま凍りついた。
「……それは、記録の誤りでは?」
「誤りではない」
役人は、手にした書類を掲げてみせる。
「ギルドマスター・ロイド、複数の冒険者、現地報告――すべて一致している」
カイルが、俺を睨みつけた。信じたくない、という色が、はっきりと顔に出ている。
「……お前が? 本当に、あの魔物を?」
俺は、ようやく口を開いた。
「事実です」
それだけだ。だが、その短い一言は、かつての“無能”から零れるものとは、声の重みからして違っていた。カイルが、わずかに息を呑むのが分かった。
役人が、続ける。
「よって、本任務では、アレン・フェルドを中心に行動する」
「カイル・ローデン。セシリア・ヴァイス」
二人の名を、淡々と呼ぶ。
「――彼の指示に従え」
沈黙が落ちた。物音ひとつない、完璧な沈黙。
カイルの顔が、みるみる赤く染まっていく。
「……冗談だろ」
セシリアが、絞り出すように声を漏らした。
「これは……屈辱ですわ」
俺は、静かに二人を見た。怒りもない。勝ち誇る気も、湧いてこない。ただ、やるべき仕事が目の前にあるだけだった。
「任務です。感情は、後にしてください」
それだけ言った。かつて俺を切り捨てた二人が、今は俺の背中を追う立場に回っている。
――ざまぁ、と呼ぶには、まだ足りない。二人は口では認めていないし、意趣返しらしい意趣返しは、何ひとつ返していない。だが、この編成表が読み上げられた瞬間、立場という一点だけは、もう静かに裏返っていた。あとは、任務の現場が、どちらが本物かを突きつけるだけだ。
肩書きが逆転しても、態度のほうはすぐには追いつきません。それを決めるのは口ではなく、任務の現場です。




