第18話 噂
翌日、冒険者ギルドの空気は、明らかに違っていた。
「……聞いたか?」
「北部街道の件」
ひそひそと交わされる声。
視線が、時折こちらに向けられる。
(……広まったな)
当然だ。
ベテランが撤退した依頼を、新人が解決。
しかも、被害ゼロ。
隠せるはずがない。
「アレンさん」
受付嬢が、いつもより少し硬い表情で声をかけてきた。
「ギルドマスターがお呼びです」
「……応接室へ」
周囲が、一斉にざわつく。
「ギルドマスター?」
「あの若造が?」
俺は、軽く頷き、リーファと共に奥へ進んだ。
重厚な扉の向こう。
応接室には、一人の男が座っていた。
白髪交じり。
鍛え抜かれた体躯。
――只者じゃない。
「座れ」
短く、低い声。
俺たちは、向かいに腰を下ろした。
「私は、この街の冒険者ギルドを預かる者だ」
「名は、ロイド」
ギルドマスター。
「まず、礼を言う」
「北部街道の件、よくやってくれた」
「仕事をしただけです」
ロイドは、俺をじっと見つめる。
「……謙虚だな」
「だが、隠す必要はない」
彼は、一枚の書類を差し出した。
「これは、討伐隊からの報告書だ」
「“知性ある魔物”“人型使い魔”の記述がある」
やはり、把握されている。
「お前は、それを単独で処理した」
「違うか?」
「……はい」
ロイドは、ゆっくりと息を吐いた。
「正直に言おう」
「この街のギルドでは、手に余る案件だ」
その言葉に、リーファが息を呑む。
「だが」
「王都へ報告する前に、確認したいことがある」
ロイドは、身を乗り出した。
「お前は……」
「どこまで、見えている?」
俺は、少しだけ考えて答えた。
「魔物が、操られている」
「それも、単なる魔族じゃない」
「……ほう」
「世界の“歪み”に、関係している」
「まだ、全容は分かりませんが」
一瞬の沈黙。
ロイドは、苦笑した。
「……新人に聞く話じゃないな」
だが、その目は真剣だった。
「分かった」
「この件は、王都に正式報告する」
「それと」
彼は、机の引き出しから、金属製のカードを取り出す。
「仮措置だ」
「お前のランクを――C相当として扱う」
リーファが、思わず声を上げそうになるのを、俺は手で制した。
「異例だ」
「だが、実力は証明された」
「……ありがとうございます」
「礼はいい」
「その代わり」
ロイドは、真っ直ぐに俺を見る。
「面倒事が増えるぞ」
俺は、少しだけ笑った。
「……もう、慣れました」
応接室を出ると、
ギルド内の視線が一斉に集まる。
誰も、声をかけてこない。
だが、その沈黙は――敬意に近い。
「……すごいですね」
リーファが、小さく言う。
「もう、完全に有名人です」
「そうかもな」
掲示板を見る。
そこには、新しい依頼が貼られていた。
封蝋付き。
発行元――王都。
(……来たか)
追放した場所が、
今度は俺を必要としている。
追放された無能魔術師は、
この日――
辺境の噂から、王都の関心へと引き上げられた。
物語は、確実に次の段階へ進んでいる。
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