↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された無能魔術師、実は全属性適性だったので辺境で最強になります  作者: 蒼月アルト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/121

第20話 静かな怒り

 王都アストリアの白い城壁が見えた時、俺は思わず足を止めた。


 ――変わっていない。


 高く、堅く、見る者を圧するように聳える城壁。門を絶え間なく行き交う人の波。掃き清められ、石ひとつ転がっていない街道。何もかもが、追放されたあの日のままだった。


 それでも、遠く感じる。距離の話ではない。同じ景色を前にして、自分の立っている場所だけが、すっかり別のものになっていた。


「……ここが、アレンのいた場所なんですね」


 リーファが、城壁を見上げて小さく呟く。


「ああ。俺が“無能”だった場所だ」


 皮肉でも、自嘲でもなかった。ただの事実として、口にした。


 門をくぐると、王都特有の匂いが肌にまとわりついてくる。香を焚きしめた衣装、磨かれた石畳、そして人いきれ。行き交う視線は多いが、どれも冷たく、他人へ関心を払わない。ここでは、実力より“立場”が先に人を値踏みする。辺境のギルドとは、空気の重さからして違った。


 魔術局が指定した集合場所は、皮肉なことに、かつて俺が通った魔術学院の一角だった。石畳を踏むたびに、覚えのある感触が足裏から這い上がってくる。


「……ここで、待機を」


 案内の役人が、こちらを見もせずに事務的に告げた。


 中庭には、すでに何人かの参加者が集まっていた。高価な装備。隙のない身のこなし。選ばれた者だという自負を、誰もが薄く漂わせている。


 その中に――見覚えのある後ろ姿があった。


 乱れひとつない金髪。まっすぐに伸びた背筋。カイルだ。そして、その隣。上品に微笑み、周囲と談笑する少女。セシリアだった。


 二人の姿を認めた瞬間、みぞおちの奥で、何かが静かに動いた。だが、それは怒りでも憎しみでもない。もっと乾いた、確かめずにはいられない疼き。


 本当に、俺はもう違う場所に立てているのか。それを、あの二人の顔を前にしても揺らがずにいられるか――試されているのは、むしろ俺自身だった。


 リーファが、俺の袖を軽く引く。


「……大丈夫、ですか」


「ああ」


 短く答える。ちょうどその時。


 カイルが、ふと顔を上げ、こちらを見た。一瞬、視線が交わる。彼は、軽く首を傾げた。


「……誰だ?」


 その一言で、全てが分かった。俺はもう、彼にとって“見下す価値すらない存在”ですらない。ただの、名も知らぬ冒険者。眼中から、きれいに消え去っている。


 それでいい。むしろ、それでこそ意味がある。憎まれるより、忘れられているほうが、これから覆すのに都合がいい。


 セシリアも、ちらりとこちらへ目を向けた。だが、装備の質でも見定めたのか、すぐに興味を失って視線を戻す。俺は、ただ静かに息を吸った。ここで声を荒げる必要はない。言葉も、証明も、これから全部、向こうから揃えに来る。


 役人が、声を張り上げた。


「――これより、王都特別調査任務の説明を行う!」


 全員の視線が、前に集まる。俺は、一歩だけ前へ出た。かつて自分を切り捨てた世界の、その中心に。


 まだ、何も言い返してはいない。ざまぁと呼ぶには、早すぎる。だが、逃げ場のない盤の上に、追放した側とされた側が、今こうして並んで立っている。あとは、駒が動くのを待つだけだ。


 ――第1部、完。

第1部、ここまでお読みいただきありがとうございます。

追放した側と、された側。逆転した盤の上で――次の第2部、“ざまぁ”はここから動き出します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。