第19話 再会の予感
掲示板から剥がした依頼書は、手にした瞬間から異質だった。封蝋の重み。指に吸いつくような、上質な紙の手触り。これまで扱ってきた薄っぺらな依頼票とは、まるで格が違う。
――王都発行。
俺は、無言で内容に目を走らせた。
《王都特別調査依頼》
件名:北部街道および周辺地域の異変
依頼元:アストリア王国・魔術局
参加条件:Cランク以上相当
備考:調査対象に、元王都所属者を含む
最後の一文で、指が止まった。
「……元王都所属者?」
リーファが、不安そうに俺を見上げる。
「アレン……」
「大丈夫だ」
そう返したものの、喉の奥が、知らず干上がっていた。王都。魔術局。そして、“元王都所属者”。この三つが一枚の紙に揃うのが、ただの偶然であるはずがない。
「受けるか?」
背後から、ロイドが声をかけてきた。
「……ええ」
迷いは、なかった。
「理由は聞かない。だが、一つ忠告しておく」
ロイドは、声を落とした。
「この依頼は、調査という名の政治だ。成果より、立場が優先される」
「承知しています」
むしろ、よく分かっている。あの場所は、そういうところだ。数字より肩書きが人を裁く。俺は、身をもってそれを知っていた。
受付嬢が、遠慮がちに一枚の書類を差し出す。
「……こちら、参加者名簿です」
俺は、目を落とした。整った字で並ぶ名前を、上からなぞる。
――カイル・ローデン。
――セシリア・ヴァイス。
その二つで、視線が縫い止められた。時間の流れが、ほんの一瞬だけ、遅くなったように感じる。
リーファが、名簿を覗き込んで息を呑んだ。
「……知っている人、ですか」
「……ああ」
短く答える。憎しみが湧き上がるわけではなかった。怒りも、意外なほど遠い。ただ、指先だけが冷たく強張って、勝手に紙の端を折り曲げていた。巡り合わせというやつが、思ったより律儀に俺を追ってきただけの話だ。
ロイドが、静かに言う。
「お前を追放した連中だな」
否定はしなかった。
「……面白い巡り合わせだ」
「ええ」
俺は、名簿から目を上げた。
「でも、もう――俺は、あの時の俺じゃありません」
リーファが、そっと隣に立った。
「……私は、あなたの味方です」
その一言だけは、胸の奥にまっすぐ届いた。強張っていた指から、ふっと力が抜けていく。
「ありがとう」
俺は、依頼書を折りたたんで懐へ収めた。周囲の冒険者たちが、息を詰めて成り行きを見守っている。
「……あいつが、王都案件を」
「大丈夫なのか、ありゃ……」
俺は、振り返らなかった。かつてこの道を、俺は追放されて王都を離れた。今度歩くのは、呼び戻される道だ。同じ道でも、進む向きも足取りも、もう何もかもが違う。
外へ出ると、街道の先に、まだ見ぬ王都の方角がある。カイルとセシリア。あの二人が、俺の顔を見て何を言うのか。想像しても腹は立たなかった。ただ、確かめたいことが一つだけ、胸の奥ではなく、もっと乾いた場所で静かに芽を出していた。
――本当に不要だったのは、どちらだったのか。それを、あの場所で確かめる番だ。
次話、アレンは王都で“あの二人”と相見えます。切り捨てた側が、切り捨てた相手の顔をどこまで覚えているか。
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